九十六頁目
少女の踊りと歌は俺の心を驚くほど癒してくれた。
おかげでやる気が湧いてきて、早速少女と共に拠点の中に戻った俺は屋内作業に取り掛かることにした。
まず製錬炉で溶かしたくず鉄が思った通り鉄資源として使えそうなことを確認した俺は、それを利用して作業机を作っておくことにした。
尤も鉄がそれほどあるわけではないので作業机で何が作れるわけでもないのだが、近くに金属鉱石があることを思えば後々のためにも作っておくべきだと判断したのだ。
次いで食料保存庫を作ると、すり鉢で作った発火粉を入れてから次いでメディカルブリューを生成しては中へと詰めていく。
これから先、少しでも犠牲者を減らすためにも、何より俺たち自身の安全のためにも、やはり怪我人を救助できるメディカルブリューは必須だ。
だからすり鉢で作れる限り麻酔薬を作ると半分は麻酔矢用にして、残りは調理なべで赤い果実と共に茹でることでメディカルブリューにしていく。
ありがたいことに作業が単純なのと、何より住居内で動物の姿が見えないためかあの少女にお願いして手伝ってもらえた。
……やっぱり二人で作業できると効率が全然違う……ハンスさんも静かなままだし、昼間の忙しさが嘘のようだなぁ。
この調子でずっと行ければ楽なのだけれど、そう上手くはいかないだろうなぁ……
九十七頁目
池に落ちて濡れたハンスさんの事例もあるし、予備の着替えとして布の服を幾つも作ってタンスに入れておくことにした。
その際に事前に渡してあった皮の服に着替えたらしいハンスさんが脱ぎ捨ててあった布の服を再利用すべきか考えつつ拾ってみたところ、そこから真珠が零れ落ちてきたから驚いてしまう。
一応声をかけてみるが眠っているのか返事はない……ただ前に島で取れた真珠の場所を思えばワニに池の中へと引きずり込まれた際に紛れ込んだと考えるのが自然だろう。
この推測が正しいのならばこの場所では上手くやれば金属鉱石と真珠も採取できるというわけだ。
どうやら水が大量に使えることも踏まえて非常に素晴らしい立地に拠点を構えることができたらしい。
こうなると前の島でのことを思えば、後必要になりそうな素材は水晶に原油に黒曜石に……やっぱりまだまだ文明開化には時間がかかりそうだなぁ。
……そういえば深海か、そこに生息する巨大海洋生物からしか取れない黒真珠なんてものもあったけれど、この砂漠にアレが取れる場所はあるのだろうか?
九十八頁目
夜遅くまで作業していたが、今日は人の悲鳴が聞こえてくることはなかった。
連日襲われ続けていたのが異常だったのか、仮にも俺達が生き延びていることから少しは人間が生み出される速度が落ちているのか。
……それとも単純にオベリスクの傍まで移動したことで初期位置で襲われる人々の悲鳴が届かなくなっただけなのか、それはわからない。
ただこの点も流石に割り切らなければいけないかもしれない……俺は神様ではなく、あくまでも一人の人間に過ぎない。
全ての人間を救うなど不可能なのだから……人が死んでいるかもしれない状況で一々悔やんでいたら心が持ちそうもない。
それでもせめて手の届くところにいる人の命だけは確実に守っていきたいところだ。
だからこそこうして合流出来たハンスさんやあの少女の身の安全だけはしっかり確保していきたい。
……もちろん他の生存者も助けられるなら助けたいけれど……ただもし次の生存者も厄介な性格をしていたら……さ、流石に三人は抱えきれる自信はないぞ俺っ!?
今回名前が出た動物
カプロスクス(ワニ)