ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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楽園の方舟

「……本当にとんでもないところだな」

 

 一通り襲い掛かってきた敵を殲滅し終えたところでようやく一息つく余裕が出来てきた。

 尤も完全に気を抜くことはできない……起伏のある地形の影に小型の動物が潜んでいないとは限らないからだ。

 ポンプアクション式のショットガンから手を離さないまま顔を流れる汗も軽く拭うだけに済ませ、連れて来た動物達の様子を伺う。

 

(前線に立って戦ってたティラノ達が軽傷を負ってる程度か……まあ高品質サドルを付けてる上に豚が回復してるから当然なんだけど……)

 

 言い方を変えれば最終決戦用に考え得る限り最高の状態に仕上げたティラノ軍団とその仲間達ですら戦闘後には手傷が残る程度には苦戦してしまったとも言える。

 しかもこれはまだ序の口なのだ……何せ俺が今居るところは、火山の中にあった入り口から少し進んだ程度であり少し下がれば閉じたばかりの扉が見えるほどなのだから。

 

(わかってたことだけど敵の強さも種類も量も今までの洞窟とは比べ物にならない……そして環境も……)

 

 火山の中ということもあってか、奥へと続いている道の脇には熱波を放つマグマがドロドロと流れている。

 道自体はまだティラノが数匹並べる程度には余裕があるけれど、万が一ここに落ちたらその時点でお終いだ。

 それこそ戦闘中にもみくちゃとなり敵の動物に押されるまま足を滑らせる可能性も十分にあることを考えれば、この洞窟の攻略には今まで以上に慎重な行動と咄嗟の判断力を求められることになるだろう。

 

(マグマの照り返しのおかげである程度見通せるぐらいの明るさがあるのが救いだけど薄暗い事には変わりないし、少しでも気を抜いたら大変なことになる……とにかく自分だけじゃなくて動物の動きもしっかりチェックしておかないと……敵を必要以上に追いかけてマグマに落ちて数が減ったりしかねないからな……)

 

 最頭で思うのは簡単だが、実際に敵の警戒から指示出しまで本当に全部一人でこなせるのか少し不安になる。

 今までは危険な場所に挑む際には俺の傍には必ず頼りになる仲間達がいたくれていた。

 フローラにメアリーにマァ……そして共に多くの修羅場を潜り抜けてきたオウ・ホウさん。

 

 彼らが居てくれたからこそ俺はどんな時も一つの動作に専念できていて、だからこそどんな危機も乗り越えてこられたのだ。

 

(前に一人で回った洞窟は一度攻略済みで内部の状況やどんな敵が出るのかわかってたからこそだもんなぁ……)

 

 まして今俺が挑んでいる場所はただでさえ完全に初見の洞窟であり、どんな敵が出てくるのかも未知数の世界である。

 それでいてこの島の集大成とも言える洞窟であり、間違いなく今まで挑んできたどんな場所よりも恐ろしい苦難が待ち受けているはずなのだ。

 果たしてそれを本当に俺なんかが一人で攻略しきれるのか、考えれば考えるほど不安が「痛っ!?」

 

 不意に右手首が痛み反射的に視線を向けると、そこに埋め込まれている鉱石が俺を励ますように淡く輝いていた。

 

「……ありがとうフローラ、そうだね俺は一人じゃなかった……君もオウ・ホウさんも傍にいるじゃないか」

 

 実際に持ち込んだ弓矢に結び付けられているオウ・ホウさんの鉱石もまた同じように淡い光を放っているのを確認して、俺は一人ぼっちなんかではないと改めて気づくことができた。

 我ながら単純な物で、二人が傍で見守ってくれていると思うと不思議なぐらい気持ちが落ち着いてくる。

 

(しっかりしろ俺っ!! この二人の為にも俺は絶対にこの洞窟の試練を乗り越えると誓ったじゃないかっ!! こんな簡単に落ち込んでいてどうするっ!!)

 

 そうして冷静になったところで俺は改めてこの洞窟を攻略する意思を固めると、避難させていた非戦闘要員を呼び寄せる。

 作業机の代わりになるサドルを付けたビーバーに回復要因の豚と戦闘力はあるが咆哮を上げて仲間を勇気づけることに専念させているユウキィ君……そして敵を探知することのできるパロロ君だ。

 彼らを失うと一気に厳しくなるために常に後衛グループとして一度に指示を出せるように教育していたおかげで、前方でティラノ軍団が暴れているのを見ても取り乱さず後ろで待機してくれていた。

 

(やっぱりグループ単位で指示を出せるよう調教しておいて正解だったな……前衛と後衛の間に待機している準戦闘員たちも血気にはやって戦闘に参加したりしなくて済んでるみたいだし……)

 

 一番前に出ているのは高品質のサドルに身を固めたティラノ軍団と同じく高品質のサドルとケーキで回復できるテリ君達であり、その後方には万が一彼らの壁を抜けてきた動物達を対処するため準戦力であるカルちゃんの同種と群れで行動する肉食にワニやレオ君、そして虫対策のカエルが控えている。

 とりあえず最初の戦闘では俺の思惑通り、彼らが壁となり最後尾にいる子達をしっかりと守り抜いてくれていた。

 

(この調子で進めればいいんだけど……そんな単調なわけないよなぁ……)

 

 今まで攻略してきた洞窟の質の悪さを思い返せば、間違いなくこんな単調な方法で最後まで進めるとは思えない。

 だからといってこれまでのようにその厄介な仕掛けを調べてから出直すことが出来ない以上、俺に出来ることはやはり慎重に進むことだけだった。

 

「……パロロ君、頼むよ」

「ブォーっ!! ブォオオっ!!」

 

 呼び寄せたパロロ君に頼み独特な咆哮を上げてもらう。

 空気すら目に見えて歪んでいると錯覚しそうなほどの咆哮は洞窟内に反響して広がっていく。

 これでもし動物が物陰や……或いは前に見た厄介極まりない地面に潜んで飛び出してくる奴が隠れていたとしても、必ず何かしらの反応を示して自分の要る場所を明らかにしてくれるはずだった。

 

(……反応なし、か)

 

 これでようやく一安心……と胸を撫でおろすわけにはいかない。

 ないとは思うがこの島の管理者の底意地の悪さを思えば、ひょっとしてパロロ君の咆哮で探知できない奴がいてもおかしくはないのだ。

 それでも逆に言えば残っている可能性があるのはそう言う能力を持った奴だけであり、また軽く見回して視界に入らない所を見るとそんな生き物がいたとしても中型以下のサイズの動物だろう。

 

(基本的にこの島で見て来た動物の強さは身体の大きさに左右される……まあ豪雪地帯にあった強敵ばっかりの洞窟みたいに例外もなくはないだろうけど、それでもこのティラノ軍団なら蹴散らせるはずだ)

 

 身体が小さい動物は大きな動物に攻撃されると反動か、あるいは迫力に押されてか大きく後ろにのけぞることが多い。

 だからもし未知の動物が隠れていたとしても、その戦闘力がどんなものであったとしても現状においては恐れるに足らないはずだ。

 今までこの島で生き抜いてきた俺は多種多様な動物と戦い抜いてきた……その経験から安全だと判断を下した俺は今度こそ肩から力を抜き手に持ったショットガンを下ろすことができた。

 

「ふぅ……ん?」

『おいっ!! 生きておるのかっ!? どうなんじゃっ!! 返事をせんかっ!!』

 そうして息を付いたところで腰に下げていた無線機からメアリーの慌てたような声が聞こえていることに気が付いた。

 

(そう言えば洞窟に入って中の情報を少しでも共有しようとスイッチを入れて……そのまますぐに戦闘が始まっちゃったんだったな……)

 

 スイッチが入りっぱなしだったせいでこちらの戦闘音が拾われてしまっていたようだ。

 そして激しく争う音が終わったと思ったら急に静かになって……もしやの事態を想像して心配の余りこうして必死に呼びかけているのだろう。

 

「……心配させて悪い……大丈夫、俺は無事だよ」

『あっ!? よ、よかっ……さ、さっさと返事をせぬかっ!! 全く貴様という奴は……』

「ごめんごめん、周辺の安全状態に気を配ってたからつい気付くのが遅れて……」

『ふ、ふん……その言い方じゃともう今は安全なようじゃが……あっ……ま、マァ殿……っ!?』

『だいじょうぶかっ!? けがしてないかっ!? そっちはてきたくさんかっ!?』

 

 俺の声を聞いたことでとりあえずメアリーが落ち着いてきたようだが、そこへ今度はマァが会話に割り込んできた。

 相変わらずたどたどしい口調ながらも、声の様子から必死な様子で俺のみを案じてくれているのが伝わってくる。

 元々二人とも俺がこの洞窟へ挑むのを危険すぎると言って何度も引き留めていたぐらいなのだから、本当に心配で仕方がないのだろう。

 

(この調子だと俺との連絡が少しでも遅れれば、そのたびに不安にさせちゃいそうだな……まして俺がもし途中で目的を果たせず行き倒れたりしたら……)

 

 フローラとオウ・ホウさんの為にもと思ってこの洞窟へ挑んだのだけれど、道半ばで俺が倒れてはメアリーとマァに俺を一人で行かせて見殺しにしてしまったという後悔をさせてしまうことになる。

 大切な仲間達にそんな余計な心労を背負わせたくはない。

 

(そうだよな……その為にも俺は絶対にこの洞窟を攻略して……フローラとオウ・ホウさんと皆で生きて帰らなきゃいけないんだっ!!)

 

 大切な仲間達のためにも……何よりも俺自身が幸せになるためにも、必ずこの島に秘められた謎とテクノロジーを解き明かさなければならないのだ。

 改めて自らの目的を思い出した俺は絶対に成功させて見せると固く決意を固め直すが、それでも敢えて万が一に備えて……それこそかつてのオウ・ホウさんのように洞窟内部の情報は彼らに伝えておかなければならないだろう。

 

「大丈夫だよマァ、俺は怪我一つしてないから……だけど洞窟の中は君の言う通り物凄い種類の敵が待ち構えていたよ」

 

 無線機に向かって声を出しつつチラリと先ほど倒したばかりの敵の死骸へと視線を投げかける。

 果たして地面に力なく横たわっている動物達は大きいものから小さい奴まで多種多様であった。

 それこそ初めて俺を襲った毒を吐くエリマキトカゲから特殊個体のティラノサウルスまで揃って襲ってくる様は、それこそこの島中にいる肉食全てがこの場所に集っているのではないかという予感をもたらしてくるほどだ。

 

「……とりあえず見かけた敵は全部報告するから一応メモを取っておいてくれ……後は環境についても入ってすぐに脇にある溝のようなところをマグマを流れていて熱が凄いよ……だからもしも君たちがこの洞窟に挑もうとする際は……」

『どうでもいいっ!! とにかくいきてかえれっ!!』

『そうじゃっ!! 次のことなど……もしものことなど考えたくもないわっ!! そんな事より無事に帰ってくることだけを考えよっ!!』

「……ああ、もちろんだよ……だけど本当に何があるかはわからないから……それこそ俺が中で怪我して動けないけれど生き残ってるみたいな状況だってありえるわけだからさ……その時に救助に来てくれる人の助けになればいいかなって思いもあるから……」

 

 俺の報告をどうでもいいとばかりに切って捨てる二人にそれでも記録を残しておいてもらいたくてあえてそんな言い方をしたが、実際にそんな状況になっても彼らに助けを求めることはしないつもりだ。

 ただでさえ仲間を失うことがトラウマになっている彼らのことだ。

 俺が助けを求めたりしたら一刻も早く駆けつけようとろくに準備もせずに乗り込みかねない。

 

(万が一の時は足掻き続けはするつもりだけど、無線自体は死んだふりをして通信を打ち切ろう……もしこの洞窟にあの二人が挑むのならそれこそ完璧に準備をしてからにしてほしいから……)

 

『……全く、あんな強気で飛び出しておいてもうそんな弱気な発言するなんて……困った人……』

「本当にごめん……とにかく万が一の時はよろしくね……じゃあそろそろ先に進むから一旦切るよ」

『あっ!? ちょ、ちょっとま…………』

 

 そんな俺の想いは露知らぬ二人が無線機の向こうで仕方ないとばかりにゴソゴソと作業する音を耳にしたところであえて会話を打ち切り、そのまま無線機を声が耳に届きにくい腰へ戻してぶら下げておいた。

 下手に長く会話をして俺の本心を見抜かれても困るし、先を進むためには気を引き締めて緊張感を保たなければならない。

 だからこそ洞窟の攻略に集中するためにあえて報告するような場面に出くわすまでは会話しないようにしたかったのだ。

 

 尤も途中、何かの間違いで連絡する間もなく無線が使えない状態になっても困るので少しでも情報を残すべくスイッチだけは切らないでおくことにする。

 

「……お待たせ皆、さあ進もうか?」

「ゴアァアアアアアっ!!」

 

 ピュゥと口笛を吹きつつ待機していた動物達に前進するよう指示を出すと、前面に立っていたティラノ達が大きく咆哮を上げながらゆっくりと進み始めた。

 次いで俺は壁を登れて敵を出血させれる戦闘力が高めであるレオ君の背中に跨ると、同じく周囲にいる準戦闘員に指示を飛ばしティラノ軍団の後ろを付いていく。

 最後に後方に陣取っている援護要員だけは少しだけ距離を保ちながら俺の後へ付いて回るように指示を飛ばした。

 

 もちろんメアリーが子供の頃からしっかりと躾けている動物達は一匹たりとも俺の指示に逆らうことはなく、従順に進行し続けていた。

 おかげで俺達は順調に洞窟の奥に向かうことが……できるはずがなかった。

 

 *****

 

「ストップっ!! すとぉおおっぷっ!!」

「グォォ……っ」

 

 叫びながら口笛を吹くことで、少し進んでは止まるようにティラノ達へと指示を細かく飛ばしまくる俺。

 

(く、くそ……まさかこんなに道がグネグネと曲がっているなんてっ!!)

