「――アサルト・ニュートラルボム、バトルスタート。爆弾が設置されました」
校内放送と同時に、TA上に黄色い文字で爆弾の方向と距離が表示された。美術室に待機していたチームチャーリータンゴのメンバー三人は、銃を構えて廊下に出た。
《今回の相手は素人や。しかも、コマンダーが付かず、ガールガンも持ってへんらしい。楽勝やな》
ボイスチャットを通じてコマンダーのシャーロットの指示が聞こえた。《とりあえず一華と二葉が前衛、三津恵が後方からフォローする形で、東側の出入口から中庭に出て爆弾を確保するんや》
「りょうかーい」
軽いノリで答える一華たち。今回のバトルはエキシビションなので、死んでもライフは消費しない。その分勝利してもポイントは得られないが、ご褒美として本戦で使用できる強力な武器が支給されるとのことだった。悪くない条件である。
三人は指示通り東側玄関前の中庭出入口に移動すると、アルミサッシの引き戸を開けて外に出た。銃を構えて中庭内をぐるりと見回すが、敵チームの姿は無い。中庭にはベンチや花壇の他、ところどころに運営が用意した腰の高さほどのブロックが設置されてある。身を隠しつつ銃を撃つカバー射撃用のブロックだ。また、それを飛び越えるためのトランポリンもいくつか設置されている。隠れる場所は豊富だが、全て銃撃戦を想定したものだ。銃を持っていない敵チームには、あまり意味が無いかもしれない。
三人は銃を構えたまま周囲を警戒しつつ中庭中央まで進む。敵チームに動きは無く、難なく爆弾を入手することができた。TAの表示が青に変わる。
「シャーロット? 爆弾を確保したよ」一華がボイスチャットで状況を伝える。「いまのところ、敵の姿は見えないね」
「なんだなんだ? ビビってるのか? 張り合いがないなぁ」一華の双子の妹である二葉が笑った。
《かもしれんけど、相手は銃を持ってないから、正面からぶつかるのを避けたのかもしれへんな》シャーロットが答えた。《待ち伏せして爆弾を奪う作戦かもしれん。そうやとしたら、ええ判断やわ》
「考え過ぎじゃない? 相手はコマンダーがいないんでしょ? 素人がそんな作戦立てられるかな?」
《まあ、うちの考え過ぎならそれでええ。とにかく油断は禁物や。爆弾は三津恵が所持。一華が前方、二葉が後方について移動や。北側の出入口から校舎に入って、そのまま廊下を進んで図書室へ向かおか》
「へーい」
指示通り、爆弾を持った三津恵を、銃を持った一華と二葉が前後に挟む陣形で進む。北側出入口から校舎内に入り、1-B、1-Aの教室前を通っても、何事もなかった。
「図書室の前まで来たよ。ここまで、なにもなーし」一華がボイスチャットを使う。
《よっしゃ。待ち伏せしてるとしたらそこや。というても、敵は銃が無い。せいぜい、部屋に入ったところを鈍器でしばく程度やろ。三津恵がドアを開けて、一華が突入して制圧。二葉は念のため後方で待機や。隣の教室から出てくるかもしれへんから、要注意やで》
「了解!」
それぞれ配置に着く三人。一華が銃を構えて図書館の入口前に待機し、三津恵が引き戸の取っ手に手をかけた。二葉はやや離れた後方で見守る。三人は一度目を合わせて頷くと。
「……3……2……1……GO!」
合図と同時に三津恵が引き戸を開け、続いて一華が頭をかばいながら室内に飛び込んだ。シャーロットが予想していた鈍器でのしばき攻撃は無かった。
だが!
「――ごめんね!」
陰に潜んでいた恵那が、クッカーのポットとカップ内の液体をぶちまけた。中身は熱湯だ!
