五十八頁目
落ち込んだ様子で一人膝を抱え込んでしまったハンスさんは、どうも自分の世界に入り込んで色々と考えこむ癖があるようだ。
お陰で幾らこちらから話しかけてもろくな反応が返ってこなくて、仕方なく俺も彼が正気に戻るまで半ば無視する形で屋内作業を開始した。
せっかく見つけた生存者なのだからもう少しは協力的になってほしいところだが、出会ったばかりでそう簡単に気持ちが落ち着くはずもないのだから無理もないと思う気持ちもある。
考えてみれば前の島でも目を覚ましたばかりの人間ですぐに協力的かつ精力的に活動できていたのは修羅場に慣れていたオウ・ホウさんぐらいのものだ。
フローラは元よりメアリーもそして野性味を残していたマァも、この過酷な箱舟という環境の脅威を肌で理解して自分の置かれている現状をようやく把握できて……それでやっと自分なりに動こうと決意を固められるようになったのだ。
もっと言えば俺だって最初は死なないために必死ではあったが、本格的にこの環境に立ち向かおうと覚悟を決めたのはスピノの襲撃という修羅場を乗り越えた後だったではないか。
ならば多少知識の上で現状を理解しているとはいえ、ハンスさんにもきっと時間が必要なのだろう。
きっとその時が来たら彼も今まで出会ってきた仲間たちと同じように手を取り合って協力していける……そう信じて今はそっとしておこうと思った。
目を離していてもこの拠点の中ならば比較的安全だし、一か所にとどまった際に起こる襲撃にしても今はまだ二日目なのだから流石にまだまだ平気だろう。
……もしちゃんと会話が通じるようになれば、何となくでしか把握していないその襲撃に関してもどういう理屈で起こっているのかちゃんとしたところを聞いてみたいものだ。
五十九頁目
先ほどの金属鉱石を回収する最中に退治した動物からとれた生肉を焚火で炙り、ハンスさんが食べた分のこんがり肉を含めて食料を再補充していく。
そのついでに製錬炉も制作し、取ってきたばかりの金属鉱石を溶かして使いやすいインゴットへと変えていく。
もちろんその前に溶かす前の金属鉱石が持つ磁石に反応する性質を利用したコンパスを作るのも忘れない。
これでまたこの砂漠の地図を自作していくこともできるだろう……あの島の時の様に隅の隅まで探索しきるには、また結構な時間がかかりそうだ。
ただあの島とは違ってこの箱舟は周囲を海水ではなく砂の砂漠が続くばかりなので、飛行手段やら海洋生物などを仲間にしなければいけなったあの時よりは楽かもしれない。
何せ乾燥と暑さにさえ対策できれば歩いてどこまででも調べに行けるのだから、それこそ陸上生物でもいいから背中にプラットフォームサドルを載せて移動拠点にできる奴がいれば一気に行けてしまいそうだ。
何といっても泳いで深海まで探索する必要はないのだし、クソ鯨のような拠点潰し専用ともいえる生き物がいるわけでも……い、いやでもひょっとしたら外側の砂漠地帯にはクソ鯨の代用とばかりにあのゴーレムが無数にいた入りするのか……?
一応この箱舟の管理人は生まれたばかりの人間が生きる気力を失わないよう、簡単にはここが箱舟というか何かの管理下に置かれた人工的な場所だと気づかれたくないようだし、その可能性はないとも言い難いが……?
今回名前が出た動物
リードシクティス(クソ鯨)
ロックエレメンタル(ゴーレム)