 

 まるで火山の奥へと誘うように続いている坂道であったが、実際に進んでみるとつづら折りのように急カーブを描いていた。

 そのせいで少し進んでは方向転換することを求められるのだが、ティラノを始めとした身体が大き目な動物達は小回りさせるのも一苦労だった。

 しかもすぐ傍にはマグマの流れる溝……がいつの間にか底が抜けて崖となっているではないか。

 

 マグマが滝のように流れ落ちていく下の方をそっと覗き込んでみれば、当然というかマグマの海と言わんばかりの真っ赤な光景が広がっている。

 

(あんなところに落ちたら命がいくつあっても足りない……本当にこの島の主は意地が悪すぎるっ!!)

 

 これでは小回りが苦手な動物達を無理に追従させて各々の判断で進ませようものなら、ちょっとしたことで勢い余って足を踏み外してあっという間に全滅してしまう。

 おかげでせっかくグループ単位で指示を飛ばせるようにしたにもかかわらず、俺は事細かく指示を飛ばす……のですら危険があるためわざわざカーブに差し掛かるたびに一匹ずつ背中に乗りサドルの上から手綱を取って動かさなければならなかった。

 

「シュルルっ!!」

「ああもぉっ!! まだ残ってたのかよっ!?」

 

 もちろん曲がり角であろうと関係なく敵性動物はわんさか待ち構えているため、動物を操りつつこいつらの対処をしなければならないのだ。

 その際にも足を滑らせてマグマに落ちないよう注意しながら戦わなければならないため、非常に神経が磨り減らされて精神的な疲労がどんどんたまってくる。

 

(出来れば中型の動物をメインにして進みたい……けど何だか奥に進むたびに敵が固くなってる気がするから戦力的な不安もあるし、何より……来たっ!!)

 

「ピィイイっ!!」

「クソっ!! この害悪鳥めっ!!」

 

 襲ってきたムカデを血液に警戒してショットガンで射貫いてやったところで、耳障りな風切り音と共に小柄な鳥が飛び掛かってくる。

 こいつは前に島で襲われた時と同様に不意に奇襲を仕掛けてくる上に、動物の背中に乗っている俺だけを見据えて執拗に叩き落そうとしてくるのだ。

 ただし原始的な鳥だからか余り飛行能力が高い訳ではないようで、ティラノに乗っている今の俺には攻撃が届くことは殆ど無い。

 

 逆に言えば中型程度の動物に騎乗している最中に襲われるとシャレにならないことになる……実際に少し前までレオ君に乗っていた際に一度叩き落とされて途轍もない絶望を味わったのだから。

 その時は既に前衛が敵を倒し終えた後であり念のためにパロロ君を呼び寄せようとしたタイミングだったこともあって既に他の敵が居なかったことと周りに小回りの利く中型の動物が居たからこそ助かったのだが、これがもし戦闘中だったとしたら……今思い返しても恐ろしい瞬間だった。

 

「グォオオっ!!」

「ぴゅぃ……っ!?」

「……ふぅぅ、たく油断も隙も無い」

 

 俺目掛けて飛んで来た始祖鳥モドキは今回も飛行力が足りず逆にティラノの眼前に飛び出す形となり、それを捕食させて処理することでほっと一息つくことができた。

 

(たまにティラノの背中に居ても攻撃が当たりそうになるし本当に厄介な害悪鳥だ……それにあの穴から飛び出してくる奴も……まあ最も危険な洞窟であろうここにこいつらがいないわけがないとは思ったけどさぁ……)

 

 チラリと後ろに視線を投げかけると何度か戦闘した動物の死骸が目に付くが、その中には前に強敵ばかりの豪雪洞窟で何度も俺達を追い返してきたこちらを気絶させようとする動物も混じっていた。

 

(やっぱりちょっと進むたびに敵の姿が見えなくてもパロロ君で探知したほうが……でもただでさえ曲がり角の度に時間を食ってるのにこれ以上足止めを喰らうのはなぁ……)

 

 別に先を急ぎたいわけではなく、また焦っているつもりもない。

 ただ一つだけ心配なのは、この洞窟がどれだけ深いのかわからないという点だった。

 

(今までの例から考えるとそこまで長くはないと思うけど、最後の洞窟だし例外という可能性もあり得るんだよなぁ……それこそ今までのサバイバル能力を確認しようと食料とかを自力調達できないと攻略できないぐらい深い可能性も零とはいいきれないし……)

 

 尤も仮にそうだとしても今までこの島で生き抜いてきた俺ならば手持ちの食料が……まあ一週間近くは持つぐらいの量はあるけれど、とにかく尽きたとしても倒した動物の肉を食べて生き抜くのは訳のない話だ。

 ただ問題は水だ……マグマが流れていて猛烈な熱波に包まれている現状では、とても水分を調達できる場所があるとは思えない。

 まあもっと先まで進めばどうなるかは分からないし、フローラが残したカスタムレシピを参考にメアリーが作ってくれたドリンクもまた大量にあるから当面は問題ない。

 

 逆に言えばそれが尽きるころまでに洞窟攻略の目途が立っていないと不味い訳ではあり、だからこそ出来る範囲で早めに進めるよう努力したいところでもあった。

 

(でもやっぱりこの害悪共の奇襲に気を付けるのが最優先だよな……先のことを考え過ぎて足元を掬われたら元も子もないし……)

 

「よし、じゃあパロロ君また……っ!?」

「シャァアアっ!!」

 

 足を止めてティラノの背中から後ろの方にいたパロロ君を呼んだところで、不意に岩陰からエリマキトカゲのような奴が飛び出してきた。

 余りにいいタイミングだったため指示出しが少し遅れてしまった俺の前で、そいつはエリマキを広げて毒を吐き出すポーズをとっていた。

 

(不味いっ!?)

 

 本来今の俺達にとって雑魚でしかないエリマキトカゲだが、その毒には視界を遮る効果が有る。

 足場が不安定な現状ではそれは致命的だ……それこそもしも俺の乗っているティラノが混乱して足を踏み外してマグマに落ちてしまえば全てが終わるのだ。

 

(くっ!! こうなったらショットガンで毒より先に打ち抜くしか……っ!!)

 

「間に合「ボォオオオっ!!」えっ!?」

「キュルルっ!?」

 

 ティラノの手綱から手を離してショットガンを引き抜こうとしたところで、突然パロロ君が大声で叫び始めた。

 余りの音量に一瞬あっけにとられた俺だけれど、真正面から咆哮を受けたエリマキトカゲは思いっきりたじろいだかと思うと慌ててこちらに背を向けて逃げ出し始めた。

 

(これは……あっ!! そう言えばパロロ君は敵をたじろがせる咆哮も出せるんだったっ!!)

 

 仲間にしたばかりの頃しか使っていなかったためすっかり忘れていたが、パロロ君は敵を探知するだけでなく敵を威嚇して追い払うこともできるのだ。

 尤も自分より体格が小さい奴ぐらいにしか効果はないのだが、エリマキトカゲ相手には十分すぎた。

 

(多分俺が声を掛けたけど指示を出す前にあの敵が飛び出してきたからパロロ君は『戦え』って意味だと思ってあの能力を使ったんだろうな……まあでもおかげで助かったな……)

 

「ふぅ……」

「キュルル……キュゥゥっ!?」

 

 マグマの海にダイブする危機から脱した俺が安堵に胸を撫でおろす中、必死に逃げ惑っていたエリマキトカゲの方が足を滑らせてマグマの海へと飛び込んでいった。

 

(あれじゃあ助からないだろうなぁ……ってそうかっ!! 別に無理して敵を全て倒さなくてもああやって追い払えば勝手にマグマに落ちて消えてくれるじゃないかっ!!)

 

 ただでさえ奥に進むほど動物達は強敵ばかりの洞窟と同様に地上で見た同じ個体とは比べ物にならないほど硬く強くなっていく傾向にあるのだ。

 それを正面から押し合いながらマグマに落ちないよう気を付けつつ全滅させて回るのは非常に危険だろう。

 それよりはこうやってパロロ君で追い払える奴は追い払ってマグマに落としてしまったほうがずっと安全ではないか。

 

(流石にいくら硬くて強くなっても生き物である以上はマグマに落ちればお陀仏だもんなぁ……パロロ君は本当に役に立つなぁ……こんな能力を持つ子は他にいない……ん?)

 

 そう思ったところでふと俺は何かが引っかかるような気がして、首を傾げながら頭を持ち上げて見た。

 そしてよくわからないモヤモヤを抱えながら何気なくぐるりと周りを見回し連れ込んだ動物を眺めて見て……後方で皆に勇気を与える咆哮を上げているユウキィ君に視線が釘付けとなった。

 

「……そう言えば君も咆哮を上げるのが得意だったよね?」

「ブォォォ……」

「まさか君も同じことが出来たり……いやそんな都合のいい話が……いやでも……」

 

 ぼやきつつユウキィ君の同種が野生で暴れていた姿を思い返した俺は、敵対する草食がよく逃げ回っていたことを思い出した。

 

(あの時は怪我した個体が逃げ出そうとしてるとばかり思ってたけど、考えてみたら殆ど怪我してない奴が逃げてたり……かと思ったら急に戦意を取り戻したように挑みかかったりしていたような……?)

 

 その様子はそれこそパロロ君の咆哮の影響を受けた敵の挙動と不思議と似通っているような気がした。

 

(そう言えば基本的に俺はこの子を戦闘に参加させてない……というか勇気を与える咆哮を優先して使うように指示を出してた……ひょっとして使えたりするのか?)

 

「……次に敵が出てきたら試してみるかな?」

「ブォォォ……?」

 

 俺のつぶやきに可愛らしく小首をかしげるユウキィ君。

 この判断がこれ以上なく正しいと証明されるのは、それから少ししてからだった。

 

 *****

 

「ボォォォっ!!」

「キュィィっ!?」

「ピィィっ!?」

 

 ユウキィ君の厳つい咆哮を受けた敵が必死に逃げ惑い始め、どいつもこいつもマグマの中へと落ちていく。

 

(まさかここまで強力だなんて……もっと早く気づいておけばよかったなぁ……)

 

 思った通りユウキィ君には味方を鼓舞するだけでなく、敵を威圧する咆哮を上げることも出来たのだ。

 しかもその効果はパロロ君など目ではなく、何と殆どの生き物に効いてしまうほど強力な物であった。

 それこそ敵として出てきた俺の主力でもあるテリ君の同種は草食だからともかく、メガちゃんの同種やティラノに似た群れで動く肉食から果てはユウキィ君自体の同種ですら数回咆哮することで追い払えてしまえるほどだ。

 

 もちろんあの厄介な害悪鳥は愚か何と穴の中に隠れている奴にすら効いてしまうのだから、余りの便利さに喜びを通り越してショックを受けてしまいそうになる。

 

(もっと早く気づいていればあの豪雪洞窟の攻略も楽だったのになぁ……ロケットランチャーの弾だってこんなに作る必要はなかったし、そうなれば素材だって節約できて……はぁぁ……)

 

 ともかくユウキィ君の大活躍により敵の処理に掛かる時間は遥かに短くなり、おかげで俺達の進行速度は少しだけ上がってくれた。

 尤も敵側にもユウキィ君の同種が出てくることがわかり、やり返される可能性を考えると余計に気を抜くことが出来なくなってしまった側面もある。

 こうなるともう俺はティラノ以外に乗るという選択肢はないと言っていいだろう。

 

(とにかくティラノを先頭に立たせて他の子達は後方に……特に咆哮の影響を即座に受ける弱い子は更に奥の方に待機させておかないとな……だけど俺をはたき落とそうとする子が隠れてると不味いからパロロ君による確認だけはしておかないと……)

 

 戦闘の度にいちいち隊列を入れ替えたりするのははっきり言って手間だけれど、こればかりは仕方が無いだろう。

 何たって全ての敵と戦い、戦闘後に仲間の傷を確認しては回復の時間などを取っていた時に比べればこれでもずっとマシな方なのだから。

 何よりも敵との乱戦でもみくちゃになってマグマに落ちるリスクがほぼ零になってくれたのだから、それだけでも十分すぎる。

 

(この調子ならとりあえず足を滑らせてマグマに落ちて全部が台無しになるような最低な終わり方だけはしなくてすみそうだし、道中の敵にやられる心配も減った……これならよほどのことがない限り最後まで安定して進める……わけないよなぁ……)

 

 今までの経験からしてこんな単調に洞窟の攻略が終わるはずがないと、俺は何となく確信に近い思いを抱いていた。

 絶対にこのままでは済まない……何か必ずこの洞窟に挑んだ者に絶望を与える罠か何かが待ち受けていることだろう。

 

(……そして多分それは……この入口と比べて天井の高い洞窟の構造と言い、出てくる敵の種類の多さと言い……きっとこの先のどこかには『奴』が居ても不思議じゃ……ん?)

