三百十五頁目
旋盤は少し大きすぎるせいでどこに配置するか迷ったが、結局少し建物の壁をぶち抜いて作業机の隣へと置くことで素材を行き来させやすくした。
すぐにフローラが満面の笑みを浮かべながら、先ほど作ってあったガソリンを入れてスイッチを入れると途端に物凄い騒音と共に機械が作動し始めたではないか。
しかしこれは現代社会で聞き覚えのある物音だったがためにか、少しだけ懐かしさと感動、それに興奮を覚えてしまう。
しかしよくぞこれほど高度な物を作り上げたものだ……左手の鉱石が作り方を教えてくれるのはわかるけれど、それでも素直に凄いと思えた。
そんなフローラは動かした旋盤で早速、金属のインゴットを削り出し始めて何かを作り始めた。
興味深く眺めていた眺めている俺の前で、時折左手の鉱石を眺めながら薄っぺらく削り出していき、そこへシリカ真珠を加工したものを当て嵌めていき……あれよあれよという間に電子基板と思しきものを作り上げてしまう。
幾ら何でも出来過ぎだと思う俺はどんな顔をしていたのか、フローラはこちらを振り返ると完成した電子基板を振り回しながら楽しそうに噴出して見せた。
そして実際に作れたのだから気にしないと言うと、このまま機械製品を作ってもっと住み心地の良い家にしたいと夢中で旋盤に掛かりきりになるのだった。
……そんなことになったらまさに文明開化と言っても過言ではないが……そんなに上手く行くのだろうか?
三百十六頁目
相変わらず手持ち無沙汰でやることも無い俺は、旋盤に掛かりきりなフローラの助手になり切り素材を運ぶ役割をこなしていた。
何せセメント回収に予想以上に手間取っていたようで、外は夕暮れ時になっていて出かけるには厳しい時間になってしまったのだ。
今まではこうなると家の中でクラフトに取り掛かっていたが、今ではそれをフローラが一手に担ってるだけに素直に指示通り動くようにしているというわけだ。
何だかんだで意外と分業ばかりだったから、こうして家の中で活動的に動くフローラを見ているのはなかなか楽しい……けれどフローラの人使いも結構粗くてきつかったりする。
かなり重い金属のインゴットをまとめて持って来いとか、収納ボックスにはわかりやすいよう素材ごとにまとめておいてとか、染料とペイントブラシがあるからそれで色分けしろとか……どうもかなり前から調理鍋で作る際に木炭などと一緒にベリーを水で煮て染料を作っていたようだ。
確かにフローラが用意する服には色が付いていて不思議だなぁとは思っていたのだが……しかしこんな染料の作り方は左手の鉱石を見ても思い浮かばなかったのによくぞ気付いたものだ。
少し感心しながらも、メディカルブリューもそうだったが思いつくものと思いつけないものの差は何なのか気にしながら色を塗り分けていく。
そんな最中、急にフローラが叫び始めて驚いて駆けつけると何やらそっぽを向いているアルケー君を困ったような顔をして抱き上げていた。
何でもお腹が減った合図に足元を突いてきたからいつも通り生肉を食べさせたら、食べ終わってからこれじゃないとばかりにそっぽを向いてしまったらしい……他の同種の成体たちはそんな素振りを見せたことはないのに珍しいことだ。
ひょっとして子供のうちは好き嫌いがあるのかもしれない……それでも何だかんだで生肉を差し出せば食べてくれるから問題ないと思うがフローラはオロオロしながらいつの間にか作ってあった食料保存庫から霜降り肉やら焼いたものやらカスタムレシピで作った料理まで持ってきて与えようとする。
するとその中の一つに食らいつき、途端にニコニコしながらまたフローラに向かい健気に鳴き声を上げてすり寄ろうとするアルケー君……もちろんフローラはすぐに頬擦りしてあげて……少し甘やかせすぎな気がするけれど、育児方針に口出しする勇気のない俺なのだった。
……胸がモヤモヤするのは……いや、まさか鳥を相手に……そんな……
【今回名前が出た動物】
アルゲンタビス(アルケー君)