五百三十三頁目
あ、危なかった……まさかあれほど早く麻酔の効果が切れそうになるなんて……。
長年の経験からヤバいと判断したオウ・ホウさんと野生の勘で危機を感じ取ったマァが同時に逃げろと叫んだから、ギリギリでケツァ君に乗って飛び立つことができたが、もしもあと少し避難が遅れて居たらと思うとゾッとする。
何せあの金属の壁で覆われた空間には逃げ場などないのだから……そして目を覚ましたあの超巨大な肉食の目は野生を宿したままであった。
少しは肉を食べさせていたはずなのだが、どうやら刷り込みが足りないうちに目覚められると駄目なようだ。
しかし逆に言えばちゃんと量を食べさせられれば問題はなさそうでもある……何せ実際に食べさせた時はすり寄ろうとする気配を見せていたぐらいだ。
だから改めて麻酔矢と麻酔弾を補給しつつ、その間に皆でどう攻略するのかを相談しあうことにした。
あの肉食自体は完全に囲っているので逃げられる心配はない……おかげでゆっくりと落ち着いて話し合うことが出来て、すぐに答えは出た。
単純に刷り込みの途中で目が覚めないよう定期的に麻酔薬なり黒い果実を食べさせればいい。
尤も麻酔薬は製造が大変なので、その辺でとれる黒い果実を食べさせることになり、再度俺達はありったけの麻酔を打ち込んであの超巨大な肉食を眠らせに掛かるのだった。
追記
何故帰らなかった……予想外のトラブルが発生したのにどうして疑わなかったんだ俺は……こいつの野生はそうそう簡単に抜け落ちるものではなかったのに……くそ……。
五百三十四頁目
二度目のお休みタイムに入った超巨大な肉食は、俺達の想定通り順調に刷り込みが進んでいた。
すぐに目覚めようとするこいつに黒い果実を定期的に齧らせながら肉を食べさせ続ける。
すると少しずつ眠ったまま俺達の匂いを嗅いですり寄る様になってきたが、この調子だとまだまだ時間が掛りそうだ。
しかしこんな風に麻酔漬けにして眠らせ続けていると、体力にも影響が出てきそうだ……実際に肉を食べさせているにも関わらず痩せてきている気がする。
これだと耐久力や筋肉も少し衰えてしまいそうだが……削った歯も含めて野生だった頃に比べてかなり弱体化してしまいそうだが、こればっかりは仕方ない。
何よりこの巨体から繰り出されるパワーと攻撃範囲を思えばそれでも十分すぎる強さだろう。
ただ野生の同種ともなると相手をするのは厳しそうだが……とぼやいたところでメアリーが満足げに子供を産ませてその時点で懐かせれば野生に近い力を持たせたまま仲間に加えることができるのではと言い出した。
確かにその通りだ……ただそのためには番で捕まえる必要があるが、今のところこれだけ長くこの島中を巡っていた俺達ですら一体しか見かけられていない。
こいつほど強ければ他の奴らにやられる可能性はほぼないだろうし、他にも居れば目立つから見落とす可能性も低い……そう考えると恐らくこの島の生態バランスを崩さないために極端なまでに産み落とされないようになっているのだろう。
だから二匹目を捕まえられるとしてもずっと先か、或いは一度に一体までの制限が掛かっていて、こいつが居なくならなければ出てこない可能性もあるためあんまりそのことは考えないでおこう。
それよりも今は仲間にしたこいつをどう運用するかについて考えたほうが建設的だ。
尤もその為にはこの恐竜の性能を調べる必要があるのだが……とにかくまずは仲間にした時点でサドルを作って誰かが乗り回して試すのが一番だろう……と思ったら、既にフローラが作ってあるとサドルを見せつけてきたではないか。
そしてサドルを作った功績から私が一番に乗り回すのだと主張して、適当に近くにいるステゴやステゴによく似たとげの生えている草食辺りを倒して性能を確かめてみるつもりだという。
……ティラノの時と言い、フローラは大型の肉食を乗り回すのが案外痛快に感じているようだ。
まああいつが仲間になった後ならば何も危険はないだろうし、色々と頑張ってくれているフローラのお願いなのだからこれぐらい受け入れることにして、俺達はこいつが仲間になり次第、巻き添えを食わないよう空の上から見守っておくことにしよう。
追記
だからっ!! どうしてフローラを最初に乗せたっ!! 何で仲間になったら安全だなどと考えたっ!! この島で油断は許されないのに寄りにも寄って一番大切な女性からどうして……離れたりしたんだ俺は……一緒に居さえすればまだ……傍にさえついていれば……助けられたかもしれないのに……
【今回名前が出た動物】
ギガノトサウルス(超巨大な肉食)
ケツァコアトルス(ケツァ君)
ステゴサウルス
ケントロサウルス(ステゴによく似たとげの生えている草食)