 

 パロロ君に敵を探知してもらって安全を確保できた道を再び曲がり角にぶつかるまでじりじりと進みながらこの先に待ち受ける何かを想像していた俺。

 しかし予想に反して曲がり角に到達する前に視界が開けてきたことに気づき、すぐ思考を打ち切り目の前の光景に意識を引き戻した。

 

「……別れ道、なのか?」

 

 果たしてそこは今までの坂道と打って変わり、広く開けた空間となっていた。

 正面は行き止まりで崖となっているらしく、どこからかマグマが滝のように流れ込んで行っているのが見て取れた。

 代わりに左右の壁沿いにはティラノが三匹ほど並んで歩けるほどの道が続いているように見える。

 

(今まで一本道だったのに急にこうくるか……これは間違った方には罠がありそうな気がするなぁ……)

 

 この島の主の意地の悪さを文字通り痛いほど理解している俺は、少しでも何か進む先の手掛かりが欲しくてティラノの背中から目を凝らしてみた。

 けれども洞窟の薄暗さと地面の凸凹が相まって、どうしても先を見通すことはできそうになかった。

 

(こうなったら仕方がないから少しでも足場が良さそうな方……それとも敵が出た際に戦いやすそうな方へ進むべきか……いや、むしろ俺が嫌だと思うほうが正しい道のりという可能性も……まあどっちにしても正面のマグマが流れ落ちている先が落ちても平気そうかだけは念のために確認を……ん?)

 

 どちらが正解の道なのか判断が付かなかった俺は、せめてこの場所から確認できる地形を可能な限り確認しておこうと正面に見える崖の中を覗き込んで……そこにティラノが二頭ギリギリ並んで進める程度の道があることに気が付いた。

 まるで穴の中をらせんを描くように続いている道は、マグマが溜まっている底近くにまで達しているようだった。

 

(……あっ!? 道の先に横穴がっ!? これが正解のルートかっ!?)

 

 崖に近づかないと見つからないように隠されていた道。

 しかも幅も狭く足を滑らせればマグマだまりに落ちるという一番危険でもある道。

 直感的にこれが正しい道だと判断した俺は、早速パロロ君を呼び寄せて道中の敵を確認しつつどうやってあの場所へ皆を連れて行くか考えるのだった。

 

(一匹ずつなら余裕はあるけど万が一にも落ちたらお終いなマグマだまりがすぐ脇にある道……これはまた一匹ずつ乗り換えながらゆっくりと進むしか……ただ途中に敵が居たら困るから、ちょくちょくパロロ君で確認して見つけ次第引き返してユウキィ君を慎重に咆哮が届く距離まで進めて……問題は咆哮の利かない特殊個体やティラノだった場合だけどその時は一度下がって遠距離武器で呼び寄せて……)

 

 *****

 

「……よしっ!! 当たったっ!!」

「シャァアアっ!!」

「そうだそのまま来い来い……ユウキィ君達、今だっ!!」

「「ボォォォっ!!」」

 

 マグマの上をアーチ状に続いている細い道を渡ってきたワニを中心とする敵の動物達にユウキィ君達の咆哮をもろに浴びせてやる。

 果たしてこいつらもまたすぐに慌てふためきながら来た道を戻ろうとして、別の動物と身体をぶつけ合ってはマグマの中へと落ちていく。

 

(全く……本当に底意地の悪い洞窟だよ……足場の狭い道の先に飛び掛かってくる動物を待ち構えさせておくなんて……)

 

 この洞窟で初めてぶつかった別れ道の中から正解であろう道を見つけて進んだ先で敵を処理しながら、もう何度目になるか分からないこの島の主の意地の悪さに心中でぼやいてしまう俺。

 何せあの細い道を動物達が落ちないように慎重に物凄く時間を掛けながらようやく抜けた、と思ったら次に辿り着いた場所はもっとひどい状況だったのだ。

 

(急に壁が途切れて何事かと思ったら、まさかマグマだまりの中心を進む羽目になるなんて……)

 

 それだけでも熱波と周囲に流れるマグマの圧力でプレッシャーを感じるというのに、進むべき道は途中で更に細くなっていき一番ひどいところではティラノが一頭渡れる程度の幅しかないのだ。

 尤もその場所さえ抜けてしまえば先には再びティラノ数匹が並べる程度の足場がある……というのに、そこにはこちらに飛び掛かってくるワニを中心とした敵がぞろぞろと待ち構えているではないか。

 これではもしも普通に進もうものなら、ユウキィ君が咆哮を上げる前に向こうの突進してくる勢いでマグマに落とされてしまっていただろう。

 

(遠距離武器の練習をしておいて正解だったな……もし動物が揃ってるからってそういう準備を疎かにしてたらどうなっていたことか……)

 

 前にどこかの洞窟でやったように先に遠距離武器で相手の動物に攻撃することでこちらの存在に気づかせて向こうから来てもらい、不安定な足場に差し掛かったところでユウキィ君の咆哮で蹴散らす。

 咄嗟に思い浮かんだやり方で何とか対処できてほっと一息つく……が、この安堵の溜息もこの洞窟に入ってから何度目になるだろうか。

 

(本当に一瞬たりとも油断できない洞窟だよ……だけど本当に今まで学んで来た技術や利用してきた道具、そして飼い慣らし使いこなしてきた動物の能力……それらを上手く組み合わせないと攻略できない場所だなんて……やっぱりこここそがこの島の集大成なんだろうな……)

 

 今まで何度も推測してきたことだけれど、やはりこの洞窟こそがこの島の根幹なのだろう。

 そして俺達人間がこの島に呼ばれた……或いは産み出されたわけは……いやこの島に存在する全てがこの場所に到達し、攻略するために用意されたものなのではないか。

 

(一体この先には何があるんだ……この島の主は俺達に何を期待しているんだ……いやそんなことはどうでもいい……それよりも大事なことは……)

 

 チラリと右手首に埋め込まれてる鉱石と背中に下げている弓矢に下がっている鉱石へ視線を投げかける俺。

 もしも本当にこの島の主が人間を含めた動物を産み出しているのだとしたら……生命を作り出す能力を持っているのだとしたら……そしてこの鉱石にまだ二人の意志が本当に残っているのだとしたら……。

 

(それだけでいいんだ……この二人を生き返らせられるのなら俺はもう……だから頼むからどうか……どんな試練でも乗り越えて見せるから……そこに希望がありますように……)

 

 軽く目をつぶり祈るように右手首の鉱石に手を重ねる。

 すると指の隙間から俺を励ますような、温もりを感じさせる仄かな明かりが漏れ始めた。

 

(ありがとうフローラ……こうしてるといつだって君を感じられる……だけどフローラ……会いたいよ……もう一度君の声を聞きたいんだ……だから……っ)

 

「……行こうっ!!」

 

 まるで傍に二人がいるかのように……或いは自分自身に言い聞かせるように叫ぶと、俺は再びティラノ達を乗り継ぎながら不安定な道を進み始めた。

 そして先ほどまで敵が待ち構えていたそれなりの幅がある場所までたどり着いたところで改めて前を見れば、再び左側に壁が迫ってきていて道はその先に隠れるかのように左にカーブしている。

 もちろん右側には未だに壁はなくマグマがトロトロと流れており、そこに落ちないよう左の壁に沿うようにして進まなければならないだろう。

 

 念のためにパロロ君で曲がった先の視認できない位置に敵が潜んでいないか確認してから移動を開始した俺だが、少ししたところで一瞬我が目を疑ってしまった。

 

「な……なんだあの靄……なのか……?」

 

 曲がった先はまたしても開けた空間になっていたのだが、どうやら進むべき方向自体は同じなようであり高さだけが違っていた。

 具体的にはもう一度つづら折りのようになっている坂道を下ったところに今見ている方向に進める道が繋がっているのだ……がそれよりも俺はその道の先にある光景に目を奪われていた。

 こちら側が高い場所に立っていて進行方向が同じであり、しかも視界を遮る障害物のような物がないからこそ見通せたその道の先には壁一面に靄のような物が立ち込めていたのだ。

 

(あんなものは今まで一度も見たことはない……もっとしっかり観察したいところだけど……そ、そうだ望遠鏡っ!!)

 

 あれが何なのか……近づいても大丈夫なのかどうかも分からず困惑しかけた俺だが、そこで望遠鏡の存在を思い出した。

 遠目でははっきりとしないがこれで覗き込めば少しは何かわかるかもしれない。

 そう思って望遠鏡を荷物から取り出して覗き込んでみると、モヤモヤとした霞む何かがバリアのように張られているではないか。

 

(……あれは何だ……まるで青く発光してるようにも、向こう側の色を通過しているようにも……でもあの輝きはどこかで……アーティファクト、か?)

 

 しばらく観察していた俺は靄の表面を照り返す光が何となくアーティファクトの放っていた光に似ているのではないかと思えてきた。

 尤も何も確証はなく、こればっかりは本当にただの感でしかない。

 だけど俺は不思議とあの向こうに何かがあると……きっとあの場所こそが俺達の向かうべき場所なのだと感じて仕方がなかった。

 

「……フローラ……それにオウ・ホウさんも……同じ考えってことかな?」

 

 それでも最後の一押しが欲しくて二人の鉱石へと視線を投げかけると、まるで俺の考えを呼んでいるかのように仄かに輝いていた。

 

(……あれが何なのか分からない以上は近づくのもリスクはある……だけど他に進むべき道も見当たらない以上は……行くしかないっ!!)

 

「……よし、行こうっ!!」

 

 もう一度二人に声を掛けるように……或いは自分を勇気づけるかのように叫んだ俺は、右に左にと大きくカーブする道を慎重に進み始めた。

 

「……またこいつらかぁ」

 

 果たして少し進んだところで、またしても道中に飛び掛かってくる敵が多く待ち構えているのが見えてきた。

 もはや最下層に近いこの場所は既に道以外の場所はマグマで満ちており、ここまで来れる戦闘力の持ち主を相手にするにはそこへ落とそうとする方がずっと嫌がらせになると分かっているのだろう。

 

(ここまで来れる奴にはもう並大抵の力押しは通用しないだろうって判断なんだろうなぁ……本当に最後の最後まで厭らしい設計だ……いや、まだ最後と決めつけるのは早計だな……)

 

 あの靄の壁がゴールのような心境になっているが、考えてみればまだ先があってもおかしくはない。

 

(大体、この場所が本当に今までの集大成だというのならば……まだ乗り越えなきゃいけない要素が残っているじゃないか……) 

 

 とある予感めいた思いを抱きながら今まで通りユウキィ君の咆哮で雑魚を蹴散らし、残った特殊個体を含むティラノ数頭をこちらのティラノ軍団で囲み数の暴力で押し殺していく。

 尤もただでさえ硬く力強い特殊個体は、洞窟の奥に進むほど敵が強くなっている傾向もあり非常にタフで恐ろしいまでの力でもって俺達を薙ぎ払おうとする。

 それでもやはりユウキィ君に鼓舞された上に高品質のサドルでガチガチに固められている俺達ティラノ軍団の敵ではなかった。

 

(特殊個体のティラノですらこうなんだから、正面からの戦闘なら野生に沸くような奴はもう敵にならないよなぁ……まあ例外とも言える『奴』を除けばだけが……)

 

 そんなことを考えながら曲がりくねる道を進み、最後のカーブを越えて後は直進するだけとなったところで頭を上げて先を見通そうとした俺は……ある意味で予想していた通りの光景を目の当たりにする。

 

「……だよなぁ、お前がこの場所にいないわけがないよなぁ……ギガノトっ!!」

 

 果たして距離がある時は望遠鏡で覗いても見当たらなかったはずの巨体の怪物が、霧の壁の手前に鎮座していた。

 そいつはまるで門番のように……最後の試練とばかりに仁王立ちして、この道を進むものを阻まんと待ち構えているのだった。

 

 *****

 

 ギガノトサウルス……それはこの島にいる野生の動物の中で最も強力であろう肉食だった。

 ティラノすら子供に思えるほどの巨体から繰り出される攻撃力はまさしく圧倒的であり、それこそオベリスクの向こうにいた神話の化け物とすら渡り合えるほどであった。

 ましてこの洞窟にいる動物は奥に潜れば潜るほど地上にいる同種よりも文字通りレベルが違う程の強さを見せつけてきていた。

 

 もしもその法則がこいつにも当てはまるのならば果たしてどれだけ恐るべき力を秘めているのか想像も出来ない。

 

(確かに足りないとは思ってたんだ……この場所がこの島の集大成ならオベリスクの向こうにいたボスとでも表現すべき強力な個体と戦闘しないはずがないって……それとこの島で最も目立つであろうこの肉食がいないわけもないって……だけどまさかその両方を兼ねてくるとは……)

 

 ある意味でこいつの登場は想定できていた。

 ただ実際にこうして目の前に現れると、流石に恐怖に近い感情が湧き上がってくる。

 何故なら強さもさることながら俺にとっては因縁の敵でもあり……忘れたくても忘れられない苦い記憶を刷り込んできた相手なのだから。

 

「……っ」

 

 無言でギガノトを睨みつけていた俺の右手首に軽い痛みが走る。

 そちらへと視線を向けると、フローラの鉱石が不安そうな光を放っていた。

 あんな化け物と向き合う俺が心配だったのか、或いは自分の身に起きたことを思い出して怯えているのかもしれない。

 

 そんなフローラの鉱石を優しく撫でながら俺は不安を解消させるように笑顔を浮かべて見せた。

 

「大丈夫だよフローラ……大丈夫だから……もうあんな奴に後れを取ったりしないからさ、安心して見ててよ……」

 

 優しく呟いた俺の声が届いたのかフローラの鉱石は一度だけ淡い輝きに変化すると、すぐに静かになった。

 

