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檻の中にいる子は年齢にして二桁になるかならないか……下手しなくても小学生ぐらいの子供にしか見えないぐらい背丈が小さく、それでいて体中が泥か何かで汚れているように見えたが、その左手首にはやはり俺たちと同じ鉱石が埋め込まれていた。
しかし一体こんな子がどうして檻に入って眠っているのかとオウ・ホウさんに尋ねてみると、どうもこの檻は彼が作ったもののようで眠らせたのも同じくオウ・ホウさんの手によるものだったそうだ。
驚きながらも彼のことだからきっと何か訳があるのだろうと詳しく話を聞いてみることにした。
そしてオウ・ホウさんが語ったところによると、俺と別れてこの場所に戻ってきて最初に俺たちと同じくメアリーの居城へ異変を感じたのだという。
何でもオウ・ホウさんは一応メアリーも共に生きる仲間だとは認識しているようで出かけたり戻って来る際には声をかけるようにしているのだそうで今日も出かける際に挨拶した際は高圧的な態度こそ変わらないが反応自体はあったのだという。
しかし戻ってきた時には一切の反応がなく、更に彼はそこで朝は待機していたはずのアルケンCの姿も見えなくなっていたことに気付いた。
だから何かあったのではと周りを見て回ったが、それこそ城壁に俺たちも見つけた細かい傷跡こそあったが内部に何かが押し入ったような跡は一切なかった。
尤も中に入りたくとも施錠されているようでそこまでは確認できなかったようだが、これならば恐らく変なトラブルが起こったわけではないと判断して、メアリーに関しては明日まで様子を見てそれでも姿が見えないようなら俺たちに相談しようと思っていたらしい。
ところが自らの住居に戻ったところで、オウ・ホウさんはこっちにも異常を見つけてしまった……やはり俺たちが見た通り何故かドアの周辺が叩き壊されていて、しかも建物の中から何かのうめき声のようなものが漏れていたのだという。
果たして歴戦の勇士であるオウ・ホウさんはすぐにこれが人の手によるものだと判断して……動物ならばドア周辺だけを狙ったように壊したりはしないだろうとのことだが……とにかく臨戦態勢を取ると、警戒しながら内部の様子を確認した。
すると建物の中をひっくり返し、食糧庫から肉を取り出してかぶりついているあの子を見つけたのだという。
俺ならば驚いて固まりそうなところだがそこは経験豊かなオウ・ホウさん、冷静にその子の姿と様子を観察して野生児か或いはどこぞの原住民なのだろうと納得したそうだ。
言われてみれば、確かにこの子の身体はこの歳にしては異様に洗練されているというか鍛え上げられているように見えた……自然の中で逞しく生きて来た証拠だろう。
そんな子だからかどうかは知らないが、お腹が減るなり野生のおきてに従うかのように近くにあった同族が建てたものではない住居を自然に襲撃して、ある意味で内部の物資を強奪しようと考えたようだ。
もちろん住んでいる家を荒らされてはたまらないとオウ・ホウさんは武器を手にこの子に警告の意味で声をかけた。
しかしこの子は原始的な単語を組み合わせたような言葉遣いでオウ・ホウさんを敵認識したかと思うと、すかさず襲い掛かってきたそうだ。
尤も幾ら身体が鍛えられているとはいえ所詮は子供……まして戦場で戦い続けてきたオウ・ホウさんの敵ではなかったようで、あっさりと床に組み敷いてやったが暴れるばかりで全くこちらの話を聞いてくれなかったらしい、
それどころか押さえつけるオウ・ホウさんの手を隙あらば食いちぎろうとばかりに歯向かってくるために、仕方なく麻酔矢用の麻酔薬をぶっかけて無理やり眠らせたのだという。
その上でまた目が覚めた時に暴れられては困ると思いとりあえず檻を作り中に入れたは良いが……幾ら彼が軍人でこの子が敵対した相手だとは言え、こんな子供を任務でも何でもないのに殺すのはためらわれた。
しかしだからと言ってこのまま放置するわけにもいかないが、同時にどうしていいかもわからず……俺達に相談しようと信号弾を打ち上げたのだという。
……襲われたのがある意味でオウ・ホウさんで良かった……情けないが現代っ子な俺やフローラでは相手が子供ということもあって色々と躊躇して……負けてたかもしれないから。
【今回登場した動物?】
人間(野生児)