八百十頁目
安全な股下がマグマに浸かっていて入り込めない以上、ショットガンの弾を効果的に当てられる距離に近づくのは危険すぎる。
こうなると残る武器はアサルトライフルと何かの役に立てばと念のために持ち込んだロケットランチャーぐらいだが、流石に空を飛んでる時からずっと打ち続けてきたアサルトライフルは手持ちの弾が心許なくなってきている。
マァやメアリーが所持している弾丸も使えるのならば話は別だが、二人とも未だに動けない様子だし俺が下手に動いて隙を見せようものならドラゴンがなにをするのか全く想像もつかない。
だからロケットランチャーを撃ってみたのだが煙を引いて飛ぶため目立つのとアサルトライフルと比較して速度もそこまでではないためか、正面からではドラゴンの反射神経の前にあっさりとよけられてしまう。
それでいて向こうはブレスを放ちこちらを警戒しながら配下の飛行生物を呼び寄せ続けている。
幾らギガノトが処理してくれるからと言って少しはダメージを受けてしまうし、こんな事を無限に繰り返していたらじり貧で何れはこちらが参ってしまう。
それこそもしもこちらの陣形に僅かにでも乱れが生じたところに、ドラゴンが警戒するのを辞めて突っ込んできてブレスを吐いてきたらそれで一網打尽になりかねない。
何よりないとは思うがもしも時間経過であの翼の傷が癒えて再び飛び上がったりしたらそれこそお終いだ……そう判断した俺はあえて非常な決断を下した。
つまり今の体力が残っている時点で攻め込もうと……マグマの中にいるドラゴンに向かって俺は動物達をけしかけた。
迫り来る動物を前にドラゴンはマグマの中から身を出そうとはしない代わりに猛烈な勢いでブレスを吹きかけてこれを迎撃しようとする。
しかし既に覚悟を決めている俺は動物達に心中で謝罪しつつもそのまま突っ込ませて……炎に焼かれながら攻撃するように指示を出した。
これによりユウキィ君の応援で張り切っているギガノトとテリ君の同種が猛烈な勢いで飛び掛かりドラゴンの身体を傷つけ始めた。
それに合わせるように俺もまたアサルトライフルで的確にドラゴンの頭を打ち抜きつつ、炎に包まれている動物が少しでも持つように豚に回復するよう試みさせた。
一転して猛烈な攻勢をかけられたことで流石のドラゴンも動揺したのか、反撃の手が一瞬ゆるみ……その隙を逃さず全力で攻撃を仕掛け続けた俺達。
おかげで一気にドラゴンの身体中が血まみれになり、翼も更にボロボロとなりもはや動かすことも出来ないようだった。
そこまで来るとドラゴンも身を守るのを忘れたかのように激しく身体を振るって抵抗を始め、ブレスを吐きながら前足で体重をかけて動物達を踏みつぶすように攻撃を仕掛けてきた。
元々炎に巻かれていたこともあり、また最前線で攻撃し続けていたギガノト達はその攻撃を正面から受け止めることとなり……次から次へと倒れて行った。
そうして隙間ができるとドラゴンはこちらを睨みつけて来たかと思うと、一気に動物を操っている人間を倒し切ろうとするかのように俺の元へ突進してきた。
余りの勢いに普通に避けては間に合わないと察した俺は後方に控えさせていたユウキィ君と豚をぶつけることで時間を稼ぎつつ、ブレスの当たらない角度へ必死になって回り込んだ。
果たしてそこへドラゴンのブレスが再び飛んできてユウキィ君と豚達をあっという間に火だるまにしてしまう。
ただそうしている間に前線に居ておいて行かれていたテリ君の同種が駆けつけてきて、再びドラゴンの足元に集うと必死に反撃を始めてくれた。
しかし他の生き物が居なくなったことで彼らに攻撃が集中してきて……それでもケーキを大量に持たせているおかげでギリギリのところで回復が釣り合っているようでかなり堪えてくれていた。