(そうだ大丈夫だとも……俺ならやれるさ……今までこの島で生き抜いてきたんだ、この程度の苦境は慣れっこじゃないか)

 

 確かに目の前にいるギガノトは強敵だ。

 それこそ今まで戦ってきた中の誰よりも、或いは戦力差で考えればドラゴンよりもきつい相手かもしれない。

 だけどこれは……今までこの島で俺が乗り越えてきた修羅場の数々に比べれば屁でもない状況だ。

 

(そうさ、正面から戦って勝つ必要なんかない……大事なのは生き残ることだ……生き残ったほうが勝者なんだから……)

 

 例え戦闘力では敵わなくても生存力とでもいうべき能力ならば……こんな敵もいない洞窟の中で過ごしてきたこいつよりも、自分以外のほぼ全てが敵のような状態で生き抜いてきた俺の方が遥かに上だ。

 

(だから後はそれを証明してやればいい……簡単な話だな)

 

 手元にある道具と周りにいる動物とその能力、そして周囲の地形を素早く見回す。

 考える時間がありどんな手段や方法を選んでもいいのだ。

 ならば俺にとってこの程度の戦力差を覆すのは訳もない話であり、答えは簡単に出た。

 

「ふぅぅ……ビーバーちゃん、おいで」

 

 作業机代わりに連れ込んだビーバーを呼び寄せ、持たせていた資材を使ってパラシュートとクロスボウを新たに二つ作り上げる。

 その両方にかつてフローラがよく作ってくれていたグラップリングフックをはめ込んで準備を済ませると、改めて洞窟内を見回した。

 そして念入りにパロロ君で周囲に他の敵がいないことを確認してから動物達を離れた場所に避難させ、パラシュートを背負うとグラップリングフックを天井に引っかけてロープを巻き上げた。

 

 果たしてフックはがっしりと凸凹としている洞窟の天井に引っかかっており、逆に俺の身体が天井にくっつく程持ち上がっていく。

 

(下にはマグマ、少し先にはギガノト……位置関係は完璧だ……後は手際よくやれれば……大丈夫、絶対にやれる……)

 

「ふぅぅ……はぁぁ……よしっ!!」

 

 最後に軽く深呼吸してから、俺はパラシュートを開きながらグラップリングフックから手を離した。

 すぐに身体は重力に従って真下にあるマグマ目掛けて落ちていくが、ギガノトが十分活躍できるほどの高さがある天井からパラシュート付きで降りていることで滞空時間は非常に長く伸びている。

 だからこそ俺は落ち着いてショットガンを取り出すと、冷静にギガノトを狙って引き金を引いた。

 

 果たして俺の打った弾は的確にギガノトの頭部に当たり……キンとかカンとか、生き物の皮膚に当たったとは思えないような金属音を鳴らしながら傷一つ付けることも出来ず弾かれていく。

 

「ぐ……グォオオオオオオっ!!」

「そうだ、俺はここにいるぞ……ほら来いよ馬鹿トカゲっ!!」

 

 しかしそれで十分だった……俺の存在に気づいたギガノトはすぐに怒り狂ったように目を見開くと激しい怒声を上げながらこちらに突っ込んでくる。

 足場も何も確認せず、ただただ俺の存在だけを見据えて俺の要る場所目掛けて駆け抜けてくる。

 それは地上にいたギガノトと……いやこの島にいた野生生物と何も変わらない単純で愚かな行動だった。

 

「グォオオオオ……っ!!?」

「じゃあなっ!! 一人で死ぬまで泳いでろっ!!」

 

 俺の予想通り周囲の環境も何も気にせず一直線に突っ込んできたギガノトはマグマの海に足を取られて体勢を崩し、その巨体をどんどんマグマの中へと沈めていく。

 それをしっかりと確認しながら俺はもう一本のクロスボウを取り出し、後方に待機させていた動物達の傍に向かって打ち放つとすぐにロープを巻き取って地面の上へと戻ることに成功した。

 

(幾らギガノトが強くたって生き物であることは変わりがないんだからマグマの海に落ちたらもうどうしようもない……所詮は野生動物、道中にいた敵と何も変わらないな)

 

 安全な地面の上からマグマに落ちて苦し気にもがくギガノトを見下ろしながら、俺は余りにも簡単にこいつほどの強敵を処理できた事実に何やら感慨深い想いを抱くのだった。

 

(この島に来た頃の俺なら絶対に勝てなかっただろうに、我ながら逞しくなったもんだ……まあこの島で生き抜けば誰だってこうな……ひょっとしてこの島の主が望んでいることってのはまさか……)

 

 *****

 

「ォォォ……」

「や、やっとくたばったのか……お、恐ろしい奴だギガノト……っ」

 

 先ほどまで雑魚だと見下していたギガノトだったが、マグマの中で一時間以上も生き抜いていた事実にやっぱりちょっとだけビビってしまった。

 

(後ろから襲われたくなくて死ぬのを確認してから進もうと思ってただけなんだが、まさかマグマの中でこれだけ生き残り続けるなんて……正面から戦わなくてよかったぁ……本当に死んだよね? まさか死んだふりじゃないよね?)

 

 おかげでギガノトの身体が完全にマグマへと沈んで消えるまで進むに進めず無駄に時間を費やしてしまった。

 尤もある意味で良い休憩時間になったとも言える……実際に仲間の動物達の傷は既に豚の能力で回復して完全な状態になっている。

 俺もまたゆっくりと食事を済ませて水分も補給した上で、自分の状態を再確認する余裕も出来ていたほどだ。

 

(ま、まあギガノトのことはもう忘れよう……それよりもう一度だけ確認しておこう……すぐに取り出せるアイテムは十個ぐらいだから、もう主力として使わないクロスボウと落ち着いているときにしか使えない望遠鏡は仕舞ったから後は……)

 

 軽く荷物整理しながらとにかくすぐに使えるよう身に着けておくべきアイテムを厳選していき、最終的に決まった装備をメモ帳に書いてチェックリスト代わりにして漏れがないか改めて確認して回る。

 

【防具一式】

 

 頭:ギリーマスク(高品質)

 胴:ギリーチェストピース(高品質)

 腕:ギリーガントレット(高品質)

 脚:ギリーレギンス(高品質)

 足:ギリーブーツ(高品質)

 

【すぐに取り出せるアイテム一式】

 

 1.弓矢(高品質&オウ・ホウさんの鉱石付き)

 2.松明

 3.アサルトライフル(高品質)

 4.ポンプアクション式ショットガン(高品質)

 5.メディカルブリュー

 6.カスタム料理(ミート)

 7.カスタム料理(ドリンク)

 8.無線機

 9.長槍

 0.槍

 

(大丈夫、ちゃんと準備できてる……けどやっぱり非常時の近接用の武器は二つもいらないかなぁ? 特にこの石の槍なんか今更使いどころはなさそうなんだけど……)

 

 冷静に考えるならば間違いなく石の槍を置いて別のアイテムを身に着けたほうがいいだろう。

 しかしこのアイテムは俺がこの島に来て最初に敵を倒した記念すべき武器であり……何度も拠点や持ち物を紛失し続けてきた俺の手元に最初から最後までずっと残っていた数少ない品物でもあるのだ。

 途中からはお守り代わりのつもりで携帯していたこともあり、それこそこの島に来てから頻繁に使っていた日記よりも身近にあって俺を見守り続けてくれていたと言っていい。

 

 そんな相棒のような存在を最後の最後で置いて行ったり荷物の底にしまい込んだりするのはどうしても躊躇われた。

 

(そうだよな、この槍は仲間達と出会う前から……この島で俺が見てきたもの経験してきたこと、文字通りすべての苦楽を共にしてきたんだ……こうなったら最後まで付き合ってもらおうかな……いいだろ相棒?)

 

 結局俺はこの状態のまま先に進むことを決意した。

 振り返り待たせていた動物達の状況も万全であることを再度確認した上で、パロロ君に隠れている敵がいないことを念入りに調べながら例の靄が掛かった壁へと近づいていく。

 

(これは……薄い何かの膜みたいにも見えるけど……バーチャル映像的な何かなのか……?)

 

 果たしてそこには漫画か何かに出て来そうなバリアにも似た透明性のある膜のような物が壁一面に貼られていた。

 そしてその壁の一部はまるで新たな洞窟の入り口のような穴が開いていて、半透明な膜を見通してみれば奥へと道が繋がっているのがわかる。

 

(……ここから見ただけでもはっきりとわかる……この先は今までの洞窟とはまるで違う雰囲気だ……)

 

 ここまでの道中はそれこそ岩肌がむき出しで自然な洞窟と言わんばかりな造りだったにも関わらず、膜から向こう側は壁も床も天井も何もかもが冷たい印象をもたらす金属質な人工物だけで構成されている。

 パッと見た感想はまるで何かのSF作品に出てくる宇宙船の内部のようですらあった。

 

(……ずっと前に俺はこの島が人類が絶滅した後に地球へと訪れた宇宙人が作った絶滅動物保護区みたいなものじゃないかと想像したことがあったけど……あの予想はかなり正確だったのかもしれないな)

 

 尤も本当のところはまだ分からないのだが……少なくともこの先に進めば俺の抱えている疑問のうち幾つかには確実に答えが出るだろう。

 とりあえず手近な石を投げたり仲間の動物を数匹ほど先に行かせて膜を安全に通り抜けることが出来ることを確認すると、俺は軽く深呼吸をしてからゆっくりと足を進め始めた。

 

(……うん、やっぱり通り抜ける分には何も問題……寒っ!? な、なんだこの寒さはっ!!?)

 

 事前の予想とは裏腹に何の問題も無く透明な膜を通り抜けた俺だが、途端に急激な気温の変化を感じて思わず縮こまってしまう。

 少し後ろを見れば膜の向こう側で空気が歪んで見えるほどの熱波を放っているマグマが流れているというのにまったくその熱気を感じられず、むしろ凍死してしまいそうな冷たさであった。

 

(あ、あの膜が温度さを完全にカットして……い、いや今はそんな事よりこの寒さをどうにかしないとっ!!)

 

 慌てて松明で暖を取りつつ首に巻いているカワウソに顔を擦りつけたりして見るが、そんな小手先の方法ではとても耐えられそうにない。

 仕方なく準備を済ませた後だというのに一旦荷物を下ろし、念のため持ち込んでいた毛皮の防具一式に着替えてようやく人心地付くことができた。

 

「はぁぁ……暖けぇ……持ってきておいてよかったぁ……しかし本当にこの島の主と来たら油断ならないというかなんというか……」

 

 あれほどマグマと熱波でこちらを苦しめておいて、ここにきて防寒対策まで求めてくるとは思わなかった。

 尤もこの場所が島で学んだ全てを確かめようとするための試練なのだとすれば暑さ対策だけで済むはずがなかったのかもしれない。

 

(……この調子だと環境対策ステージ的な形で水中を進む必要も出てくるかも……案外先は長いのかもしれないなぁ……)

 

 一応毒ガス対策も兼ねて酸素ボンベも持ち込んでいるのだが、もしも水中を通過するとなると水陸両用のワニやカエル以外を連れて行くのは厳しくなってしまう。

 ましてそこで特殊個体の巨大イカやあの害悪なクラゲなどに襲われようものなら、流石に太刀打ちできるか不安が残る。

 

(まあだからってここまで来て引き下がるわけにもいかないし……その時はまた何かを作って対策する方法を考えるとして、とりあえず今は進むしかないな)

 

 動物達を呼び寄せながら改めて周りを見回してみるが、やはり膜の内側は見た目以外も先ほどまで歩いてきた道とはまるで違っている。

 ティラノが複数匹並んで歩けるほどの足場をしっかりとした壁が囲んでおり、しかもその足場自体が仄かに青く輝き遠くまで見通せるほどの明るさが保たれている。

 おかげで今までのように道を踏み外す心配をする必要も無い上に敵の姿も全く見当たらなくて、これならばわざわざ一頭ずつ乗り換えて進ませなくともグループ単位で指示を出し追従させて連れ歩くことができそうであった。

 

 それでも念のためにパロロ君で敵が隠れていないかも調べて貰ったが、やはり生き物がいる気配は全くしなかった。

 

(さっきまであれだけ敵がいたって言うのにこれは……罠、の可能性もあるよなぁ……)

 

 一気に進めなくもなさそうだが、それでも慎重に進んでいくべきだろう。

 だから俺達は少し進んでは足を止め、パロロ君で周囲の安全を確認してからまた少し進む……そうやってゆっくりとこの場所を移動し続けた。

 果たして青い地面は少しずつ傾斜になっていき、自然と俺達は坂道を上るような形になっていた。

 

(……奥の方から変な音が聞こえるような気がするけどこっちで良いんだよな? なんか脇道っぽいところもあったけどそっちは地面が青く光ってないどころか別のつるつるした材質で進みづらそうになってたし……お?)

 

 途中に見えた脇道が少し気になりながらも坂道を登っていたが、気が付いたら左側の壁がなくなっていた。

 そこから下を覗き込むと先ほどの脇道の先の方を見通すことが出来たのだが、水たまりがいくつかあるだけでやはり行き止まりなようであった。

 

(あの水はもしも飲み物が尽きていた際に補充するためのものってところかな? もしくはさっき俺が想像した通りあの中を進まなければいけない可能性もあるけど……)

 

 どちらにしてもまだ進むべき道があり飲料も残っている俺にしてみれば、わざわざ引き返してまであの場所へ行く理由はない。

 逆に言えばこの道の先が行き止まりだった場合はあの場所も調べなければならないだろう。

 

「……水中は勘弁してほしいし、出来ればこっちが正解であって欲しいところだけど……っ!!?」

 

 改めて視線を前に戻して道を進み始めた俺は、信じられないものを目にして驚きに固まってしまう。

 それはこの道の行き止まりであり、赤く発光する足場が円状に広がっていて……その中心には見慣れない謎の機器のような物があった。

 

(こ、これは何だっ!? こんなのは初めて見る……のに既視感が凄いっ!!)