「――あっつっ!!」
悲鳴を上げる一華と三津恵。一華の方はかかった量が少なかったためなんとか耐えたが、三津恵はまともに熱湯を浴び、ぼん! と爆発して消えた。死亡状態となったのだ。所持していた爆弾が床に転がる。
陰に隠れていたあおいが爆弾を拾った。「爆弾ゲットしたで!」
「よし! 行くぞイヌ子! 恵那!!」同じく隠れていた千明も出てきて、あおいと恵那と共に廊下へ飛び出す。
だが、びゅん! という音がして、黄色い光の球が飛んできた。幸い弾は誰にも当たらず、壁に当たって消滅した。
「ここは通さないわよ!」後方にひかえていた二葉が銃を構えて立ち塞がった。千明たちの動きを警戒しつつ、図書室内の一華の様子を確認する。「一華! 無事!?」
「うん、なんとか!」一華は立ち上がり、銃を構えた。
「ダメだ! 逃げろみんな!!」
千明とあおいと恵那の三人は、すぐそばの1-Aの教室に駆け込み、がらがらばん! と引き戸を閉めた。
「逃がすか!」
一華と二葉は後を追う。再度の熱湯攻撃に注意しつつ引き戸を開け、教室内に入った。
「……え?」
思わず目を疑う一華と二葉。教室内の机と椅子は全て教卓側に寄せられ広々としているが、出入口から入った正面には大きなテントがひとつ張られており、奥にももうひとつ小さなテントが張られていた。教室内にテントがふたつ。あまりにも場違いな光景に、一華と二葉は何度も瞬きをする。
《二人とも落ち着きや》
シャーロットからボイスチャットが入り、一華たちは気を取り直した。銃を構えて教室内を見回す。ここから見える限り、敵の姿はない。教卓側の壁には隣の教室と行き来するためのドアがあるが、その前には机と椅子が積み上げられてあり、容易には通れない。一華たちが踏み込むまでのわずかな時間で隣の教室へ移動したということはないだろう。
《隠れ場所はテントしかないな。二葉、調べてみぃ。一華は後方で警戒。三津恵は復活次第二人に合流や》
「了解」
大きなテントに慎重に近づく二葉。銃を構えたまま、テントの出入口に手をかけた。
「待って! いま出ていくから、撃たんといて!」
テントの中から関西弁の声がし、両手を挙げてあおいが出てきた。「爆弾はうちやない、アキが持ってる。向こうのテントや」
「あ! イヌ子! お前裏切るのか!」小さな方のテントから千明の声がした。「負けたらあたしら一生キャンプ禁止なんだぞ!」
「うちは別にキャンプなんかできんでもかまへん! 撃たれて痛い方がイヤやわ!」
「テメェ! 覚えてろよ!」
《仲間割れか?》ボイスチャットからシャーロットの声が聞こえる。《まあ、バトル初心者にはありがちやな》
「シャーロット? この娘が爆弾を持ってないのは確かだよ」二葉が言った。爆弾を持っている敵を目視した場合TAには矢印と距離が表示されるが、あおいを見ても表示はLOSTのままだ。
《そうか。一華、小さい方のテントを調べてみぃ。二葉はその関西弁の娘をそのまま見張っとくんや。敵チームは五人のはずやから、まだどこかに隠れてるかもしれへん。誰か外に出ようとしたら、すぐに撃ち殺すんやで》
「判ってるって」
一華が銃を構えて小さなテントに近づく。二葉もあおいに銃を向けたまま警戒を怠らない。テントの出入口に手をかける一華。ばっ! と開けて中に銃を向ける。
しかし、テントの中にいたのは千明ではなく恵那だった。恵那は苦笑いをすると、両手を上げてプルプルと首を振った。TAの表示はLOSTのままだ。つまり、この娘も爆弾を持っていない。
と、テントの裏で、なにやら、かちっ、かちっ、と音がする。
「そっちか!」
すぐさまテントの裏に回り込む一華。そこには、点火棒でまつぼっくりに火を点けている千明がいた。そばにはたき火台があり、その上にもたくさんのまつぼっくりがのっている。
一華は千明を見る。TAの表示はLOSTのままだ。
千明はニカっと笑うと。
「ごめんねぇ、イヌ子って、ウソツキなんだ」
火が点いたまつぼっくりをたき火台に放り込んだ。火はすぐに他のまつぼっくりに燃え移り、もくもくと煙を上げて燃え上がる。
すると、校内にけたたましい警報ベルが鳴り響き、続いて、天井のスプリンクラーが作動して、教室内に勢いよく水がまき散らされた!
