ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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外伝 恐るべき焦土⑤

「ど、どうですかソフィア……そ、そっちは上手くいきそうですか?」

「ご、ごめんキャシー……だ、ダメかもしれないです……き、キャシーさんのほうはどうですか?」

「うぅ……こ、こっちも……難しいです……」

 

 何とか一夜を乗り越えた私達だったが、もうすでにお互いボロボロだった。

 寝不足と食糧不足、さらには不安や恐怖からくるストレスに苛まれてふら付きながら、それでも必死に生きるための作業を続けていた。

 

(ど、どうしよう……このままじゃまた外で野宿……ううん、その前に昼になったら例の熱波が……今の私たちの体力じゃあんな日差しに晒されたら多分もう耐えられない……だからこそ、動物への対策も兼ねて拠点を作ろうって話になったのに……っ)

 

 とにかく身の安全を確保するためにも水辺を探す前に拠点を作ることに決めた私達。

 キャシーが馬に乗り材料の調達を行いつつ火を熾せるか試み、私は彼女の集めてきた材料を元に簡易でもいいから建造物を製作する。

 早朝という軽くあたりを見通せる程度には明るいがまだ暑くもなっていない唯一活動できるタイミングで全てを終わらせるために二手に分かれて分業しているのだがどうやらお互いに成果は思わしくないらしい。

 

「で、ですよね……やっぱり何もないところから火を熾すのは難しいですよね……」

「そ、ソフィアこそ何の経験もないのに建造物を一から作ろうとしてるんですから失敗して当然といいますか……」

 

 一朝一夕にできるようなことではないのはわかっていたが、時間ばかりが過ぎていくこの状況に不安と恐怖は大きくなるばかりだ。

 おまけに日が強くなるにつれて焦りも加わってきて、だんだん作業に集中するのも難しくなってくる。

 

(こ、このままじゃ不味いのはわかってる……わかってるのに……っ)

 

 昨夜聞こえてきた人の悲鳴が私達の末路を予感させる気がして、恐ろしさのあまり思わず身震いしてしまう。

 死にたくない一心で必死に両手を動かすけれど、それでもやっぱり材木を中心にした建造物の土台すら全然組みあがらない。

 

(うぅ……ど、どうしよう……また太陽の日差しが強くなってきてる……拠点も全然できないし、このまま遠出できなくなる前にいっそのこと水辺を探したほうがいいのかも……?)

 

 この調子で遅々として進まない作業にこだわるより、いっそのこと昨日考えたように例の虫を追いかけるなりして水辺を探すべきでないかという思いが湧き上がる。

 体力不足も相まってもはや昨日のような暑さに耐えられそうにないが、水さえ豊富にあれば身体を冷ます方法だってあるし再び涼しくなるまで耐えることもできるだろう。

 もちろん野生生物を追いかけるやり方で確実に水源にたどり着ける保証はないが、少なくともここで未だに何の成果も出ていない作業を続けるよりは生き残れる可能性が高くなる気がした。

 

「はぁぁ……だ、だんだん熱くなってきましたね……そろそろソフィアも樹液を飲みに行ったほうが……」

「わ、私はまだ大丈夫だから……キャシーこそ沢山動いているんだからちゃんと定期的に飲んでおいてね……」

「ええ、わかってますよ……ただ例の刺植物も限りがありますから……まあこの場に留まっていては遠からず、ですが……」

 

 キャシーの憂うような言葉に、彼女も内心ではこの場にいるよりも水源を探すために移動したほうがいいと考えているようだった。

 しかしそれでも私もキャシーも移動しようという提案ができないのは昨夜に心の底まで刻まれた恐怖が色濃く残っているせいだ。

 

(そ、そもそも例のお腹が膨らんでる虫だって見つかってないんだから移動しようがないってのもあるんだけど……ああ、だからせめて私が最低限動物と日差しから身を守れそうな囲いぐらいは作らないといけないのに……っ)

 

 どうしようもなく追い詰められているような感覚に私の焦りは強くなるばかりだった。

 そしてキャシーもやっぱり同じような気持ちなのか、ソワソワした様子で目に見える範囲から採取してきた果実や繊維それに樹木を馬に蹴らせる形で取ってきたという材木を下しつつ周りを何度も見まわしていた。