 

 今通ってきた道以上に異質で不気味な雰囲気を醸し出すその空間だが中心にある機器とそこから円状に広がる足場を見ていると……何故か俺の脳裏にオベリスクが連想されてくるのだ。

 

(ひょっとしてこれもオベリスクと同じ転移装置なんじゃ……なら多分転移した先にはオベリスクの時のように……そういうことかっ!! さっきのギガノトがオベリスクの奥にいたボスみたいなものだと思ってたけどそうじゃなかったんだっ!! 多分この装置を起動して転移した先にこそソイツが……っ!!)

 

 きっとこの装置を起動した先にはオベリスクの奥にいた強敵たちに相応する……或いはそれらを上回る化け物が待ち構えていることだろう。

 何せこの洞窟はこれまでの集大成なのだから……そしてその化け物こそがこの島における最後の試練なのだろうと、俺は不思議な確信すら抱いていた。

 

「……そうか……じゃあやっぱりここが最深部なんだな」

 

 恐らくこの先にこそこの島の謎が秘められているに違いない。

 同時に俺が望む答えを手に入れるためには待ち受ける強敵を倒す必要があるはずだ。

 

(今すぐに挑みたいところだけど、その前にメアリー達にもこのことを報告しておかないと……あれっ!?)

 

 はやる気持ちを抑えて無線機を取り出したところで、何故か先ほどまで反応していた無線機が完全に沈黙を保っていることに気が付いた。

 てっきり故障でもしたのかと色々と弄ってみたが、向こうの声どころか雑音一つなることはなかった。

 

(……ひょっとしてあの膜を越えたから、なのか?)

 

 チラリと今は見えない距離にある先ほど潜り抜けた膜の方に視線を投げかける。

 あの膜は未知のテクノロジーが反映されていたのか温度差を完璧に遮断していたほどであり、無線機の電波も防がれていたとしても不思議ではない。

 

(確かにあの膜を超える前までは通信できてたもんなぁ……多分あの向こう側に戻ればまた連絡できるようになるだろうけど……)

 

 一瞬戻ってこの装置のことを報告するか悩んだが、あえて止めておくことにした。

 ギガノトを倒した時点であの場所までの情報は伝えており、追加で話す内容がこの装置以外に殆ど無いこともある。

 ただ一番の理由としては……あの膜の向こうで敵が再び湧き直している可能性に思い至ったからだ。

 

(他の洞窟では時間が経つと倒したはずの敵が新たに出現してたもんなぁ……この洞窟が例外だとは思えないし、何よりもしあのギガノトまでも復活してたらシャレにならない……)

 

 あの門番的なギガノトは膜に近づくまで影も形もなく唐突に湧いて出たように見えた。

 ならばまたあの膜に近づいた際に同じように現れる可能性もありえるのだが、そうなった場合は位置関係の問題で今度はマグマに落としたりできず正面から戦わざるを得なくなる。

 この先でほぼ間違いなく強敵と戦うことになるというのに、その前にわざわざ戻ってあんな化け物と戦って消耗するなど愚の極みだ。

 

(そうさ、俺が今考えるべきはこの先にいる敵を倒すこと……そしてこの島の謎に満ちたテクノロジーを一部でもいいから解析して……フローラとオウ・ホウさんを蘇らせる方法を見つけ出すことだ)

 

 その為に俺はここまで来たのだ。

 ならば何を迷うことがあるだろうか。

 

「……ふぅ……よしっ!!」

 

 目を閉じて軽く呼吸を整えると、俺は覚悟を決めて動物達に指示を出しオベリスクの試練に挑んだ時のように赤い床の上に仲間達を密集させた。

 その上でオベリスクの装置へと左手をかざすと、思った通り手首に埋め込まれた鉱石が反応を示し……赤い波動のような物が広がると同時に転移のカウントダウンが始まった。

 

(さあ……最終決戦だっ!!)

 

 *****

 

「くぅ……こ、ここは……?」

 

 オベリスクの時と同じようにカウントダウンが終わると同時に俺達は全く違う場所にワープしていた。

 尤もオベリスクの時とは違い転移した先で環境が激変することも無く、周囲の風景も先ほどまでと同じく宇宙船の内部と言わんばかりの雰囲気のままであった。

 おまけに待ち構えていると踏んでいた敵性生物の気配なども感じられず、代わりに目の前にはこっちにこいとばかりに青く光る地面に照らされた道が続いているではないか。

 

(これはどうなって……俺の想像が間違っていたのか? いやまだ何とも言えないし、とにかく安全を確保しておこう)

 

 色々と思うところはあるがまずは状況を可能な限り把握しておこうと、転移した衝撃で手放していたティラノの手綱を握りしめ直す。

 次いでパロロ君で敵を探知してもらうべく周りに密集している動物達を見下ろして……何か数が少なくなっていることに気が付いた。

 

(ティラノを始めとした大型の動物が数匹ほど減ってる……多分転移装置の範囲内に入りきらなかったんだろうな……だけど中型以下の動物は全部揃って……いやレオ君の同種だけ居なくなってるな……)

 

 何故かこの場に居ないレオ君の同種だが、確かに装置が作動する際にはしっかりと転移装置の範囲内に入っていたはずだ。

 しかし考えてみたらオベリスクの時も連れ込むことはできなかったではないか。

 

(もしオベリスクの時と同じだとするならばこの先には強敵が待っているはずだし、そいつを相手にするのに壁を登ったりできるあの子は有利すぎるから駄目だったとかなのかな?)

 

 実際のところがどうなのかはわからないが、とにかくこの場にいないのだからこれ以上考えても仕方がない。

 一応強敵相手に必須と思われる主戦力のティラノが十四匹ほどとケーキ持ちのテリ君の同種が六匹ほど、そして援護要員の豚やユウキィ君は雌雄ペアでしっかりと残っている。

 また他の援護要員も揃っているのだから、この先がどうなっていたとしてもまだまだやってやれないことは無いだろう。

 

 だから俺は落ちついて今まで通りパロロ君に敵の存在を探知してもらいつつ周辺を見回して……そこでようやく自らの背後に見覚えのある光景があることに気が付いた。

 

「こ、これは……オベリスクの……っ!?」

 

 果たして俺の背後の壁には三カ所ほど巨大なガラスに似た透明な障壁があり、その向こうに隔離された空間が見て取れるようになっていた。

 そしてそれらの場所は間違いなく俺達がオベリスクを起動した際に強敵と戦った時の場所であった。

 しかもよく見れば透明な隔壁の手前には、これもまたどこかで見たことのある未来感のある装置が配置されていて……その上にそれぞれの場所に居た敵と同じ姿がホログラム上になって浮かび上がっていた。

 

(巨大蜘蛛に巨大なゴリラ、そしてドラゴン……ここで管理されてたのか……いや監視されていたというべきか……?)

 

 どうやらこの場所からオベリスクの試練に挑んだものがどう戦うのか監視できるようになっているようだ。

 俺達の命懸けの戦いをまるで見世物のように扱われていたことに内心憤慨しそうになるが、同時に俺はホログラムを浮かび上がらせている装置に感じる既視感が気になっていた。

 

(この装置の形状、確かに見覚えがあるだけど……オベリスクとも違うし、一体どこで……そうだ、待つ者っ!!)

 

 恐竜から降りて間近でじっくりと観察してようやく思い出すことができた。

 この装置の形状はかつて島にある山の一角にあった祭壇にあったモノによく似ていたのだ。

 そして同時に思い出したのはその祭壇に触れた時に脳裏へ沸いた半透明な人間に似たフォルムのイメージとそいつが伝えてきた『待つ』という言葉。

 

(……やっぱりあいつこそがこの島の主だったのか……じゃあここからあいつがオベリスクの試練だとか野生の動物だとかを管理して……それどころか一カ所に長らくいた際に敵が襲撃してきたのだって……全部が全部あいつの……痛っ!!)

 

 散々苦労してきた全てがそいつの差し金だったような気がして、再びこの島の主に対する怒りが再燃して……来そうになったところで右手首が痛んだ。

 反射的にそちらへ視線を向けると、フローラの鉱石が何故か悲し気に赤く瞬いているではないか。

 

「ふ、フローラ……?」

 

 一体どうしたのか困惑しそうになるが、ふとそこで前に俺が例の待つ者に対して感情的になった際にも同じような反応をしてたことを思い出した。

 

(これは……俺の考えが間違っているって言いたいのか……それとも単に冷静になれって指摘してくれてるのか……どっちなんだフローラ?)

 

 じっとフローラの鉱石を見つめるけれど答えが返ってくるはずもなく、俺の気持ちが多少落ち着いたところで発光は収まり痛みも消えていってしまった。

 

(……そうだな、まだそいつが本当に黒幕だって決まったわけでもないし何よりまだ試練の最中じゃないか……ここで感情的になっても何にもならないよな?)

 

「ふぅぅ……うん、もう大丈夫だから……行こうか?」

 

 軽く深呼吸してしっかりと精神を落ち着かせたところでフローラの鉱石に微笑みかけ、今度こそ俺は前へと向き直り動物達と共にゆっくりと先へ進み始める。

 

「……っ!?」

 

 しかしそんな俺の歩みはすぐに止められてしまう。

 何故なら少し進んだところで道の左際にまたしても別のホログラムが浮かんでいるのが見えてきたからだ。

 

(これは地球か……いやでも俺の記憶にある地球とは大陸の形が違いすぎる……?)

 

 ホログラムの形は地球儀にとても良く似ているのだが、大陸の形状などがどうにも俺の知っている地球とは違っているように見えた。

 だからひょっとしてこのホログラムが示しているのはこの島の主の暮らしていた惑星なのではないか……そう思いながらそのホログラムに近づいて行ったところで、ふと機械の駆動音のような物が反対側の壁から聞こえてきた。

 

(一体何の音……っ!!?)

 

 音の方へ振り返ったところで目に移った光景は衝撃的であり……しかしある意味では想像していた通りのものでもあった。

 

「…………はは……やっぱり全部作りモノ、だったんだなぁ」

 

 先ほどのように壁の一部が透明な隔壁となっているその向こう側で、ガシャンガシャンと機械がせわしなく動き続けている。

 その機械の中心には動物の……今まで俺が島の上で沢山目にして、そして戦ってきた遥かな過去に絶滅したはずの動物達が作られ続けていた。

 まるで設計図のように浮かび上がっている動物のホログラムにただ色を付けているだけのような勢いで肉体は出来上がっていき、ものの数分で産まれては島のどこかへと飛ばされていく。

 

(はは……多分この透明な隔壁のない壁の向こう側でも同じように動物を大量生産してるんだろうな……そりゃあ生き物の数が減らないわけだ……だけどこいつらがこうってことはつまり俺達も……い、いや動物はそうでも人間までそうだって決まったわけじゃ……っ)

 

 事前に想定してあり覚悟も出来ていたはずなのに、改めて島の生き物たちがこうして人工的に作られていく様を見せられてショックを受ける。

 これでもしも自分達もこいつらと同じ様に作られていただけの命だと思うと、何故か泣きたいような叫び出したいような消失間にも似た絶望を覚えそうになる。

 しかし目の前にある機械で作られているのは動物ばかりで人間の姿は欠片も見られなくて、だからまだ決まったわけではないと自分に言い聞かせるようにしてこの場を後にする。

 

 下手にこれ以上見ていたら耐えられなくなりそうだったか……だけれども、すぐに俺は現実を直視させられる羽目になる。

 

(……この通路にはどうしてこんなにも惑星のホログラムが……しかも全部地形が微妙に違ってる……それに反対側の壁も毎回透明な隔壁になって動物が作られてるのが見えるようになっているし、これは何を意味して……っ!?)

 

 少し前の光景を忘れようと目に入るホログラムに意識を集中していた俺だが、ついに見覚えのある地形をしたホログラムを見つけてしまう。

 それは間違いなく俺の知っている通りの地球の地形であり、自分が暮らしていた日本もしっかりと映っていた。

 

(や、やっぱりこれは地球なのか……じゃあ今までの奴も……あっ!? も、もしかして……これはこの区画で生成している動物がどの時代の地球から来たかを表示してるんじゃ……っ)

 

 地球の地形は長い年月をかけて変動している。

 だから俺の生きていた時代の地球と恐竜を始めとした絶滅動物が生きていた時代は地形がまるで違っているはずだ。

 ただこの仮説が正しいかどうかは、昔の地形がどんな形だったのかもその時代にどんな生き物がいたのかの知識がなければ判別し様がない。

 

 逆に言えば自分が生きていた時代でもあるこの区画で生み出されている生き物を見れば判別できる可能性はあるのだが、俺は金縛りにあったかのように振り返れずにいた。

 何故なら俺の時代に居た絶滅動物など……いや俺がこの島で見たことのある生き物で同じ時代にいた生き物など……一種類しか思い浮かばなかったからだ。

 

(……………………………………………………)

 

 一体どれだけホログラムの前で立ち尽くしていただろうか。

 いっその事無視して進もうかとすら思ったけれど、当初の目的であるフローラとオウ・ホウさんを生き返らせるためにはこの場所を避けるわけにはいかなかった。

 だから覚悟を決めてゆっくりと……本当にゆっくりと時間を掛けながら振り返った。

 

「……………………だよなぁ」

 

 透明な隔壁の向こうでガシャンガシャンと動き続ける機械。

 その中心に浮かび上がっているホログラムは、まぎれもなく人型をしていた。

 

(やっぱり俺たち人類も既に絶滅して……オウ・ホウさんもメアリーもマァも……俺とフローラもここで作られた生き物だったのか……はは……ははは……っ)

 

 記憶の中にある生まれ故郷も家族の思い出も何もかもが偽物だとわかり、流石に全身から力が抜け落ちそうになる。

 このままこの場に崩れ落ちて目を閉じて何もかも忘れて眠りにつきたい……そんな衝動すら湧き上がってくる。

 

「……痛っ!!」

 

 そんな俺の右手に痛みが走る。

 反射的にそちらへ視線を投げかければ、フローラの鉱石が俺を励ますように激しく瞬いていた。

 いつだってそうだった……俺が絶望に負けてしまいそうになった時、いつだってこうしてフローラが支えてくれる。

 

(もう何度目だよ俺……情けねぇなぁ……昔の記憶が何だってんだよ……俺が作られた命だとしてもそれがどうした……一番大切なフローラとの思い出だけは事実なんだからそれだけで十分だろ……ほら、落ち込んでる暇があったらさっさと起きろ俺っ!!)

