六百二十頁目
右手の痛みに耐えつつ各種クラフト作業に没頭していると、何やら妙に仕事がはかどることに気が付いた。
何かを作ろうとするたびに、まるで自分の手ではないかのように身体が動いてかなりの速度でクラフトを終えることができるのだ。
それこそフローラのような速度で……まさか彼女が力を貸してくれているのだろうか?
それが本当だとしたら嬉しいけれど痛みの代償としては……まあ単純に無理やり埋め込んだ鉱石辺りが関与しているだけだろうけれど、どちらにしてもありがたい限りだ。
この恩恵を上手く利用すればもう少しはクラフト関連に時間を掛けなくて済みそうだし、そうなればわざわざメアリーの手を借りなくても済むように……ま、まさかそれが狙いでフローラが力を貸して……ま、まさかね……。
そんなどうでもいいことを考えながら……或いは考えないようにしながらか……とにかく今日一日はクラフト作業に没頭することにした。
おかげで麻酔矢の備蓄も増やすことが出来たし、洞窟前に作る予定である建築物の壁なども作ることができた。
後は現地に行って組み立てるだけ……だから護衛代わりにモフモフの肉食と配下のカルちゃんの同種を乗せたケツァ君で早速移動しようとしたが、メアリーが軽く引き留めようとしてくる。
どうやらよほど一人で居るのが心細いようだが、それでも拠点の組み立てに行くだけだという納得してくれて……その上で早く帰って来てほしいと訴えかけてきた。
そんな彼女に頷いて見せてからこの場を後にする……と、ようやく右手の疼きが治まったような気がした。
メアリーと俺がそんな関係になるわけないのに……本当に可愛らしく嫉妬する恋人だ……愛おしくてやっぱりまた会いたくなってしまうよ。
六百二十一頁目
メアリーに早く帰ると約束したのはいいが、結局帰りは夕方になってしまった。
何せやることが多かったのだ……毒ガス洞窟前の拠点作りは前にナマケモノ捕獲の際に用意していた物を再利用することで比較的早めに終わらせられたが、豪雪地帯にあるもう一つの洞窟が厄介だったのだ。
ただでさえ雪山で狼や豚などの危険な肉食が多いのに、水辺が近すぎるせいかスピノサウルスまで湧いてくる始末だ。
まずこいつらをどうにかして安全を確保しないと土台を敷くこともできない……だから護衛に連れて来た四体で片っ端から倒して回る羽目になった。
尤も戦闘自体は何も問題がなかった……流石にスピノは強敵だったけれど、モフモフの子がパワーアップさせたカルちゃんの同種の敵ではなかったのだ。
ただ狼を含めた敵の数が多すぎた上に、倒した死肉を求めてまた別の狼の群れやアルケン君の同種までもが次々と駆け付けて来る始末だった。
おかげでそいつらを殲滅して安全を確保するのに時間が掛り過ぎてしまったのだ。
更にその後で料理や防虫剤に使える野菜のお世話や、その畑の傍で肥料作りをしている場所に干してある麻酔薬の材料となる腐った肉の回収作業も行い、ついでに南の海岸にも誰か来ていないか覗きに行ったのだ。
もちろん誰も来ていなかったのだが建物自体はずっと人が住み着いていなかったからか、野生の動物に荒らされていて……そのせいでまた誰かが逃げ込んだのかと思って周囲を念入りに探索してしまったせいで余計に遅くなってしまったのだ。
そのせいで結果的に夕暮れに戻る羽目になったわけだが、メアリーは帰りが遅い俺を心配して豪雪地帯で寒い中なのに、住居の外で待ち構えていた。
そして戻ってきた無事な様子の俺を見てパッと笑顔になった……かと思うと、次の瞬間には怒りの表情を浮かべて、妾との約束を破り何を遊んでいたのだと、初めてであった頃のような剣幕……いやそれ以上の勢いで叱られてしまうのだった。
【今回名前が出た動物】
ユウティラヌス(モフモフの肉食)
カルノタウルス(カルちゃんの同種)
ケツァルコアトルス(ケツァ君)
メガテリウム(ナマケモノ)
ダイアウルフ(狼)
ダエオドン(豚)
スピノサウルス
アルゲンダヴィス(アルケン君の同種)