 恐らくは例の虫とともに私のための馬を探しているのだろうけれど、肉食が多いこの土地では虫や草食は生き残り辛いためかやはり全然見つからないようだった。

 

「うぅ……あ、汗が目に染みて……ひ、皮膚も焼けるようでぇす……」

「ほ、本当……け、けどどうして……ま、まだ太陽はそこまで高くないのに……?」

 

 戻ってきた熱気にじわじわと追い詰められていた私達だったが、突然周囲の気温が急激に上がっているのに気が付いた。

 まるで昨日体験した真昼の一番熱気が強い頃のように感じるほどだったが、太陽の位置的にそんな時間帯ではないのは明白だ。

 そう思って太陽の方へ視線を投げかけてみたところ、何故か目に痛みを感じるほどの強烈な光と熱波を放っているではないか。

 

(な、なにこれっ!? ど、どうして急にこんなにも日差しが強くなってるのっ!? ま、まさかこの場所では実はこの時間帯が一番熱くなるのっ!? それとも今までがたまたま涼しい時期だったってだけなのっ!?)

 

 余りにも悪い意味で予想外すぎる状況に混乱してしまうが、それ以上に危機感が湧き上がってくる。

 もしこの太陽の猛烈な日差しが変わらないまま日が昇ってさらに気温が上がったりしたら……いやそれ以前にこの暑さが続くだけでも致命的だろう。

 何せ余りにも日差しが強すぎて、キャシーの言う通り少しで陰から身を出そうものなら火傷してしまいそうなのだ。

 

「こ、これでは虫と馬を見つけたとしても移動するのは……っ」

「け、けどこんな暑さだと日陰にいるぐらいではとても……ひ、日が落ちるまで耐えられるわけ……」

「ワオォオオオオンっ!!」

「「っ!!?」」

 

 ただでさえ環境の変化に絶望していた私達に、更なる最悪の事態が襲い掛かってくる。

 動物の咆哮に地上へと視線を戻せば、いつの間にかすぐ近くまで狼と思わしき一群が迫ってきていた。

 

(う、うそ……いつの間に……う、ううんそれ以前になんであんな暑そうな毛皮を纏ってる狼がこの暑い中で平然と動いていられ……ひぃっ!?)

 

 一瞬この土地に似つかわしくないほどの暑苦しそうな毛皮を纏った狼の姿に違和感を覚えたが、遠吠えを終えた狼たちがはっきりと私達を見据えてくると一気に恐怖で心は満たされてしまう。

 

「ワオォオオオオンっ!!」

「あぁっ!!」

「くぅっ!! ソーリーソフィアっ!! ちょっと乱暴にしますっ!!」」

「あっ!?」

 

 恐ろしさに腰を抜かしてしまった私に対して、馬に乗っていたキャシーは謝罪を口にしたかと思うと私を昨日と同じように投げ縄で引きずりながら狼に背を向けて走り出した。

 乱暴な方法ではあるが普通に走って逃げたところで追いつかれて命を落とすのは目に見えているため、私としてはキャシーの判断に文句を言うどころかむしろ感謝したいところだった。

 

(だ、だけど痛いっ!! 砂で皮膚が擦れる……が気にならないぐらい太陽の光で焼けるように痛いっ!!) 

 

 獣に追われている状態で通る道を選んでいる余裕があるはずもなく、私たちは自然と強すぎる太陽の光の下を駆け抜ける羽目になった。

 しかしただでさえ影の中にいてもなお汗が止まらないほどの熱気だったというのに、日差しの中に出たことで私の体調は一気に悪化していった。

 動機が激しくなり眩暈がしたかと思うと、目の前の光景が何もかも霞み歪んでしか見えなくなってくる。

 

「はぁ……はぁぁ……」

「はぁぁ……あぁぁ……っ」

 

 苦しさに喘ぐことしかできない私だったが、キャシーもまた同じような状態のようであった。

 もはやろくに手綱も操れていないのか、その動きもふらふらと左右に大きくぶれているほどだ。

 

(あれぇ……ゆれてるのはわたしのしかい、なのかなぁ……?)