 

 自らの頬を叩き気合を入れ直しながら体を起こしたところで、改めてフローラの鉱石を撫でながらお礼を口にする。

 

「ありがとうフローラ、元気出……痛たっ!! い、痛いってばフローラっ!! もう大丈夫……痛っ!! な、何どうしたのっ!?」

 

 しかし何故か今回は俺が立ち直ってもお礼を告げてもフローラの鉱石は痛みを与え続けていて、発光も収まろうとしなかった。

 

(な、なんだどうしたんだっ!? まるで興奮でもしてるみたいな……そ、それとも何かを伝えようとしてるのかっ!?)

 

 訳が分からないままとにかく周りを見回してみたが、特に何も変わった物は見えてこない。

 後ろには地球のホログラム、前では透明な隔壁の向こうで機械が駆動して人間を生成して……いるのだが何故かいつまでたっても完成する気配がなかった。

 よく聞けば機械の駆動音もエラーか何かを起こしている以下のように不協和音が混じっていて、浮かび上がっているホログラムもまた一瞬色づいたかと思うとすぐにホログラムに戻ってしまうのだ。

 

(こ、これは一体……い、いや待てよっ!! 俺はこの体型に見覚えがあるっ!!)

 

 何が起きているのかと作られようとしているホログラムを観察し直した俺は、その姿形に見覚えがあることに気が付いた。

 小柄な身体付きにほんの僅かなだけど確かに凹凸のある身体……ホログラムだけで大まかな体型だけしか分からないけれど、それでも俺ははっきりと確信することができた。

 

「……フローラ……フローラなのかっ!?」

 

 それはこの島に来てからずっと見続けてきた愛しい恋人の身体だった。

 幾ら体型だけでも見間違えるはずがない……それが目の前で作られようとしては、何かに阻まれいるかのように止められてホログラムに戻ることを繰り返していた。

 

(ま、まさかフローラを生き返らせようとしてくれてるのか……だけど何で……で、でも確かにこの身体はフローラの……まさか身体だけ作って別の人の意識を入れたりはしないだろうし……というかそもそも新しい人は現れなくなって……?)

 

 そう言えばフローラが亡くなってから急に新しい人間が現れなくなっていた。

 一体どうしたのかと思ったのだが、実際に目の前で動いている機械はフローラらしき人間を作ろうとしては失敗し続けているせいで新しい人間を作れないでいるように見えた。

 

(ど、どうなってんだ……何で新しい人間を産み出すことも後回しにしてフローラを生き返らせようとしてくれてるんだ? こ、この島の主は一体何を考えて……そ、それとも島の主とは別の何かが干渉でもしているのか? ひょ、ひょっとして『待つ者』が……?)

 

 ふと思ったのはフローラが毎回『待つ者』に否定的な考えを持つ俺を責め立てていたこと。

 ひょっとして『待つ者』とこの島の管理人、或いはこの島で何かを目論んで俺達に過酷なサバイバルを敷いている存在は別なのかもしれない。

 だからこそフローラは俺達に同情的……或いは協力的な『待つ者』に間違った憎しみを向けようとしている俺を止めていたのだろうか?

 

(まるでわからない……だけど逆にはっきりしたことが一つある……この機械を上手く使えばフローラとオウ・ホウさんの身体は取り戻せるっ!!)

 

 俺達が過去の情報を元に再現された命だとするならば、新しく同じ身体を作り直すことは不可能ではないはずだ。

 その上でこの鉱石の中に人間の魂のような物が宿っているのだとすれば、後はそれをどうにかして移植する方法を見つければいい。

 

(実際にフローラの鉱石もオウ・ホウさんの鉱石も意志がある様に反応している……肉体から鉱石へ移せたんならその逆だってできるはずだ……行けるっ!! 行けるぞっ!!)

 

 先ほどまで感じていた絶望から一転してこの先の希望を見出した俺の身体に活力が満ち始める。

 

「フローラっ!! それにオウ・ホウさんっ!! 絶対にここの技術を手に入れて生き返らせて見せるからっ!! だから俺に力を貸してくれっ!!」

 

 俺の声掛けに二人の鉱石がまるで肯定するかのように強く瞬いた。

 そして今度こそフローラの鉱石から伝わる痛みと発光が収まったのを確認すると、最後にもう一度だけフローラの肉体に投げかけた。

 

(もう少しだけ待っていてくれ……絶対に君の肉体を取り戻すから……そしたら今度こそ絶対に手放さないから……守り抜いて見せるから……っ)

 

 *****

 

(うぅん、このホログラムを見る限り俺の生きていた時代よりまだ先まで人間は生きてたっぽいなぁ……じゃあこのテクノロジーはエイリアンじゃなくて未来人由来のものだったり……おっ!?)

 

 途中途中にある各時代の地球のホログラムを観察しながら一本道の通路を進んでいたところ、ふいに少し広めの小部屋に辿り着いた。

 天井も壁もティラノに乗っても届かないほど遠くなっており、地面の方は一本道なのはそのままに光る床から一転して細く長い穴ぼこだらけになっている。

 しかも下の方が吹き抜けになっているのか風と思わしきものが吹き荒れていて、また天井には各所に穴が開いていてそこからさまざまな色のレーザーのような光が下に向かって一直線に伸びている。

 

(部屋の広がりに対して道の細さはそのままだから橋みたいになってる……これは落ちたらやばそうだなぁ……しかしあの天井の穴から見えるレーザーみたいな光にも見覚えがあるんだが……あっ!? か、カプセルっ!!)

 

 もう何度目になるか分からない既視感を抱いたまま天井の穴を見つめていたところ、ふいにそこから見覚えのあるカプセルが射出されたではないか。

 勢いよく飛び出したレーザーと同じ色をしたカプセルは、そのまままっすぐ下へと落ちていき……慌てて恐竜の背中から乗り出して下を覗き込んだ俺は驚きに目を見開いてしまう。

 

(こ、これは俺達のいた島っ!? そ、そうかここはバリアを越えた空の上だったのかっ!? そしてあの支援物資はここからこうして射出されたたわけかっ!!)

 

 島全体をドーム状に包む脱出不可能なバリアとこれらのカプセルが空から降ってくることを思い出した俺は、ようやく自分のいる場所が島のはるか上空なのだということが分かってきた。

 オベリスクや先ほど攻略した洞窟にあった転移装置は、どうやらバリアを越えた先にあるこの場所へ移動するために用意された物だったようだ。

 

(つまりあの転移技術を使えばバリアの外に出られるってことだな……まあ今更だけどな、帰る場所があるとも思えないし……)

 

 かつてはあれほど追い求めていた島の外に脱出する手段を見つけたというのに、もう今となってはそこまで関心を引くことではなくなっていた。

 尤もフローラとメアリーを生き返らせた後のことを考えたら、いずれはこの島の外へ移動する必要も出てくるかもしれない。

 

(しかしこの島の外はどうなってるんだろうか……ここからでも見えないけどちゃんと別の島があるんだろうか? というかそもそもこの島は地球の一部なのか?)

 

 はるか上空から島の全貌を見通し、次いで頭を上げて今自分が居る場所を見回してみる。

 相変わらずSF映画にでも出て来そうな宇宙船を思わせる内装と実際に空の上に浮かんでいるらしい状況から、本当に宇宙船の中なのではないかと思えてきてしまう。

 

(まあその辺のことももう少し先に進んだら分かるかもしれないし、今はそれよりもここを進む方法を考えるか……)

 

 目の前に続く橋は結構大きな穴ぼこだらけであり、ティラノの足ですら下手したら引っかかりそうなほどだ。

 それこそ人間の俺や小型の動物ならすっぽり抜けて下に見える島まで落下しかねない。

 代わりに端っこはしっかり盛り上がっていてそこから落ちる心配はなさそうに見えた。

 

(俺はティラノに乗って慎重に進めば落ちることは無いだろうけど小形の動物がなぁ……でもまあ他に道はないし進むしかないもんなぁ……)

 

 幸いなことに視界は開けているし敵が隠れられそうな場所もない。

 何よりパロロ君に探知してもらって敵がいないこともはっきりしているので、ここは時間を掛けてゆっくり移動することにした。

 

「よしよし、そぉっとそぉっと……ん?」

 

 しかし少し進んだところで、穴ぼこだらけに見えた足場がしっかりしていて踏み外しようがないことに気が付いた。

 どうやらここには島から抜け出れないように張られていたバリアと同じ様に透明なバリアが足場代わりになっていたようだ。

 

(なんだよ、心配して損したぜ……だけどこうしてみると穴からも下が覗けて島がよりはっきりと……あそこが俺達が最初に目を覚ました海岸だな……それであれが緑のオベリスクで、ならこっちの方が火山と雪山で……流石に俺達の拠点は見えないか……)

 

 下手に島が見えてしまったからか、里心のような物が芽生えそうになる。

 何よりこの先に待ち受けるであろう強敵との戦いを思えば、その前に拠点に残してきたメアリーとマァの顔をもう一度見ておきたかった。

 だから使えないと分かっている無線機を女々しくも取り出し弄ってしまうが、やはり声が聞こえてくることはなかった。

 

(……まあ生きて帰ればいいだけだしな……行ってくるよメアリー、マァ……もう少しだけ待っていてくれ)

 

 俺達の住んでいた拠点を眺めながら心の中で残してきた二人に強く誓うと、未練を断ち切るように勢いよく顔を上げてそのまま一気に橋を渡っていくのだった。

 

 *****

 

 橋を渡り終えた俺達の目の前に現れたのは既に扉が開いている様子の門であった。

 

(大きさこそ違うけど形状的にこれは火山のところにあった扉によく似てるな……何かありそうな予感がひしひしと伝わってくる……まさかここがゴールなのかっ!?)

 

 軽く中を覗き込んでみればティラノどころかギガノトすら何十匹も入れそうなほどの広々とした空間が広がっていた。

 それこそオベリスクで転移した先の場所にも似た広さであり、その中心には巨大なホログラムが浮かび上がっているようである。

 

(やっぱり行き止まりっぽいがドラゴンとかその手の化け物はいなさそうだな……まあでも念のためパロロ君で調べてから入るとするか……)

 

 絶対に強敵が居ると思い込んでいたために少しばかり拍子抜けしてしまう。

 それでも念のために敵を調べた上で、可能な限り動物を密集させた状態でドアをくぐり部屋の中に入っていく。

 これはオベリスクの時のように入場制限や時間制限などがあって他の動物が締め出された時の対策のつもりだったのだが、意外にも何事も無く皆すんなりと入れてしまった。

 

(特に異常なしか……敵がいないとなるとあのホログラムに何か意味が……いや、あれは俺達のいた島の全体像を映してるホログラムみたいだし特に意味は……うぅん、ならこの部屋の中に何か秘密が……っ!?)

 

 敵を警戒し次いで部屋の中心にあったホログラムに意識を集中させていた俺だが、特に目新しいものを見つけられず困惑しながら部屋の中を見回して……またしても新たな衝撃に襲われてしまった。

 何故ならこの部屋は四方の壁がほぼ全て道中にあったような透明なガラスに似た隔壁で覆われていたのだが、その向こうに広がっていたのは……宇宙空間そのものだったからだ。

 

(ま、マジでこれは宇宙船だったのか……だとしたら俺達のいた島は……っ!?)

 

 外に広がる宇宙空間を軽く見回した俺は、そこで二つのことに気が付いた。

 一つは俺達のはるか下の方に巨大な惑星が存在すること、そしてもう一つはその惑星の周りを三つの柱とドーム状のバリアか何かに覆われた巨大な島のようなものが幾つも浮かんでいる事だった。

 

(あの島は俺達のいた島にそっくりだ……何よりドーム状のバリアの内側にオベリスクらしきものも見える……つまりは俺達が居る場所も……っ)

 

 遠くに見える惑星が何なのか……地球なのかどうなのか判別はできないが、少なくとも緑の星という感じにはまるで見えなかった。

 それに対して宇宙の中を漂う無数の島々は綺麗に自然が色づいており、まるで楽園のようにすら見えてしまう。

 

(絶滅動物が生き残る楽園……そう言えば何かの昔話で大洪水から逃れるために方舟を作って避難したって話があったよな……確か生き物が絶滅しないように他の動物も一緒に乗せたその船は……方舟……)

 

 記憶の片隅に残っていた昔話だが、何故か妙に俺達の状況とマッチしているような気がしてくる。

 もしこの仮説とも言えない妄想染みた考えが事実だとすれば、あれら全ての方舟の上で人間と動物が絶滅しないよう必死に命を繋いでいることになる。

 それこそ俺達と同じ様に……だとすればあれらの上でもここと同じ様に追い立てられ苦労しながらも、この場所に辿り着こうとしている人々がいるのかもしれない。

 

(一体何人の人間がこの場所まで到達できたんだろうか……先達者であるロックウェル氏やヘレナ氏はどうなったのか……仮にここまでたどり着いていたとしてその後はどこへ……あれ? なんか変な方舟が……?)

