「二人とも、もっと腰を入れろ! そんなへっぴり腰じゃ、部長様はゆっくり眠れんぞ!」
「りょ……りょう……かい……!」
放課後、リンたちが通う本栖高校の校庭では、赤ジャージを着た野クルメンバー三人と、黄色いジャケットを着たチームチャーリータンゴ三人の計六人が活動していた。千明がハンモックで横になっている。ハンモックの片方は校庭を囲むネットの石柱に結び付けられているが、もう片方は届く範囲に支える物が無いため、チャーリータンゴの一華と二葉が二人で持っていた。三津恵は千明のそばで日傘をさして日光を遮り、あおいとなでしこはその様子を体育座りで見ている。
その様子を図書室の窓から眺めていたリンは。
「……なにやってんだ、あいつら」
と、呆れ口調でつぶやいた。図書室の貸し出しカウンターで『343ギルティスパーク著・グラントでもわかるフラットから宇宙を守る方法』を読んでいたのだが、外の様子が気になって仕方がない。
「この前のガールガンファイトで勝ったご褒美だって」
うしろでリンのお団子頭の髪型をいじっていた恵那が答えた。
先日、キャンプ道具でガールガンファイトに参加させられたリン恵那と野クルメンバー。無謀な戦いを見事な作戦と連携で勝利し、無事、元の世界に戻ることができた。
そして、戦闘前、案内人のアリスが「勝利した場合はなんらかのご褒美は考える」と言っていたが、そのご褒美が、負けたチームメンバーの本栖高校留学だった。
本栖高校へ留学したチャーリータンゴの三人は、千明によって強制的に野外活動サークルに入部させられた。これにより部員が六人になった野クルはサークルから部に昇格。学校から予算が出るようになり、以前とは比べ物にならないほどの広い部室も与えられたそうである。
「……って、結局、得をしたのはあいつらだけで、あたしらはなんもなしじゃん」リンはつまらなさそうに足をぶらぶらさせ、唇を尖らせた。
「じゃあ、リンも野クルに入ればいいんじゃない? そしたら、ご褒美を満喫できるよ?」恵那はにっこりと笑う。
窓の外の野クルメンバーを見る。千明のハンモックを支える一華と二葉だが、両手両足共にプルプルと震えている。結局支えきれずにその場に崩れ落ちると、千明はしこたま腰をうって地面をのた打ち回った。それを見てなでしこは心配をし、あおいはやれやれと肩をすくめる。
「やめとく。やっぱあいつらのノリは、なんかニガテだわ」リンは本に目を戻した。
「そう? 恥ずかしがらなくてもいいのに」
恵那はワケ知り顔でクスリと笑うと、「……よし、できた」と言って、ぽんっ、とリンの髪を叩いた。リンのお団子の髪は、拳銃の形に編み込まれていた。
「おいやめろ」
リンは冷たい目で恵那を睨んだ。
窓の外からは千明の声が聞こえてくる。「三人とも気合いが足りん! そんなんじゃ、この先ガールガンファイトを生き残れないぞ! もっと身体を鍛えろ! 腕立て三回!!」
「了解!!]
千明の命令に、チャーリーの三人は逆らうことなく応じる。ガールガンファイト運営の力により、敗者は勝者に絶対服従というルールが課せられているらしい。あの運営のやることだから、本当に逆らえないようになっているのだろう。気の毒に。
「――リンちゃん!」
静かな図書室に天真爛漫な声が響いた。いつの間にか、なでしことあおいが図書室に来ていた。
「どしたの? 二人とも。部活はいいの?」と、リン。
「なんかもう疲れたわ」あおいが大きくため息をつき、貸出カウンター前の椅子に座った。「部に昇格したからなんやアキがめちゃ張り切っててな、うちらついて行かれへん」
「確かに。ここから見てるだけで暑苦しいもんな」
窓の外を見るリン。千明はチャーリーの三人に「次はグラウンド二周!」と命令する。「了解!」と応じる三人。あれじゃ軍隊だな、と、リンは小さくため息をついた。
「あ、せや」あおいが、ぱんっ、と手を叩いた。「今度、新入部員の歓迎キャンプをやるって、アキが言うてたわ。部費が出たから、今までとは比べもんにならへんくらい豪華なヤツやるらしいで? ふたりも来るやろ?」
「あ、行きたい行きたい」恵那はぴょんぴょん跳ねながら手を挙げた。「リンも行くでしょ?」
「んー」と、リンは唸る。リンは基本的に一人で行うソロキャンを好むが、最近はなでしことの二人キャンプや、少し前のクリスマスにやったクリキャンを経験し、みんなでやるキャンプの楽しさも少しずつ判ってきていた。
じーっと、恵那たちの視線がリンに集中していた。リンはコホンと咳払いをすると。
「……ま、考えとくわ」
と言って、視線を本に落とした。
「ふふ、すっごく楽しみって顔してる」と、恵那がまたワケ知り顔で笑った。
「別に楽しみなんかじゃ……」
リンは頬を膨らませると、あおいたちも楽しそうに笑った。
「リンちゃんリンちゃん!」と、なでしこがカウンター越しにぐいっと顔を近づけてきた。「この前のガールガンファイト、楽しかったね!」
「いや、楽しかったか? アレ……?」苦笑いするリン。
「またやろうね、まったりガールガンファイト」
なでしこは満面の笑みを浮かべた。おいしいものを食べたときと同じく、楽しいことがあった時のなでしこの笑顔も、周囲の人をこの上なく幸福な気分にさせる。
「なでしこ……」
リンも、なでしこに笑顔を返した。
そして――。
「……それは遠慮しとく」
不意に真顔に戻って、そう答えた。