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何となく気分が落ち着かなかった俺は食事を終えてからも、一人でデッキにある椅子へと座ってぼんやりと光を反射する海面を眺めていた。
少し離れたところで休んでいるケツァ君の背中にある電源はガソリンを省エネするためか、敵の居ないこの場所ではスイッチをオフにしてある。
だから月明りのみが照らす薄暗い世界の中で、草食動物たちがもそもそと餌を食べる音へと聞き入っていた。
そんな俺の背中に不意に心地の良い温もりが密着して来て、同時にとても魅力的な少女が肩越しにこちらを覗き込んできた。
どうやらフローラもまた、先ほどの空気の中で感じた想いが落ち着いていないらしい……耳元でそっと、月明かりの下でデートしたらとても素敵だと思わないかと聞いてくる。
もちろんすぐに笑顔で頷いた俺は、フローラの手を取って辺りを散歩することにした。
夜中にこんな無警戒に出歩くなど、この場所に来てから一度も出来ていなかった……この草食しかいない島だからこそできることだ。
それでも木々や草むらの影が風か何かで揺らめくのを見るたびに、フローラは声を洩らして俺の腕に飛びついてくる。
実際に俺も薄暗い世界の中にいると何かが……危険生物ではなくてお化けのようなものでもいるのではないかと思って僅かに身構えそうになってしまう
だけどふと思う……もしもこの場所にお化けが居たとしたら、多分テイムできるんじゃないかと……そう思うと何やら逆に出て来てほしいような気すらしてくるから不思議と言うか現金なものだ。
この考えをフローラにも話してみると、彼女も途端に不安が吹き飛んだ様子で楽しそうに笑ったかと思うと、今度は仲間にしたいから出て来いとお化けの名前を口にし始めた。
フランケンシュタイン……ヴァンパイア……ジャック・オー・ランタン……最後のは良く分からなかったが、どうも彼女の居る国では風習として存在するハロウィンというもので仮装されているお化けのようだ。
そしてフローラはこの島にもそう言う季節がらのイベントでも起こればいいのにと不満そうに呟いた……確かに決められた期間だけそう言うハロウィンにちなんだお化けでも出して、それを仲間に出来るとしたら面白そうだ。
尤もそんな時期にこの島へ新たに人がやってきてしまったら、その人は色々と誤解してしまいそうだが……と、そこでふと俺は今日は新しい人が来ていなかったことに気が付いた。
メアリーへの対応とフローラを探すので忙しかったから気にしていなかったが、オウ・ホウさんとメアリーはほぼ連続してきたというのにどうして今日は来なかったのだろうか?
そう言えば俺が南の海岸に拠点を作って活動しているときも誰も来なかった……フローラが閉じこもっていた時もだ。
逆に俺たちがあの場所から離れたらフローラを襲ったあの男を筆頭に色んな奴がやってきて……だけど考えてみたらあの男も、他の奴に出会った様子はなさそうだった。
今はオウ・ホウさんがあの場所を拠点にしているが、その最中にやってきたメアリーは彼が洞窟を探索中に現れていた。
これはつまり……あの場所に人が現れる条件は……いや、もう少し様子を見てから結論は出すことにしよう。
【今回名前が出た動物】
ケツァルコアトルス(ケツァ君)