百六十五頁目
そいつはちょうどハンスさんがモスラの同種を使って飛行訓練をしていた際に襲撃してきたようだ。
不意にけたたましい獣の叫び声が聞こえたかと思うと、石の建材で作った頑固な防壁がギシギシ悲鳴を言い出したというのだ。
驚いてすぐに空から確認したハンスさんは、そこで仲間を引き連れながら猛烈な勢いで防壁を壊そうとしているラプトルの特殊個体がいることに気づいた。
困惑と恐怖におびえながらもハンスさんは防壁の内側に降り立つと、慌てて動物たちを集めて槍を構えて……そこへ騒ぎを聞きつけたのか拠点内で休んでいたルゥちゃんが姿を現したという。
もちろん傍にはオウ・ホウさんも居て、慌てて事情を説明すると前の島での経験から相手が恐るべき強敵であると教えられた。
しかし誰かが討伐しなければ防壁は破られてここにいる人間も全員やられてしまうだろうと……だけれどまさかルゥちゃんに戦いを任せるわけにはいかない。
つまりハンスさんはほぼ初めての実践に近いというのに、いきなりあの強力な個体とその仲間達との戦闘を一人でこなさなければならなくなってしまったのだ。
……まあ仲間の動物自体はその時点で肉食だけでも狼二匹とラプトル三匹、また豚にワニにサーベルタイガーに角の生えた肉食が各種一匹ずつと十分やりあえるだけ備えてあったが、ハンスさんは物凄く心細かったという。
それでもとにかく防壁が完全に壊されて中に雪崩れ込まれて乱戦になったらルゥちゃんまで巻き込まれて大変なことになる……流石に少女を見殺しにするわけにもいかないと覚悟を決めたハンスさんはオウ・ホウさんに彼女のことを任せると恐る恐るながらも動物を引き連れて防壁の入り口から外へと出ていった。
そしてすぐにハンスさんに気づいて襲ってきたラプトル軍団に怯えながらも慌てて総攻撃するよう指示を出して……そのせいで草食動物までもが飛び出していってしまった。
流石にハンスさんもまずいとは思ったようだが、すぐに戦闘が始まってしまいもうどうしようもなくなってしまう。
何せ下手に途中で指示を変えようとして動きが止まれば向こうの攻撃を無防備に受ける形になるかもしれない……だからもうハンスさんは護衛用の槍を握りしめながら状況の推移を見守るしかなかった。
……どうやら自分一人で戦うのが初めてだからか、動物の背中に乗って自分の身を守りながら指示を出すという基本すら忘れてしまっているようだがよくぞまあ無事で居てくれたものだ。
尤も動物の戦力的には幾ら相手が通常のラプトルを引き連れているとはいえ特殊個体自体が単独である以上は総攻撃すれば負けるはずがない。
果たしてサドルのつけられない狼や体力の低いミッキーの同種、それと足が速いせいで自然と最前線で戦うことになった仲間のラプトル達はやられてしまったようだがそれでも何とか勝利することができたという。
まあそいつらはその気になれば簡単に仲間にできるし、災害を予知できるミッキーの同種に関しても俺が連れていた個体とハンスさんが肩に乗せていた個体の二匹は残っているからやっぱり問題ない。
むしろ特殊個体と初めての実践だと思えばこの程度の犠牲で済ませてくれたハンスさんは十分すぎるほど頑張ってくれたと言っていいと思う。
だけれど彼は自分の不注意な指示のせいでせっかく俺が捕まえてくれた仲間に余計な犠牲を出してしまったと申し訳なさそうに頭を下げるのだった。
今回名前が出た動物
リマントリア(モスラの同種)
ユタラプトル
αラプトル(特殊個体)
ダイアウルフ(狼)
ダエオドン(豚)
カプロスクス(ワニ)
サーベルタイガー
カルノタウルス(角の生えた肉食)
トビネズミ(ミッキーの同種)