 

 いや、もはや意識が遠のきかけている私の五感が狂っているせいでそう感じるだけかもしれない。

 実際にもう皮膚が砂ですれる感触も日の光で焼ける痛みも気にならなくなってきているほどだ。

 耳に入る音も膜か何かを通した後のようにぼんやりしているし、少し顔を上げてみても目に映るもの全てがゆらゆらと揺らいでしか見えないのだから。

 

「……ぁ?」

「う……っ」

 

 不意に何かの衝撃でガクンと身体が揺れたかと思うと私の体は一瞬宙を舞い、そして砂の上に仰向けに寝転がる形となった。

 もはや暑さは感じないがそれでも眩しすぎる太陽の光が私の目に突き刺さり、その成果視界の中にある全てが燃え上がっているように見えた。

 

(もえてる……とりさんがもえてる……もえながらとんでるとり……はは、そんなわけないのに……わたしとうとうげんかくまで……)

 

「そ、ソフィ…………ど、どこですか……?」

「あ……き、キャシー……?」

 

 キャシーの声に朦朧としていた意識が一瞬だけ覚醒する。

 そして反射的に彼女の様子を確認しようと力を振り絞って頭を動かした私は、生き物のように動く巨大な岩がキャシーの乗っていた馬を押しつぶすところを目の当たりにした。

 

(あ、あはは……や、やっぱりわたしげんかくをみて……あ……きゃしー……?)

 

 私の感覚はどうしようもないほどに狂ってしまったようだが、それでもすぐそばで砂に埋もれかけているキャシーを見つけることができた。

 尤もこの光景も正しいのかはわからないが、どうやら彼女はあの動く岩に見える何かに引っかかったのかはたき落されたのか……とにかく落馬してしまったらしい。

 向こうもまた致命的な状態のようでろくに身体も動かせないようだったが、それでも何かを求めるように片手だけ必死に持ち上げられていた。

 

「……キャシー」

「……ソフィア」

 

 私もまたそんな彼女に向かって自分の手を伸ばし、何とかぎゅっと握りしめると向こうも弱弱しくだが握り返してくれた。

 

(もうだめだろうなわたしたち……でもきゃしーといっしょなら……いっしょだから……)

 

 あれだけ死ぬのが恐ろしかったというのにキャシーと手を繋いでいると安心できる気がした。

 だから私は薄れゆく意識の中で、それでも絶対に離すまいと彼女の手を取ったままゆっくりと目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………かっ!?」

「……?」

 

 そうして意識を失おうとしていたほんの寸前、急に辺りが騒がしくなった。

 そして身体が揺さぶられたかと思うと、冷たい何かを掛けられたような気がした。

 尤もすでに殆どの感覚がマヒしているせいかはっきりとはわからなかったけれど、身体がその刺激に反応したのか気が付いたら私はもう一度目を開いていた。

 

「…………っ!!」

 

 そんな私の目に入ったのは何かを必死に叫びながら赤い液体の入った入れ物を取り出そうとしている男の人の姿だった。

 

(このひとは……だれかがたすけに……ああ、ちがう……このひともまぼろしだ……)

 

 しかしそれもまた感覚がおかしくなっているせいで見ている幻であるとすぐにわかる。

 何故なら目の前にいる男の人は私達と違って、片手ではなく両手首に金属が埋め込まれていたからだ。

 恐らくは無意識のうちに助かりたいと思った私が投影してしまった幻覚なのだろう。

 

(あはは、さいごのさいごまでへんなまぼろしみちゃったなぁ……もえるとりにうごくいわにみおぼえのないおとこのひと……どうせさいごにみるのならきゃしーのかおをみたかったなぁ……)

 

 今度こそ私は最後にキャシーのことだけを思いながら意識を完全に手放すのだった。




今回登場した動物

ジャグ・バグ(お腹が膨らんだ虫)
エクウス(馬)
ダイアウルフ(狼)
●●●●●●(もえてるとり?)
●●●●●●●●●(生き物のように動く巨大な岩?)


これで外伝は終わりで次回から前と同じ日記風の本編を始めます。
……ARK2が販売するまでにはスコーチドアース編終わらせたいなぁ。
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