ただし火力は明らかに下がっている……また俺のアサルトライフルの弾も残りわずか……余りに絶望的な状況につい手元にある素材を使ってメモ帳を作り遺書めいた弱音を書き連ねてしまったぐらいだ。
それでもそこでフローラが活を入れてくれたおかげで……またドラゴンの身体がふら付き始めたのを見て、気合を入れ直した俺は最後まで抵抗を続けようとした。
アサルトライフルの弾を可能なまで打ちまくり、それが尽きたらテリ君達を囮にして後ろに回り込んではロケットランチャーを数発叩き込んでやる。
するとそこであからさまにドラゴンの身体がぐらついて崩れ落ちそうになり、やったかと思った……次の瞬間ドラゴンは怒りに燃えた眼差しで尻尾を振り回しテリ君達を薙ぎ払ったかと思うとそこに執拗なまでに炎のブレスを何度も叩きつけ始めた。
それでも少しは耐えていたテリ君達だったけれどついにケーキが尽きたのか、一匹ずつ倒れ始めて行った。
もしもテリ君達が全滅したらそれこそお終いだ……だからこそこの隙に最後の攻撃仕掛けようと俺はショットガンを手にドラゴンへと最接近しようとしたが、それは罠だった。
俺の接近を待っていたかのようにドラゴンは即座に俺の方へと向き直ると思いっきり息を吸い始めたのだ。
咄嗟に周りを見回すけれど身を隠せそうな場所も見当たらない……こうなるともう数秒もしないで俺は炎のブレスの直撃を受けるだろう。
僅かに掠った程度のマァですらあんな惨状なのに正面から直撃しようものなら、幾ら高品質なギリー装備を身に着けていても一瞬で絶命するのは目に見えている。
しかしもうどうしようもない……避けようもない死を間近に感じながらも、それでも俺は最後まで抵抗しようと銃を持ち上げようとして……そこで不意にすさまじい速度で飛んで来た矢がドラゴンの瞳を貫いた。
驚いて振り返った俺が見たのは涙でグチャグチャになった顔を拭いもしないまま声なき声を叫びながら弓矢を構えているメアリーの姿だった。
その場で即席で作ったのか、或いはオウ・ホウさんの遺品がどこかに残っていたのか……そんな弓の端にはオウ・ホウさんのものと思われる鉱石が結び付けられていた。
そしてその鉱石が僅かに光ったかと思うとメアリーが信じられないぐらい手慣れた動きで新たな矢をつがえて放ち、ドラゴンのもう一つの眼を見事に撃ち貫いた。
身体のわりに小さすぎるドラゴンの目玉をピンポイントで打ち抜くなんてそれこそオウ・ホウさんのような技術だ……いや間違いなく彼が力を貸してくれているのだ。
両目を撃ち貫かれたことで視界を失ったドラゴンは悲鳴めいた叫びをあげながらも、それでも抵抗しようとばかりに大きく口を広げて再び息を吸い込み始めた。
このチャンスを逃す手はない……いやここで決めなければ、そう思った俺はあえてロケットランチャーを構えるとその口の中を狙って打ち放った。
果たして目が見えなくなったことで避けきれなかったドラゴンの口内にロケット弾がもろに刺さり、そのタイミングで火炎を吐こうとしたのか盛大に引火して信じられないほどの大爆発を引き起こした。
それこそドラゴンの体まで爆炎に包み込まれるほどの威力に伴った爆風を堪えながらも必死に煙の向こうにいるドラゴンの様子を伺おうとした俺だが……そこで不意に左手首の鉱石が反応し、ドラゴンのホログラムが浮かび上がってきた。
これはオベリスクの試練を乗り越えた時に起こる現象だ……驚きながら再びドラゴンの方へ視線を投げかけた俺は、ようやく晴れた爆炎の向こうに完全に頭が吹き飛び、そのまま地面に力なく崩れ落ちるドラゴンの姿を見たのだった。
そう俺達は勝った……多くの犠牲を払いながらもついに最後のオベリスクを……あの強大な敵に遂に打ち勝ったのだ……
【今回名前が出た動物】
テリジノサウルス(テリ君)
ギガノトサウルス
ダエオドン(豚)
ユウティラヌス(ユウキィ君の同種)
プテラノドン
ディモルフォドン(始祖鳥のような生き物)
ドラゴン