「つめたっ!」
今度は冷水の攻撃に悲鳴を上げる一華と二葉。
その二葉を、あおいが体当たりをして突き飛ばす。
「リンちゃん! なでしこちゃん! 今や!!」
大きなテントに向かって叫ぶあおい。テントが開き、中から雨がっぱを着たリンとなでしこが、自転車の二人乗りで飛び出した!
《一華! 二葉! 逃がすな!!》
シャーロットから指示で銃を構える一華と二葉だが、二人ともスプリンクラーから吹き出す水によって視界が遮られ、そのうえ水を吸った制服とジャケットは思ったよりも重く、狙いが定まらない。トリガーを引いても、光の球は見当違いの方向に飛んで行く。
銃撃をかいくぐったリンとなでしこは1-A教室を飛び出し、全力で廊下を進む。
「リンちゃんそこひだりー!」
西側玄関前を通り過ぎたところで、荷台で爆弾とカップラーメンを持ったなでしこが言った。
「OK! なでしこ! しっかりつかまっててよ!」
「うん!」
後ろからぎゅっと抱きつくなでしこ。リンは後輪を滑らすドリフト走行で角を曲がると、全力でペダルをこいでさらに廊下を進んだ。このまま真っ直ぐ行けば敵陣地の美術室だ。
ペダルをこぎながら、リンは。
――教室でたき火して廊下を自転車の二人乗りで爆走……いけないことだけど……最高か!!
恍惚の表情で快感に浸った。
ものの三十秒ほどで美術室前に着いたリンとなでしこは、自転車を乗り捨て室内に入る。中には誰もいない。
「リンちゃん!」
なでしこが投げた爆弾をキャッチするリン。TAに爆破ポイントが表示される。そのまま爆破ポイントに入ると、爆弾を抱えてしゃがんだ。起爆装置のカウントダウンが始まる。爆破までは十秒。1-Aの教室にいた一華と二葉は振り切ったから、追いつかれる心配はない。残る問題は三津恵だ。三津恵は最初の恵那の熱湯攻撃で死亡したため、すでにリスポーンしているだろう。ここから離れた場所に復活したのなら問題は無いのだが……。
「――そこまでよ!」
美術室内に三津恵が入って来た。残念ながら近くに復活していたようだ。カウントダウンは始まったばかりだ。爆破まではまだかかる。リンに向かって銃を構える三津恵。
だが、その対策も万全だ!!
「なでしこ!!」
「まかせてリンちゃん!!」
リンの声に応じたなでしこが、三津恵の前に立ち塞がった。
なでしこは、持っていたカップラーメンのフタをぺりっとはがした。事前にマグボトルからお湯を注ぎ、準備していたのだ。香ばしいカレーの匂いがふんわりと広がって食欲を刺激する。なでしこはわりばしで麺をつかんでふーふーをし、一口すすった。
そして。
「んんーっ、ほっぺがおちちゃうねぇ」
この上なく幸せそうな笑みを浮かべた。
その瞬間、殺伐としていた戦闘フィールドは、まるで天使が降臨したかのような幸せな雰囲気に包まれた。すぐそばで銃を構えていた三津恵はもちろん、指令室で指示を出していたシャーロット、はては遠く離れて見えていないはずの一華と二葉まで、戦いを忘れてその幸福感に浸ってしまう。
そう! これぞなでしこの超必殺技・うまそげに食う! 彼女が何かを食べる姿を見た者は、それがどんなに荒んだ心や冷徹な考え方の持ち主であろうと、絶対確実完璧に幸せな気持ちになれるのだ!!
はっ! と、まず我に返ったのは指令室のシャーロットだった。《三津恵! なにしとん! はよ撃て!》
シャーロットに続いて我に返った三津恵は、リンに向かって銃を構えた。
しかし、もう遅い!
リンが持つ爆弾のタイマーはゼロになり。
ちゅどーん! と、美術室は大爆発した。
「チームチャーリータンゴの陣地が爆破されました。チーム野クルの勝利です」
校内放送が勝敗を告げると、一華と二葉はがっくりと膝を落とし、千明とあおいと恵那は飛び上がって喜んだ。
「リン……なでしこ……お前ら二人の尊い犠牲は……絶対に忘れないぞ……!」
もくもくと煙を上げる美術室に向かって敬礼をする千明。あおいと恵那もそれにならう。
「いや、死んでないわ」
なでしこと共に千明の背後にリスポーンしたリンがツッコミを入れた。