ARK とある青年の日誌   作:車馬超

292 / 1041
第292話

六百七十一頁目

 

 やはりこのイカも一定以上の深度には上がってこなかった。

 だから他の二匹と同様、浮上したり潜ったりすることを繰り返すだけで安全に麻酔矢で打ち抜き続けることができた。

 おかげで何とか眠らせることにも成功して、口らしき場所も何とか探し出して後は餌を与えるだけ……だと思ったのだがここで問題が発生した。

 

 何と眠っているというのに俺達が何を差し出そうと、一切口に含もうとしなかったのだ。

 てっきり間違えて殺してしまったかとも思ったが、直接身体に手を触れてみると確かに生命の脈動が感じられる。

 そして力なく揺蕩っているところを見る限り、間違いなく眠ってもいるはずなのだが……ひょっとして餌が悪いのかとも思ったが肉類や食物系は無論のこと、俺達の手元にあるあらゆる食料になりそうな物を差し出してもやはり反応しなかったのだ。

 

 尤も流石に卵類までは持ち運んでなかったから、いつぞやの生き物のようにそれを食べる可能性もあるけれど……それとも何かやり方が間違っているのだろうか?

 まさかこいつも眠らせてではなくて起きているときに手渡しで餌を与えないと駄目な……いや、幾ら何でもこれほど攻撃的な奴にそんな真似ができるわけがない……やっぱり餌が問題なのだろう。

 

六百七十二頁目

 

 あ、危なかった……やっぱりこの島ではちょっとした油断が命取りだ。

 巨大イカにどうにか餌を食べさせようと四苦八苦して無駄に時間を使ってしまった俺達は、二匹目が音もなく近づいてくるのに気が付けなかった。

 周りの仲間達も無抵抗状態にしていたのが悪かった……気が付いたときには俺達の乗っている生き物に触手が伸びて来て絡めとられそうになってしまう始末だった。

 

 その前に慌てて飛び降りて別のサメへと乗り移ることができたから助かったが、もしもあのまま捕まっていたらどうなっていたことか。

 現に今も俺が乗っていたサメがイカの触手に締め上げられて苦しそうにしている……あのサイズのサメですらああなのだから、俺みたいな人間があんな攻撃を喰らったら……考えたくもない。

 それよりも今は仲間のサメを助けるために巨大イカを退治しなければ……と思ったところで、ふとサメとイカの間に何か黒い塊が漂っていることに気が付いた。

 

 水中眼鏡を拭って目を凝らして見たところそれは黒真珠のようだった。

 どうやらあのサメから慌てて飛び降りた際に、巨大イカへ餌を食べさせようと荷物に手を突っ込んでいたために中身を零してしまったようだ。

 尤も今はそんなことを気にしている場合では……と思ったのだが、そこで幾つかの黒真珠がイカの方へ流されていくのを見た。

 

 そしてサメを拘束することに夢中になっているイカは口元に流れて来た黒真珠を吸い込んで……何やら一瞬だけ触手が緩んだように見えた。

 それどころか胴体というか顔というか……とにかく本体部分をご機嫌そうに震わせて、もっと食べたいとばかりに周りを見回すような仕草を取り始めたではないか。

 さっきの眠らせた個体は何も食べようとしなかったのに……ひょっとしてこのまま黒真珠を餌代わりに与え続けたら仲間になるんじゃないかこいつ?




【今回名前が出た動物】

トゥソテウティス(巨大イカ)
メガロドン(サメ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。