百一頁目
果たしてハンスさんが語り始めた内容は……いやその前にまずハンスさんは俺に今まで申し訳なかったとばかりに頭を下げて来て俺はのっけから混乱してしまった。
そんな俺の前でハンスさんは語り続けるが、どうも彼の今までの態度は色んな要因から精神的に追い詰められていた結果だったようだ。
具体的にはまず自分がクローンである事実を認めたくなかったこと……何でも彼は技術者としての仕事が終わった後で、本来ならば眠りながら新天地を目指す予定だったらしい。
どうやら未来の地球は普通の生き物が住めない環境になってしまったらしく、その地球の再生計画の一端が『ARKシステム』であり逆に彼の言う移民計画が『ジェネシス計画』だという。
それなのに彼は『ARK計画』の方に巻き込まれた挙句、左手に埋め込まれている鉱石……インプラントというらしいそれを見て自分がクローンである事実にも気づいてしまったが、どうしても受け入れがたくて何かの間違いだと自分に言い聞かせていたようだ。
……思い返してみれば俺も自分が作られた存在だとわかった時や、実際にクローン人間が作られているところを見た時、何度も物凄く絶望して苦しんだではないか。
ハンスさんが未来人である程度事情が分かっているとはいえ、実際に自分がクローンだとわかればそれは冷静ではいられないことだろう。
とにかくそういう理由で冷静ではいられなかったのだが、そこへ更に未来人であるプレッシャーのようなものまで覚えていて苦しんでいたと言う。
間違いなくハンスさんが最も知識がありこの状況に詳しい現状、彼は自分こそが皆を率いて導かなければならないという義務感のようなものを覚えていたようだ。
しかし実際にはこのサバイバル環境で自分は余りにも役に立てなくて、過去の人間である……ある意味で原始的な存在である俺の言われるままに動かなければいけないことに思うところがあったようだ。
……ある意味で俺を見下していたような発言だが、これに関しても俺は何となくわかる気がした。
俺も見下してこそいなかったが前の島で過去の人間と出会うたびに今の状況をどう説明していいか何度も悩んだし、彼らが間違わないよう導くとまでは言わないが一番先の時代の人間として頑張ろうと無意識のうちに思っていたような気がするからだ。
とにかくそういうわけでハンスさんは俺に対してああして尊大な態度……冷静でないためにあんな形になったが、彼なりにリーダーとして導かなければと思って指示していたつもりだったようだ。
しかしやはり自分がクローンであることが認められなくて……何より本当にクローンなのだとしたら生きている意味などあるのかなんて苦悩もあって、どうも投げやりというか滅茶苦茶我儘な態度になってしまっていたらしい。
そんなハンスさんがなぜ急にこんなまともになったのか不思議だったが、それに関しては昨日の様々な出来事で考えを改めることができたからだという。
……曰く、俺がハンスさんだけでなくあの少女をも保護した上で言うことを無下にしないで可能な限り譲歩してくれて自分以上にリーダーとしての資質を見せてくれたこと、ハンスさんが成果を上げた際には素直に褒めて認めてくれたこと、また自分も知らないあの謎の装置や薬を見せられて知能レベルとしても決して自分が導かなければいけない存在ではないと認識したこと。
それらに加えてハンスさんは次いで恥ずかしそうに、あのワニに襲われて溺れかけて苦しんだ際に改めて死にたくないと強く思ったのが一番の要因だったという。
……そうハンスさんは死にたくなかった……生きていたいと思ったのだ……例え自分がクローンだろうと何だろうとその想いに間違いはない。
ならばそんなことに悩むより全力で生き抜いてやろうと思えるようになったらしい……だからこそこのサバイバル環境で強く生き抜いてきた偉大な先達である俺をリーダーとして共に協力していくことが一番だと一晩悩んだうえで結論付けたという。
そして改めて俺に謝罪した上で、今更だが共に協力してこのクソARKを攻略しようと……そのためなら何でも言って欲しいと力強く頼もしい宣言をしてくれるのだった。
……やっぱりそういうことなんだ……いきなり普通の人がこの環境に巻き込まれたら何かきっかけが必要なんだろうな……この調子ならきっとハンスさんとは今後上手くやっていけるだろう。
今回名前が出た動物
カプロスクス(ワニ)