百六頁目
また自分の世界に入り込んで会話が成立しなくなるかとドキドキしたが、俺の予想に反してハンスさんは早い段階で思考を切り替えるように頭を振ってこちらへと向き直ってくれた。
その上でともかくそのホモデウスが何を望んでいるかははっきりわからないけれど、この砂嵐が止んだら自分はまたオベリスクに干渉して可能な限り情報を引き出してみるつもりだからそれで何かわかるかもしれないと言う。
その上で他に気になることはないかと尋ねてくるが、少し考えた俺は一体どういう基準で再生する人間を選ばれているのかも聞いてみたが、これはハンスさんにもわからないのだという。
そんな彼に次いで俺は長い間一か所に留まると肉食が大量に襲撃してくるが、あれは成長を諦めて停滞しないよう追い立てているのかと聞いてみると基本的にそれで合っているという。
それどころか肉食動物でも追い立てることが不可能だと判断された上で更に停滞しようというのなら、自然環境まで操って天変地異のごとく災害を引き起こす可能性もなくはないらしい。
……ま、前に肉食の出ない草食島に引きこもったり或いは肉食に壊されない金属の拠点を作って安全に暮らそうとか考えたこともあったけど……や、やらなくてよかったぁ。
だけどそれだとフローラの夢だった集落をつくって穏やかに日々を過ごすというのは無理そうだ……と思ったところで俺は一番聞きたかったことを思い出した。
それはつまり死者の再生……フローラとオウ・ホウさんを蘇らせれる可能性についてだ。
しかしそれを俺が口にすると、ハンスさんは困ったような顔をしてしばらく黙り込んだ後で辛そうにそれは不可能だと告げてきた。
ずっとそれだけを希望に頑張ってきただけに頭をハンマーで叩かれたような衝撃を覚えるが、それでも必死に何で駄目なのか尋ねてみるとハンスさんは記憶が邪魔をするのだと答えた。
……要するに事前にデータを取っている状態のクローンならば幾らでも生み出せるが、その後で生き抜いてきた間の記憶の連続性を持たせたまま新しく肉体を作り直すことは、当時の技術でもできなかったのだという。
ARKシステムの構成上、それこそ死んだ後でも生き返れればいずれは沢山の経験を積んだ逞しいサバイバーが安定して生み出せるようになる……だからホモデウスも頑張ってそうできるよう試行錯誤していたらしいが、少なくともハンスさんの知っている限りでは一件も成功例がなかったらしい。
……フローラが復活できない? な、なら俺は何のために……そう思って右手首の鉱石を反射的に見つめるが改めて浮かび上がったフローラは安心させるように微笑んで見せた。
そして希望を捨ててはいけないとばかりに身振り手振りで励ますような仕草を繰り返している。
未来人であるハンスさんの知識と愛するフローラの助言……それならハンスさんには悪いけれど、どちらを信じるかなんて決まっている。
……諦めるものか絶対にっ!! 例えどれだけ足搔くことになっても、必ず取り戻して見せるっ!! だからもう少しだけ待っていてくれフローラ。