八百四十一頁目
……この島でどれだけの月日を過ごしてきただろうか。
余りにも濃厚すぎる日々のせいで、もはやこの島にいる以前の平和な文明社会で過ごしていた頃の記憶がどこか遠い世界のことに思えてしまう。
父親や母親、通っていた学校にいた友人……この島で暮らし始めた頃は記憶の中にいる親しい人間達に会いたかったし、自宅のベットに戻ってぐっすり休みたいと何度も考えていたというのに今の俺はあそこに戻ろうという気持ちは全くなかった。
既に内心では俺自身、というかこの島にいる人間……いや生き物全てが人工的に生み出された存在だと受け入れてしまっているというのもある。
しかしそれ以上にこの島で出会った人達との交流で得た絆が尊く思えているからだろう。
オウ・ホウさん、マァ、メアリー……彼らと共に力を合わせて危険な出来事の数々を乗り越えてきたことが俺の人生にとって最も充実している時間だったのだ。
何より俺はここでフローラと……世界で最も愛する女性と出会えたのだ。
彼女にあえて愛し合えたというだけで俺は産まれてきた意味があったと思う。
もし本当に俺の身体と記憶が作りものだとしても、ここで経験した全ては間違いなく本物なのだ。
だからもうこの火山の中にある洞窟の先にあるものがなんであれ……突き進んだ先にどんな真実が待ち受けていようと受け入れる覚悟はできてる。
さあそろそろ時間だ、忘れ物がない様に持っていくものを確認して……行こう。
八百四十二頁目
完璧に準備を整えた状態で火山の洞窟前までやってきた俺は、そこで待っていてくれた動物達と……メアリーとマァに笑いかけた。
二人とも最後のお別れを言うついでに洞窟内への動物の運搬を手伝ってくれるというのだ。
数が数だし足場が不安定なマグマの傍ということもあって本当に助かる……のだがやっぱりこの段になっても二人は俺を引き留めようとしてくる。
だけどもう覚悟は決めているのだから覆す気はない、そう思って説得するけれど二人は必死になって何度も何度も考え直すように告げてくる。
何せこの洞窟はいつでも開けるのだからまだ他のことを試してからでもいいだろうとか、もっと人が増えてからとか……確かに一理はあると思うけれどこの島の停滞を許さないシステムを俺は甘く見ていない。
ここまでやっておいてここで日和ったりしようものなら、この島の主は今まで以上に苛烈な方法で俺達を追い立てに掛かるかもしれない。
それこそ動物ではなく天変地異を引き起こしたりもしかねない……そういう意味もあって、この場に残る二人の為にも俺が引き下がるわけにはいかなかった。
だから必ず生きて戻って来るからと……この洞窟を攻略して戻って来るからと二人に約束して、それでも不安そうにしている二人に俺は無線機を渡した。
オウ・ホウさんがしたように通じる限りこれで内部の情報を伝えることで万が一に備えつつ、自らの状況を教えることで安心してもらうと思ったのだ……が逆にメアリーは余計に不安そうになってしまった。
考えてみたらこのやり方をした際にオウ・ホウさんは……どうやら当時のことを思い出してしまったようで、やっぱり危険なことは辞めて欲しいと涙目で縋りつかんばかりの勢いだ。
そんな彼女をどう説得したものかと考えに考え、最終的に俺はメアリーにこの日記を預けることにした。
中には俺の赤裸々な思い……というか色々と恥ずかしい思い出などもぶちまけられているため、これを読まれないためにも必ず取りに戻らなければならなくなる。
この日記が俺にとってこの島に来てからずっと身に着けていた相棒のような存在であると知っているメアリーは、これを受け取ったことでようやく渋々とだが納得してくれて……早く戻らぬとどうなっても知らぬぞと脅すような口調で呟きながらもようやくぎこちなく笑顔を浮かべてくれた。
本当に仲を読まれるのだけは勘弁してもらいたい……その為にも絶対に生きて戻らないと……そう生きて戻るために、俺はこの日記をメアリーに託すのではなく預けていくのだ。
だから……また筆を執る時まで、またしばしのお別れだ……。
もしももどれなかったらごめんそのときはこのにっきをさんこうにしてあたらしくくるひとたちとこのしまのこうりゃくについてかんがえてください。
じゃあいってきます。
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……馬鹿……必ず戻ると……帰ってくると約束したではないか。
あの時の言葉は嘘だったのか……本当に愚か者め。
貴様が約束を破るのならば妾も遠慮なくこの日記を読ませてもらうぞ。
……嫌だというなら早く戻って来るがいい……戻って来い……来てよ馬鹿。
後二回で終わり……になる予定です。