四百六十頁目
改めて檻の中で眠っている少年を見つめながら、俺は少しだけ頭を捻らせた。
左手の鉱石からしても間違いなくこの子もまた、俺たちと同じように生み出された存在なのだろう。
しかし今まで俺がしていた推測では、この場所に誰かが残っている限り新しい人間はやってこないはずだった。
そしてメアリーがあの場所から動かない以上は、誰かがやってくるはずはないと思い込んでいたのだが……もしもこの仮説が正しいのならばメアリーが自主的に……恐らくオウ・ホウさんが居なくなった後のタイミングで何処かへ移動したのだろう。
実際にメアリーの住処は壁にこそ傷があるが……恐らくこの子がその辺の石ころでも利用して付けた傷なのだろうけど……空から見えた範囲では内部が荒らされている様子は全くないこともこれを裏付けている気がした。
こうなると彼女がどこへ向かったのかが気になるところだが、あの性格では自分の足でどこぞに向かう筈もなくアルケンCに乗って移動していることだろう。
そうなると行動範囲が広すぎて俺たちでは特定するのは困難だ……何よりもう周囲も暗くなっていることもあって、探しに行くのも難しい。
だから彼女のことはいったん置いておくことにする……フローラも同じような考えに至ったようでチラチラと主の居ない居城を気にかけているようだが、探しに行こうと言い出すことはなかった。
それより今考えるべき問題はこの子をどうするかだが、オウ・ホウさんもまた困った様子で子供を見下ろすばかりだった。
このまま檻に入れておくのは可哀そうではある、しかしオウ・ホウさんの言うことが事実なら目が覚めるなりまた暴れ出して目に付く人に襲い掛かりかねない。
だからこの状態でこの子が目覚めるのを待って、檻越しに何とか敵ではないと理解してもらうしかないと思うのだが……。
そう告げるとオウ・ホウさんもまた同じような考えを持っていたらしく頷いてくれたが、フローラは可哀そうだと口にして檻の中に手を差し出して眠っている子供の頬を撫でてあげようとする。
するとその子は眠っているにも関わらず無意識のうちに頭を軽く持ち上げて、その手をペロペロと舐めて……がぶりと歯を立てようとして慌ててフローラは手を引き戻した。
やっぱり狂暴すぎる……檻の中に入れておくしかと確信を強めた俺たちに対して、フローラはむしろお腹が減っているのだと言い、携帯していた食料を差し出そうとする。
何でそこまでするのかと不思議に思う俺だったがフローラの顔には慈愛の笑みが浮かんでいて……考えてみれば彼女は動物の子供を相手にしても物凄く可愛がって甘やかしていた。
多分小さい子供には目がないのだろう……そして実際に差し出した食事にその子は、やっぱり寝ぼけた様子で齧りつくのだった。
……これでこの島の動物みたいに飼い慣らせたらいいのだけれど、そんな都合のいい話はないよなぁ。
【今回名前が出た動物】
アルゲンダビス(アルケンC)