二百九十九頁目
完全に日が暮れようとしているのにフローラは未だに戻ってくる気配がない。
不安と恐怖でどうにかなりそうな中、せめて夜中でも居場所がわかる様に、建物や防壁の高いところに篝火を焚いていく。
これなら夜中でも逆に浮き上がって、遠くからでも目立つはずだ……無事に帰ってきて欲しい。
もしもフローラが居なくなったら俺はもう生きていける気がしない……絶望のあまり自殺してしまうかもしれない。
一人で残されるのがこんなにも心細いとは思わなかった……フローラも、俺が出かけた後はこんな気持ちでいたのだろうか?
タヴィちゃんも旦那であるアルケン君が居ないからか、はたまた今までお世話してくれたフローラが居ないからかどこか心細そうにしているように見えるぐらいだ。
本当に早く帰ってきて欲しい一心で、つい左腕に埋め込まれた鉱石に祈りを捧げるように磨いてしまう。
この島で他に頼れそうなものはないから……人工的に作られた俺が神様に祈るのもおかしいと思ったのだ。
まあそんなことはどうでもいい、神様でも管理人でも何でも構わないからどうか……フローラが無事でいますように……。
三百頁目
夜中の闇がこんなにも恐ろしく思えたのは初めてこの島で夜を過ごして以来だ。
こんな闇の中をフローラが一人で居ると思うと、今すぐにでも飛び出して助けに行きたい衝動に駆られてしまう。
だけどそんなことをしても行き違いになるだけだと自分に言い聞かせるが、それでもどうしても落ち着かない。
ウロウロと室内をうろつきながら、また左腕の鉱石を磨いて祈って……また室内を歩き回る。
そんなことをどれだけ繰り返しただろうか……不意に遠くから破裂音のようなものが聞こえて慌てて外へと飛び出した。
すると南の海岸の辺りに光り輝く何かが浮かんでいて、ゆっくりと落ちてきているのが見えた。
すぐに望遠鏡を取り出して確認してその正体に気付く。
あれはフローラが火薬を利用して作った照明銃の輝きだ……それを理解した瞬間に、俺は飛び出していた。
仲間にしたアルケンABCを護衛代わりに追従させながらペヤラちゃんに乗って、一目散にあの光源が浮かんでいる辺りを目指す。
恐らくあそこは……俺たちが最初に目を覚ました海岸だっ!!
三百一頁目
暗くて周りが見通せないためにペヤラちゃんのサドルに松明を括り付けたが、ほんの僅かな至近距離だけしか照らし出すことはできない。
それでも追従させているアルケンABCがちゃんとついてきていることは確認できた……尤もこの島にいる動物は五感が優れているのか夜の闇の中でも正確にこちらの居場所を突き止めてくるのだが。
だからこそこんな闇の中に一人で居るフローラがどれだけ危険なのかわかっていて、少しでも早く照明銃が照らし出す場所を目指す。
しかし目的地にたどり着く前に明かりは地面に落ちたようでその輝きを失ってしまう……それでも大体この辺りだろうと思われる方向に進んでいく。
そうして予想通り、最初に拠点にしていた場所へと到達した俺は作った覚えのない篝火で浮かび上がるこれまた見覚えのない建物を目の当たりにした。
恐らくわらで作ったであろうその建物は、まるで来たばかりの俺が作ったものによく似ているように見えた。
だけど俺はそんなことよりも、すぐ近くから聞こえてきた叫び声に反応して急いでそこへと向かった。
果たしてその声の主は俺の探し求めていたフローラで……彼女はすぐ近くにあるアルケン君の死骸の傍で、松明付きのサドルが付いているラプトルの群れに押さえつけられていた。
そしてそんな彼女に下種染みた笑みを浮かべて迫る半裸の男……もうその時点で俺は何かが切れてしまった。
アルケンABCに命令してその男を掴み上げて動きを封じ、指示がなくなって混乱しているラプトル達を空中から叩きのめしてやる。
そして安全になったところで俺はすぐに自由になったフローラの元へ着地してその身体を抱き寄せた。
その際に軽く彼女の様子を確認したが、ラプトルの爪でその服も体もボロボロだったけれど、大切なところや致命傷になる部分は無事だったようで色々と手遅れになる前だと分かり少しだけほっとした。
尤も当のフローラは急にラプトルが居なくなった状況を理解できずに、まだ悲鳴を上げていたけれど、俺が抱き寄せて耳元で囁くとようやくこちらに気付いて……やっぱり涙を流しながら俺の胸に飛びついてきた。
本当に間に合ってよかった……この子を守れて良かった……そしてこの子をこんな目に合わせた奴は……どうしてやろうかっ!?
【今回名前が出た動物】
アルゲンタビス(タヴィちゃん・アルケンABC・アルケン君)
タペヤラ(ペヤラちゃん)
ユタラプトル