四百九頁目
オウ・ホウさんがあれだけの重傷を負っていたから、あの豪雪地帯の洞窟が危険な場所だとはわかっていた。
しかし彼がここまで言う程とは思わなくて、俺が驚く中淡々と説明は進んでいく。
まず最後の洞窟は身も凍るような寒さであり、皮の防具は当然としても下手したら毛皮の防具でも厳しいかもしれないというのだ。
尤もフローラの差し出した毛皮の防具は胴体部分は設計図を基に作られた精巧な代物なので、恐らくこれなら手足の冷たさをがまんすれば行けるだろうとは思う。
ついでにオウ・ホウさんはフローラが今首に巻いて言えるカワちゃんを見て、そうやって動物の身体で体温調整するのもアリかもしれないと言いつつ問題はこれに留まらないと説明を続けた。
次の問題は何と入り口の狭さだという……俺の記憶が確かならばそれなりに広そうに見えたので首をかしげていると、何でも本当に少しだけ立ち入ったところで人間ですらしゃがまないと先に進めないほど天井が低くなっている場所があるのだという。
おかげで殆どの動物を連れ込むのが不可能な上に、中には恐ろしく強い生き物がとんでもなく密集していたという。
少し立ち入っただけで外に居た狼や白い毛皮を纏った猩猩……ショウジョウというゴリラに似た生き物に同じく白い毛皮の熊が一斉に襲い掛かってきたという。
しかも狼を始めどいつもこいつも外にいる個体とは身のこなしから力強さまで桁違いで、オウ・ホウさんですら撃退を放棄して逃げるのが精いっぱいだったという。
それでもしゃがまなければ入れない空間に逃げ込むのがあと一歩遅れていたらオウ・ホウさんは命を落としていただろうと語る。
おまけにその際に一匹の狼が狭い場所に引っかかったため、何度も出入りを繰り返しながら仲間に出来ないか試みたが、非常に睡眠耐性が強かった上に何とか気絶させても餌を受け取ろうとしなかったという。
そこでオウ・ホウさんは洞窟の中の生き物は仲間に出来ないのではとの仮説を語るが、しかしメガちゃんと言う前例を知っている俺たちは首をひねってしまう。
フローラに再確認したが、普通に眠って普通に餌を食べて普通に仲間になったという。
いったいこの差は何なんなのか……他に仲間にならないあの特殊な個体と言い、ひょっとして一部の強すぎる生き物は仲間にしたら人間が楽過ぎるから許されないとでもいうのだろうか?
四百十頁目
とにかく護衛を連れ込めない上に中の生き物も強力なその洞窟ばかりは真っ当な攻略方法が思い浮かばない。
強いて言うのならば、狭くなっている場所を上手く使い遠距離武器で敵を殲滅させてはそこに資材を持ち込み前線基地を作り、またそこから遠距離武器で先に居る敵を一掃して基地を作り……これを繰り返せばいずれは攻略できるかもしれないという。
しかしこれではどれだけ時間がかかるか分かったものではないし、おまけにあいつらに壊されない前線基地を考えるのも大変だろうというのだ。
尤も人手がもう少しあれば話は別だと言うが、やはりついていくと言えない俺たちにオウ・ホウさんはむしろあんな危険な場所に俺たちを連れて行くわけにはいかないと断言してくれる。
そう言う危険なことをするのは軍人である自分の仕事だと……余りにも立派な態度に、自分の身の安全ばっかり考えていることが申し訳なくなってくる。
できれば手伝うと言ってあげたいところだけれど、それでも俺はフローラが一番大切で彼女を不安にさせないためにもやっぱり同行するとは言えなかった。
代わりに残る洞窟の探索や事前準備のための物資支援は幾らでも協力すると言うと、オウ・ホウさんはそれだけで十分すぎると丁寧に頭を下げてくれるのだった。
【今回名前が出た動物】
カワウソ(カワちゃん)
ダイアウルフ(狼)
イエティ(白い毛皮の猩猩・ゴリラに似た生き物)
ポーラベア(熊)
メガロサウルス(メガちゃん)
【今回話題に出た洞窟】
SnowCave(強者の洞窟・豪雪地帯にある洞窟)