 

 色々と考え事をしながらあちこちにある方舟と勝手に名付けた似通った島々を見回していたところ、二つほど変わった様子の方舟が目の端に入ってきた。

 距離があるからはっきりとは見えないけれど一つは全体的に明るい灰色というか黄色をしていて自然の色である緑があまり見当たらない乾いた印象を与える方舟であった。

 他の方舟が楽園のような自然に溢れているだけにその色合いだけでも異質に見えたけれど、もう一つの方はもっと異常がはっきりと目に見えていた。

 

 何故ならそちらの方舟は島を囲う三つの柱のうち一つが壊れており、その柱が発生させていると思わしきドーム状のバリアが消失しているように見える上に毒々しい紫色が広がっていたのだから。

 

(方舟ごとに環境が微妙に違うのかな……だとしてもあの二カ所……っ!!!?)

 

 ジャンジャンと突如耳をつんざくような爆音が聞こえてきた。

 余りの騒がしさに思わず耳を抑えてしまった俺がそのまま反射的に振り返ったところ、何故かホログラムが小さく丸い球体に変化していくのがわかった。

 そしてそのホログラムはそのまま部屋の中を移動していき、一番奥にあった置物のような何かに触れて……光が溢れ始めた。

 

「っ!!?」

 

(こ、この輝きは左手の鉱石の……ま、まさかっ!?)

 

 果たしてホログラムが吸い込まれた置物の形はひし形であり、間違いなく俺達人間の左手首に埋め込まれている鉱石にそっくりだった。

 ただし唯一サイズだけが桁違いであった……何せティラノより遥かに高く天井に向かって聳え立っていたのだ。

 

(ま、不味いっ!!)

 

 その巨大な鉱石が光を吸収してどんどん輝きを増しているのを見て、長らくこの島で生き抜いてきた経験から危険を察知した俺は慌てて動物達を呼び寄せた。

 

「くっ!! み、みんな集まれっ!!」

           

 

 しかしほぼ同時に巨大な鉱石は身に纏っている眩しいまでの光をレーザーのように収束させると、まるで傘の骨格のように下から上に向かって広げて周囲を薙ぎ払った。

 

「熱っ!? く、くそ反撃を……っ!!?」

 

 光のレーザーは威力こそ大したことが無くほんの僅かに熱いと感じる程度だった。

 それでもはっきりと敵意でもって攻撃してきたことには変わりなく、すぐにでも反撃すべきだと動物達に指示を下して……何故か固まったまま動かない動物達に困惑してしまう。

 

(こ、これは……し、痺れてるのかっ!?)

 

 まるでクラゲの電撃を喰らった時のように身体が固まり動けないでいる動物達。

 その間に巨大な鉱石は自らの周りに半透明なバリアに似た膜を張ると、固まっている俺達を押しのけるようにして部屋の中を移動していく。

 

(くそっ!! 動物達を痺れさせるなんてやっぱり厄介な攻撃ってもんを理解してやがるっ!! おまけによく見たらさっき入ってきた扉が閉められて閉じ込められてるっ!! やってくれたなっ!!)

 

 この調子だとどうやらこの巨大な鉱石の形をした存在こそが最後の試練であり、倒すべき敵なのだろう。

 

「ちっ!! 上等だやってやるよっ!! 動物が駄目なら銃でハチの巣にしてや……っ!?」

           

 

 銃を取り出し移動し続けている巨大な鉱石を打ち抜いてやろうと銃口を向けたところで、巨大な鉱石は再び光を放ち始めた。

 ただし今度は断続的にボシュボシュと何かを打ち出すような音も鳴っていて、何が起こるのかと身構えながら観察していた俺の前にソレは現れた。

 

『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』

「なっ!? 何だこいつらっ!?」

 

 巨大な鉱石の放った光はすぐに固まり丸くなれる甲殻類のようなフォルムをした機械の兵士達となって具現化し、こちらへ一斉に襲い掛かってくる。

 見たこともない敵が束になって襲ってくる状況に困惑しつつも銃を構え直し、とにかく雑魚から処理しようとした……ところで肩に衝撃が走った。

 

「こ、今度は何だ……っ!?」

『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』

「そ、空からもかよっ!?」

 

 すぐに振り返った俺は空中にも武装したドローンとでもいうべき機械の兵士が無数に浮かんでいて、こちらに銃口を向けていることに気が付いた。

 果たしてその銃口からはエネルギー弾としか表現できないものを放ってきていて、これが身体に当たるたびに衝撃と共に鎧が少しずつ穿っていくのがわかった。

 もちろんその間もティラノの足元に集った機械兵たちがボコボコと動物を殴りつけている。

 

(や、ヤバいっ!! 一発一発の威力は高くないけど囲まれてるのが不味いっ!! まして動物達が固まってるこの状況でこれじゃあ動くことも出来ずにやら……おぉっ!!)

 

「「「「「グオォオオオオオっ!!」」」」」」

『攻撃開……っ』『攻撃……っ』『攻……っ』

 

 一瞬恐怖すら覚えたがそこでついに麻痺が解けた動物達が一斉に動き始めた。

 咆哮を上げながら地面に居る機械兵士達に激しく攻撃を加えていき、あっさりと駆逐していく。

 

(よしっ!! 一体一体の強さは大したことがないっ!! これな……っ!?)

 

『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』

『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』

『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』

『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』『攻撃開始』

「くそっ!! 多すぎだろっ!!」

 

 俺がほんの僅かに目を鼻していた隙に巨大な鉱石は新たな機械兵士を大量に作っていたようで、次から次へと襲い掛かってくる。

 それでいて本体は後ろに下がり続けていて、決して前に出てこようとはしなかった。

 まるでその動きは動物を盾にして後ろから指示を出す俺達人間の狡猾な闘い方にそっくりであった。

 

(ああ、くそっ!! そういうことかっ!! 下の雑魚で足を止めて、その隙に上に浮かんでる動物の攻撃が届かないドローンで少しずつでも確実にこっちの体力を削ろうってんだなっ!! 自分は前に出ず安全を確保したまま……させるかよっ!!)

 

 もしもこの島に頃の俺であればどうしようもなかっただろう。

 もしも動物を飼い慣らしただけで満足していたら、やっぱりどうしようもなかっただろう。

 だけど今の俺は違う……生きるためにあらゆる能力を鍛え上げて、この場にまで到達しているのだ。

 

「喰らえっ!!」

 

 アサルトライフルを構えてしっかりと狙いをつけて巨大な鉱石に向けて打ち放つ。

 かつての俺ならばワンマガジンで一発二発当てられれば上出来だったはずだ。

 しかし散々射撃の腕も磨いてきた今は違う……確実に全ての弾を叩き込むことができるのだ。

 

        

「くっ!? バリアで弾かれ……いや隙があるっ!!」

 

 果たして打ち放った弾丸は巨大な鉱石を囲うように張られているバリアによって殆どが弾かれてしまう。

 しかしほんの数発だけだが確かに鉱石に当たる鈍い金属音のような物が聞こえていて、そのほんの僅かな間だけ向こうの動きが止まったのを見逃さなかった。

 これもこの島に来て観察眼を磨いたが故にわかったことだ。

 

(落ち着いて考えろ……弾が当たる時と当たんないときの差を……っ!?)

 

        

「くっ!? またあのレーザーかっ!!」

 

 巨大な鉱石は一度機械兵士を作り出すのを止め、再び光を集めてレーザーを放とうとし始めた。

 

(大丈夫っ!! ティラノ達はまだまだ元気だっ!! それに俺も動物達が痺れてもティラノの背中から降りなければ大丈夫っ!!)

 

 ドローンの攻撃そのものは確実に俺の身体を打ち抜いているが、設計図から作り上げた高品質の鎧はまだまだ壊れる様子も無くしっかりと攻撃を受け止めてくれている。

 だから慌てることなく俺はこの隙に敵の数を減らそうと動物達に機械兵士達を処理させて、自分はアサルトライフルで少しでもドローンを落としておくことにした。

 

        

 

(やっぱりレーザーを放ってきたか……でも待てよ、今攻撃する瞬間バリアを解かなかったかっ!?)

 

 敵の数が減ったことで親玉である巨大な鉱石に意識を集中できるようになった俺は、一瞬だけバリアが剥がれる瞬間を見逃さなかった。

 その上で先ほど弾が通った時のことを思い返してみると、丁度機械兵士を新しく産み出したタイミングだったことに気が付いた。

 

「そう言うことか……見切ったぞお前の弱点っ!!」

        

 

 動物達が麻痺して動けなくなる中、あえて俺は周りを無視して巨大な鉱石だけに狙いを定めた。

 そして再び巨大な鉱石が機械兵士を産み出そうとするところを逃さず確実に打ち抜いていく。

 

      

「よしっ!! 思った通りっ!!」

 

 果たして俺の予想通り機械兵士を出そうとする瞬間だけ巨大な鉱石からはバリアが消えていた。

 おかげで俺の弾は巨大な鉱石の身体に当たるようになり、少しずつ向こうの形が崩れ始めているのがわかった。

 

(このまま全身が砕け散るまで打ち抜いてハチの巣にしてや……っ!!?)

 

 こちらの攻撃が当たるたびに巨大な鉱石の動きが一瞬止まり、そのおかげで機械兵士を産み出す速度も落ちてこちらの動物がついに敵兵士を一掃した……ところで新たな変化が訪れた。

 巨大な鉱石がバリアに包まれたまま固まったかと思うと、唐突にその身体をはじけさせて無数の丸い粒になってしまったのだ。

 

(倒した……い、いやこんなに早く倒せるはずがないっ!! 一体何をしようとし……っ!!?)

 

 バリアの内側で丸い粒は流れるような動きで新たに結合し直していき、新たな生き物の姿変化していく。

 

「お、おいおい……嘘だろっ!?」

『キュルルルルっ!!』

 

 機械音で疑似的な鳴き声すら出しているその新たな姿は、緑のオベリスクで戦った巨大蜘蛛そのものだった。

 

『キュルルルルっ!!』

「くぅっ!? む、迎え撃てっ!!」

「ゴワァアアアっ!!」

 

 変身が完了したところで元巨大な鉱石だったそいつはバリアを解いたかと思うと、今までの動きとは一転して猛烈な勢いでこちらに飛び掛かってきた。 

 慌てて動物達をけしかけて対抗させるがその力強さは見た目だけではなく能力まで完璧に巨大蜘蛛そのものであり、蜘蛛の糸や毒を伴いながら強烈極まりない一撃を何度も放ってくる。

 

(動きから能力まで完璧に再現してやがるっ!? だけどバリアを解いて襲ってきてくれるから動物達と一緒に攻撃できるから『こいつ』は問題ないだろうけど……くぅっ!?)

 

 オベリスクの時と違いギガノトが居ないこちらは火力が段違いであり、あの時のようにあっさりと倒すことはできなかった。

 それでも高品質のサドルで守られた動物軍団と正面から殴り合って勝てるはずもなく、時間こそ掛かったが巨大な蜘蛛形態はあっさりと崩れ落ちた。

 

(やっぱりこいつはどうにかなった……だけどオベリスクに居た奴を模してくるってことはこれで終わりなわけなぁ……ほらくそっ!!)

 

    

 

 思った通り俺の目の前で再び小さな丸い塊と化した巨大な鉱石だったモノは、バリアを張り直すとその内側で形状を組み直し……新たな生き物を模倣した。

 

『グォオオオっ!!』

「くそっ!! やっぱりかっ!!」

 

 今度は青いオベリスクで戦った巨大なゴリラに成り切った敵が、やはり完全に同じ能力でもって襲い掛かってくる。

 これもまた即座に迎撃させるが、ギガノトの不足が祟りこれもまた倒すのに時間が掛かってしまう。

 当然敵から攻撃を受ける頻度も増えてしまい、少しずつだが確実に動物達は疲弊し始めていた。

 

「ブォォォ……」

「キュィィ……」

「ゲロ……」

「パロロ君……ビーバー……カエル……っ」

 

 ついに比較的弱めなメンバーが倒れ始めた。

 豚も必死で回復してくれていたが、餌を食べるインターバルもあって流石に持たなかったのだ。

 

『グォォォ……っ!?』

「はぁはぁ……っ!!」

  

 

 それでも何とか巨大なゴリラも倒し終えて一息つく……どころか再び敵が変形し始めたのを見て、恐怖に近い感情が湧き上がってくる。

 

(もう間違いないっ!! 緑と青のオベリスクの奴に化けたんだから次は赤の……っ!!)

