百七頁目
俺が長々と右手首の鉱石を見つめていたせいで、ハンスさんに心配させてしまったらしく大丈夫かと声を掛けられてしまう。
もちろん平気だと返すが、ハンスさんはそこで今までずっと気づいていたがその右手首の鉱石は何なのだと今度は向こうから訪ねてきた。
……どうやらハンスさんは右手にも鉱石が埋め込まれている俺を見てエラーの産物か、或いは変人なのではと警戒していた節もあったらしい。
まあ確かに右手首にも鉱石が埋め込まれている人間を見たらハンスさんとしては不審に思うだろうなぁ……もちろんこれを無理やり埋め込んだと聞いたら猶更かもしれない。
尤も今のハンスさんならちゃんと事情を分かってくれると思って説明してみる……と、何だか涙目になったかと思うと不用意に聞いて申し訳なかったと謝られてしまう。
どうもハンスさんは意外と涙もろい人なのかもしれない……とにかく埋め込んだ経緯を説明した上で、この砂漠に来てからは彼女のホログラムが浮かび上がるようになったと告げると、彼はそこで再び困惑したように首を傾げた。
……どうやらハンスさんには俺が見ているフローラのホログラムは見えていないらしい……そりゃあ時折右手首の鉱石を眺めて一喜一憂している俺を余計に不気味に思っても仕方がないかぁ。
ただ俺としては幾らハンスさんに見えないからと言ってこのホログラムが偽物だとは思わない……というかフローラが嫉妬するタイミングで右手首が痛んでいるぐらいだし、間違いなくここには彼女の魂が宿っていると確信できるぐらいだ。
そう俺が告げるとハンスさんは少しだけ俺の右手首にある鉱石を観察した後で、ちゃんとARKを一つ攻略した証にこちらのインプラントも変質していることを証拠に挙げて、このインプラントの機能自体は生きていることは確実だと言って……だから確かに可能性はあるのかもしれないと微笑みながら頷いてくれるのだった。
てっきり理論的にあり得ないとか言われると思っていたが、ハンスさんにもそう言ってもらえるとは……うん大丈夫に決まっているさ。
百八頁目
取り合えず思いつくことを聞き終えた俺は最後にオベリスクで他にサバイバルに役立ちそうな機能があるのか尋ねてみた。
するとハンスさんはアイテムのアップロード機能について告げて来て、あれを利用すれば他のARKにも物資は愚か生き物をも移動させることもできるという。
そ、それならもしかしなくても前の島から物資と動物を呼び寄せればこの砂漠を一気に攻略できるではないかっ!!
そう思って興奮する俺だったが、だけどあくまでも引き出せるのは個人があらかじめアップロードしておくことで当人と紐づけられているモノだけだから今の時点では何も利用できないという。
正確にはこの緑のオベリスクにアップロードしておいたアイテムや恐竜を青や赤のオベリスクでダウンロードすることで移動させるのは楽になるかもしれないが……な、何とか前の島から持ってこれないものか。
それこそメアリーやマァとも連絡を取りたいし、何なら戻っても……そう思ったところで俺自身が戻ることができるのか尋ねてみたところ、多分インプラントに攻略済みとして指定されているARKへ移動することは不可能ではないという。
……ただそうした場合、まだ攻略できていないこの砂漠に戻るには再び例の管理者を倒すなりなんなりしなければいけないから時間がかかりそうだし、できれば自分たちの生存環境が整うまでは置いていかないで欲しいとハンスさんは言うのだ。
それに何より転移させたらまた最初のところから裸一貫でスタートになるのは変わらないらしい……あの島なら多少安全とは言え、また裸スタートなのはなぁ……それにこの砂漠に戻ってきた時も裸となると、運が悪ければいきなり肉食に襲われてそれっきりになる可能性も……これは流石に諦めた方がよさそうだなぁ。
がっかりした様子の俺を気遣ってか、一応裏技的な方法としてアップデートした物資はデータ化されているようなものだから賞味期限などを無視して保存できるというが……いやまあ確かにこの物が腐りやすいこの砂漠では有益な情報かもしれないけど……やっぱりインチキして一気に文明開化するのは駄目ってことかぁ。