三百六十六頁目
余りにも古い時代の人間過ぎてコミュニケーションには非常に苦労してしまった。
それでも何とか口の動きと言葉の違い、それに手首に付いている鉱石やフローラの持っているライフルなどを見せることで信じがたいと前置きしたうえで俺たちが自分たちの国より上の技術力や知識を持っていることは理解してくれた。
何でも死が間近にある生活をしていただけに、目の前にある現実を否定するのは愚かだと悟っているようだ。
尤もこの島が何なのかの考察については全く受け付けてくれなかった……と言うより理解できなかったというほうが正しいだろう。
それでも何とかかみ砕いて自分たちが何かの目的のために攫われてきたか、或いは養殖された動物だとは理解してもらえた。
その上でこの島からは出れないと告げると、自分の目で見なければ信じられないと言って移動を始めた。
少しついていくと、この人は前に俺が後から来る人のために残しておいた拠点を利用しているようで、その裏手の浜辺に何と筏を作ろうとしている跡があった。
尤もこの島の海は危険すぎるから止めておくように告げたが、今すぐ行かなければ上司であるトウガイだかトウシサイだとかいう人が危ないのだという。
どうもその人を助ける途中で送られてきた……というかそこまでの記憶を持たされた状態で生み出されたようだけれど、三国志に詳しくない俺にまして魏国の将軍などわかるはずがない。
だからどう励ましていいのかわからないでいる俺に、彼は筏を作るのを手伝うか空を飛べる鳥を一匹分けてほしいというのだった。
てっきり俺たちの仲間として合流したいとか言い出すかと思っていたから驚いたが、やはり彼にとっては帰る手段を模索する方が優先なようだ。
三百六十七頁目
一応フローラに話しかけて相談しようとしたが、それを見たオウ・ホウは驚いたように声を洩らした。
どうしたのかと思っていると、すぐに首を横に振るとむしろ嬉しそうに頷いて見せた。
そして良い夫婦だと……細君を見下して亭主関白を気取る奴が多い中で、互いに尊敬しあう仲は素晴らしいと語るのだ。
何やら喜ばしいやら恥ずかしいやらで困惑するが、考えてみたら彼の時代は女性の権利がまだほとんど認められていない時代だった。
だからこうして対等に相談するような仲は珍しいのだろう……そして多少若い女性を嫁に取るのも普通なのだろう。
咄嗟に否定するか一瞬悩んだが、俺はあえてフローラに視線を送ると合わせてこくりと頷いた。
彼の態度からは問題ないと思われるが、フローラの立場を守るために俺の妻と言うことにしておいた方がいいと判断したのだ……もちろん内心そう見られることへの喜びがあったことも否定しないが。
とにかく彼の前では夫婦として振る舞うと決めて、その上で鳥を渡すかどうか考えて……あくまでもこちらの誘導に従う形ならばと許可を出した。
もちろんそれは彼が筏で飛び出したりしたら命を落とすと分かっていたから、見殺しにできなかっただけの話だ……別にフローラと夫婦だと言ってもらえてうれしかったからではない……と思う。