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とにかくそうやって特殊個体を撃破したハンスさんは最初こそ安堵したが、そこへ近づいてきたルゥちゃん……の傍に居るオウ・ホウさんが呟いた言葉を聞いてドキッとしたらしい。
何でもオウ・ホウさんは前の島での襲撃について口にしたようで、すぐにハンスさんもARKシステムの停滞を許さない仕組みを思い出したようだ。
もし先ほど撃退した特殊個体がそれの影響だとすれば、明日には更に強力になった恐竜軍団が襲い掛かりかねない。
ハンスさんにしてみれば今回の襲撃でも犠牲を出してしまったのに、それ以上の軍団が攻めてくるとなるとそりゃあ落ち着かなくても無理のない話だ。
そうして不安に苛まれながら周囲を警戒していたところに俺がアルケンαに乗って拠点の上を素通りしてしまった。
その力強い羽ばたきを聞きつけて見上げてみればこの付近では見かけないアルケン達の姿が見えて、しかも背中に乗っているせいで俺が操っているとはハンスさんにはわからなかった。
……そりゃあハンスさんにしてみればARKシステムが自分達を追い立てるために新たな動物をけしかけてきたとしか思えないだろう……道理で彼が異様に脅えていたわけだ。
ちゃんと着地して一度顔を見せてあげればよかったなぁ……ハンスさんは犠牲を出したことを謝っているけれど、むしろこっちの方が驚かしたことをお詫びしたい気分だ。
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事情を聴き終えたところでちょうどいつもの儀式もどきを終えたルゥちゃんと共にオウ・ホウさんもこちらに戻ってきた。
そして会話に加わる……前にオウ・ホウさんに言われたルゥちゃんが何やら一枚の紙を取り出してこちらに差し出してくる。
何かと思って確認してみると、その紙には幼児が書いたような歪んだ文字で……だけど腕に埋め込まれている鉱石のお陰か問題なく読めたそこには何やら料理のレシピと思わしきものが記されていた。
内容は紫と青と黄色の果実とサボテンの樹液、そして水の分量が記されているようだ。
これが何なのか聞こうとする前にルゥちゃんが珍しく自分からどこか自慢げに、天使様と協力して作りましたと報告してきた。
……良く分からないでいる俺に補足するようにオウ・ホウさんとハンスさんが教えてくれたところによると、ルゥちゃんの発作を押させるためのカスタムドリンクに味付けしようとしたところ変な飲み物ができてしまったのだという。
何でも俺がいない間に初めてルゥちゃんの発作関連を目の当たりにしたオウ・ホウさんが、かつて軍にいた頃に遠征した際の食糧事情を思い出して味について言及したのが始まりだそうだ。
そういえば俺なんかは……多分ハンスさんもだがあの飲み物を薬の一種のようにとらえていたから味のことなど全く気にしていなかったが、確かに定期的に飲ませるのならば味だって気を使ってあげた方がいいに決まっている。
オウ・ホウさん曰く、実際に軍にいた頃も食べ物や飲み物の味一つで人間の士気は意外と馬鹿にできないほど大きく変わっていたらしい。
だからこそ少しでも美味しい物を飲ませてあげようとルゥちゃんに指示して色々と果実やらサボテンの樹液やらを入れて研究していたところ、不意に変なスープが出来上がってしまったという。
最初こそ一応毒性がないか疑ったものの、そもそもの原料が安全な物ばかりだったため、動物実験をした後で実際にハンスさんが恐る恐る試してみたところ問題なく飲めたという。
しかもどうやらこれには喉を保護するように潤してくれるようで一時的に喉が渇きにくくなる上に、身体全体がひんやりするようになり熱に対してかなり耐えられるようになるという。
前なら料理を食べただけでそんな風になるなど信じがたいというところだが、前の島でロックウェル氏の残したレシピ料理の効果を体感している俺には納得できてしまう。
……喉の渇きを抑えて熱に対しても強くなる、まさにこの砂漠を攻略するのにうってつけの効能じゃないか、これは大発見だっ!!
だからルゥちゃんを思いっきり褒め称えながら頭を撫でてあげると彼女は嬉しそうに微笑みを浮かべながら、全て天使様のお陰ですとオウ・ホウさんの操るガイドロボットに向かって恭しく一礼するのだった。
今回名前が出た動物
アルゲンダヴィス(アルケンα)