 

「奴が……ドラゴンが……来るっ!!」

『グォオオオオオっ!!』

「くぅっ!! 畜生っ!! ユウティ君来いっ!! 他の皆は……行けぇっ!!」

 

 果たしてついにこの島で最も凶悪であったドラゴンに化けた敵を見て、俺は反射的にティラノから飛び降りて比較的足の早いユウティ君へ乗り換えた。

 そして仲間達を正面から突っ込ませると、自らは敵の背後に回り一発の威力が高いポンプアクション式のショットガンに持ち替えて打ちまくる。

 

『グォオオオオオっ!!』

「あっ!? ま、負けるな皆っ!!」

 

 しかし俺の攻撃などモノともせずドラゴンに化けた敵は完璧の模倣した能力でもって、口から例の極悪すぎる炎を放ち正面から立ち向かった動物達を薙ぎ払った。

 

「グォオオ……」

「オォォ……」

「あぁ……ニックにカルちゃん……っ」

「フゥゥ……」

「グォォォ……っ」

「ワニすけ……ワニぞう……ティラノ達も……く、くそぉおおっ!!」

 

 ドラゴンのブレスの前では動物の種族も高品質サドルも何もかもが関係なく、全てがあっさりと溶けていく。

 群れで動く肉食も角の生えた肉食も大きいワニも細身のワニも、そしてティラノ達まで次々に倒れていく。

 それでも必死で攻撃を続けるが、オベリスクの時とは違いギガノトが居ない上に人間も俺しかいないのだ。

 

(火力が……火力が足りないっ!! あの時みたいな火力を……いや、待てよ……あの時は確か……)

 

 まだまだ倒れる様子のないドラゴンが更なるブレスを吐いてケーキと餌で堪えている残り少ないテリ君と豚達を焼き払っていく。

 しかしそれを見ながら俺はあることを思いつく……がどうするべきか迷ってしまう。

 

(あの時みたいに口を狙って……だけど外したら俺は間違いなく炎の直撃を喰らってお終いだ……けどこのまま仲間の動物が全滅しても同じこと……やるしかないっ!!)

 

 それでもこれしか方法が思い浮かばない以上はやるしかない。

 覚悟を決めて俺は一旦ドラゴンから距離を取ると荷物を下ろし、奥の方に仕舞ってあるロケットランチャーと弾を取り出した。

 

「グォォォォっ!!」

「っ!!?」

 

 弾を装填しロケットランチャーを持ち上げたところで、向こうからドラゴンが掛けてくるのが見えた。

 見れば戦っていた仲間の動物達は全て全滅していて……残る俺達に止めを刺しに来たのだろう。

 

(済まない皆……こんなところまで付いて来てくれたのに結局囮みたいな形で命を失わせて……もしもあの世に行ったら謝るよ……だけど見ていてくれ、君たちの命は無駄にはしないからっ!!)

 

「ほら、来いよっ!! 焼き尽くして見ろよっ!!」

『グォオオオオオっ!!』

「っ!!?」

 

 ついに俺達の眼前に迫ったドラゴンが口を開き炎をブレスを放とうとする。

 その前に細く長くくねる首の先にあるその小さい口の中にロケットランチャーを当てて誘爆させる……そうやってあの時はドラゴンを倒したのだ。

 

(流石にあそこに当てるのは……いや絶対に当てるんだっ!! その為に努力してきたんだっ!!)

 

 絶対に当ててやると決意を固めながらロケットランチャーを持ち上げる俺だが、そこで向こうは何かを察知したかのように器用に首をくねらせ始めた。

 

「な、何っ!?」

『グォオオオオオっ!!』

 

 恐らくは向こうも前に俺達が倒した方法をどうやってか監視して知っていて、その為に同じ手を喰らうまいとしているのだろう。

 しかしこうなると当てるのは更に至難になる……おまけに慎重に狙いを定めようにも向こうは今にも炎を吐こうとしている。

 

(くぅ……こうなったら一か八か……っ!?)

 

 流石に当てられる自信を失いかけながらも、それでも最後の賭けに出ようとしたところで不意に俺が身に着けている弓矢の鉱石が光を放ち始めた。

 すると意識が今まで以上に明瞭になっていき、まるで世界の全てがスローモーションで動いているかのように捉えられるようになった。

 

(こ、これは……そうかオウ・ホウさんが力を貸してくれてるのかっ!! これならいけるっ!!)

 

 止まっているようにすら見えるドラゴンの動きを冷静に見切り、口の中に当たるであろうタイミングでロケットランチャーの引き金を引いた。

 途端に世界が再び動き始め、勢いよく発射されたロケットランチャーはドラゴンの口内に突き刺さり火炎に誘爆して激しい爆発を引き起こした。

 

「よしっ!! やっ……っ!!?」

『グ……グォオォォっ!!』

 

 倒したと確信した俺の前でドラゴンは爆炎を引き裂くように頭部を突き出してきた。

 既にボロボロであり動いている最中も身体のあちこちが小さく丸い球となって落ちている。

 けれど完全にその身体が崩れ去る前に最後の力でもってそいつは炎のブレスを俺達に思いっきり吹きかけてきた。

 

「グォオ……」

「がぁあああああっ!!?」

 

 

 咄嗟にユウキィ君の背中から飛び降りたが、それでも炎を完璧に回避することはできなかった。

 炎を吐き終わると同時に崩れ落ちたドラゴンと同じく直撃した炎に耐えきれず倒れたユウキィ君の隣で炎を消そうと転がるが、重度の火傷を負ったせいか視界が霞んできてしまう。

 

(ま、不味い……め、メディカルブリューを……っ)

 

 曖昧にある感覚の中、必死にメディカルブリューを探しだし一気に飲み干していく。

 大量に用意してあったメディカルブリューを次から次へと飲み干していき、何とかギリギリのところで命を繋ぐことには成功した。

 

「く、くそぉ……うぐっ!!?」

『攻撃開始』

 

 

 しかしそこへいつの間にか迫っていた機械兵士達が攻撃を加えて来て、俺の身体はゴミのように吹き飛ばされた。

 その際に視界の隅に移ったのは、全身ヒビだらけで今にも崩れ落ちそうながらも元の巨大な鉱石の形をギリギリで保っている敵の姿だった。

 もはや向こうも満身創痍なようで新たな機械兵士を産み出すのにも苦労している上にバリアすら張れなくなっているようだ。

 

(あ、後ほんの僅かなんだ……ここで負け……ぐぅぅ……ひ、左腕が動かない……っ!!)

 

 目の前に迫る機械兵士を手持ちの銃で何とか打ち倒し、後は必死になって距離を取ろうとする巨大な鉱石を打ち抜けば……そう思ったところで左腕が完全に動かなくなっていることに気が付いた。

 どうやら先ほどの攻撃で骨が折れたかどうかしたらしい……炎のブレスのダメージも残っているせいか、痛みが殆ど無くて感覚が鈍っているせいで気づけなかったようだ。

 

(く、くそ……片手でも狙って引き金を引くぐらい……た、弾切れ……こ、このタイミングで……最悪だ……っ)

 

 運が悪いことに丁度先ほどの機械兵士を倒したところでマガジンに入っている弾を打ち切ってしまったようだ。

 幾ら何でも片手で弾を取り出してリロードするのは時間が掛かり過ぎる……何より既に眩暈がして感覚が鈍くなっている今の俺に、そんな作業をこなせるとは思えなかった。

 

(こ、このままじゃあいつが産み出した新しい機械兵士に殺される……だ、だけど片手じゃ弓矢だって引けない……ほ、他に遠距離武器が有れば……何かないか何か……っ)

 

 もはや背負っていた荷物を開くこともできない俺は、それでも最後まで諦めまいと身に着けているアイテムを漁りまくった。

 

(な、何でもいい……投げられるものならこの際石でも……あっ!?)

 

 使えないものを落としていき、そうして最後に俺の手に残ったのは石で出来た原始的な槍であった。

 俺が初めてこの島に来て敵を倒した武器であり、ずっと俺の冒険を見守り続けてくれた守り神。

 鉄の槍と違って投げても使えると思いながらも、重火器や弓矢に比べると大した威力にならないからと結局一度だって使わなかった。

 

(こんなちんけな武器じゃ、幾らボロボロとはいえ金属以上の強度であるアイツを倒せるとは思えない……それどころか通じるかどうかも……ううん、それ以前に今の体調じゃ当てられるかどうかも……だけど、それでも俺は……っ!!)

 

 事ここに至れば俺に選べることは一つ、足掻くか足掻かないかだけだ。

 ……俺はずっとこの島に来てから足掻き続けていた。

 何度も失敗しながら、何度も後悔しながら、何度も諦めながら、何度も絶望しながら……それでも足掻くのだけは止めなかった。

 

 だからこんな絶望的な状況で例え無駄な足掻きになるとしても、やらないわけがなかった。

 

「う……おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 雄たけびを上げながら体を起こし、片手でしっかりと握りしめた槍を振りかぶると敵がいるであろう方向に向かってぶん投げた。

 果たして一直線に飛んでいった槍はちょうど光を蓄えて何かをしようとしていた巨大な鉱石の中心にぶち当たり……あっさりと石の槍は砕け散った。

 

(はは……やっぱり駄目か……)

 

 もはや身体を支える力も無く床の上にあおむけで崩れ落ちた。

 そんな俺の視界の隅で巨大な鉱石は不気味に光を蓄え続け放……とうとしたところで不気味に震え始めた。

 

「え……?」

『』

 

 まるで何かに耐えかねるかのように震え続けた巨大な鉱石は、最後に音にならぬ音を漏らしながら小さな球に収束していき……突然にはじけ飛んだ。

 爆風などはまるで感じず、ただ単に青い光の波動だけが室内に広がっていきすぐに静寂が戻る。

 

(……倒、した……のか……?)

 

 既に俺もまた限界寸前だったけれど、それでも何とか上体を起こして周囲を確認しようとしたところで再びホログラムが浮かび上がってきた。

 今度は幾つもの惑星とその軌道が記されたものであり、それらの配置はどことなく太陽系に似通っている気がした。

 次いでそのホログラムは地球と同じ第三惑星とでもいうべき位置の星に近づいていき、それらの周辺に先ほど宇宙空間に浮かんでいた方舟

が点在していることを示唆して見せた。

 

(……ああ……つまりあの星は……やっぱり地球……い、やも……どうでも……今はただ、眠い……よ……)

 

 そこまで確認したところで俺はついに耐えられなくなり床に崩れ落ちると目を閉じた。

 そのまま真っ暗な闇に溶けるような感覚を味わいながら意識を失う……寸前に瞼越しにも分かるほど目の前が明るくなっていく。

 次いで身体に感じていた重さが抜けたかと思うと浮遊感に包み込まれて行き、ふいに意識がはっきりとしたかと思うとどこかに猛烈な勢いで引っ張られていく。

 

(な、何が起き……えっ……えぇえええええっ!?)

 

 思わず目を開いた俺はそこで自分が宇宙空間の真っただ中にいることに気が付いた。

 一体いつの間にこうなったのか訳が分からないが、もっと不思議なのは宇宙服も来ていないというのに息苦しさも何も感じないというところだ。

 困惑しながら周囲を見渡せば足元には先ほどまで俺が居た……ずっと暮らしていた島が見えていた。

 

(あ……め、メアリーっ!! マァっ!!)

 

 必死になって手を伸ばすが届くはずもなく、それどころか不思議な力で持って俺の身体は引っ張られて行きどんどん島から離れていく。

 その最中に左手首に付いた鉱石が激しく光ったかと思うと、宇宙の中に光で出来たトンネルのような道を作り上げた。

 

(ど、どこへ……どこに連れて行かれるんだっ!?)

 

 俺の身体はそのトンネルを通りながら、まるでワープでもするかのような勢いで加速していった。

 道中でいくつもの方舟の上空を通り抜け、ついにはとある惑星の傍に近づいていく。

 

(な、なんだあの惑星を覆っている透明なネットワークのような光は……う、うぉっ!?)

 

 そのまま俺の身体は惑星を覆う謎の光に吸い込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……ふ、フローラっ!?」

「久しぶりっ!! 合いたかったっ!!」

「お、俺もだよ……ず、ずっと君に……もう一度会いたかったんだ……もうずっと一緒だっ!! 絶対に離れたりしないっ!!」

「ありがとう、すっごく嬉しいな……だけどまだ駄目なの……大変だとは思うけど貴方にはまだやらなきゃいけないことが残ってるから……」

「な、何を言ってるんだフローラ……俺には君と一緒にいる以上に大切な事なんか……」

『だからこそお願いしたいことがあるのです、あの島を生き延びたサバイバーである貴方に……』

「な、なんだっ!? だ、誰だっ!?」

『私はもう名前も忘れてしまった、ただの『待つ者』です……ずっとここまで到達するサバイバーを待っていました……』

「お、お前が……『待つ者』……お、俺に頼みたい事って……これ以上何をさせる気だっ!?」

「落ち着いて、この人は私達の味方だから……多分……」




【一度も出なかった動物】

ダンクルオステウス(外骨格魚……深海描写時に出し忘れました)
ディプロカウルス(頭がブーメランみたいな奴……沼地描写時に漏れました)
メソピテクス(肩乗せ小形猿……出せるタイミングを見誤りました)
リオプレウロドン(神秘生物……途中まで存在を忘れてた&消滅の描写が出来ないので諦めました)
カルカロドントサウルス(超巨大肉食……いつの間にか生えてました)


最後の最後でストレスから左手と左目が一時使えなくなったこともあり、全くパソコンに触れなくなりました。
最終話がこんなに遅れて申し訳ありません、待っていてくれた方本当にありがとうございます。

また時間がある時にスコーチドアースとアベレーションをちょくちょく書きたいとは思っています。

最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました。
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