百九十頁目
命に係わることなのだから躊躇している場合ではない……と理屈ではわかっているがどうしても戸惑ってしまう。
相手が男性ならば簡単に人命救助だと割り切れたのだが、仮にも愛するフローラがホログラムという形とはいえ傍に居る状態で異性と口づけするのは何だか裏切り行為のような気がしてしまうのだ。
尤も当のフローラも状況が状況なだけに複雑そうな顔をしながらもいつも嫉妬しているときのような激痛を与えてきたりはしない……い、いや疼く程度には痛んでいるけれどとにかく仕方がないことだと我慢してくれているようだ。
何よりあれだけ命の危険を冒してまで救出した二人を……今までこの砂漠に来てから沢山の命を救えずに来た中でようやく助けられるかもしれない人達をこのまま何もせずに見殺すわけにはいかないのだ。
だからやるしかない……そう自分に言い聞かせながら覚悟を決めるよう呼吸を繰り返しつつ、せめて一人だけで済むようハンスさんにもお願いすることにした。
果たして俺の提案を受けたハンスさんもまた物凄く戸惑ったような様子を見せたけれど、それでも人命救助だから仕方ないと自分に言い聞かせるようにしてメディカルブリューを手に取った。
……よ、よしやるぞっ!! やるしかないんだっ!! 覚悟を決めて……うぅ、ごめんよフロー……えっ!!?
ルゥちゃんありがとう……そしてごめんなさい、ヘタレで情けない男連中で。
百九十一頁目
メディカルブリューと共に水分補給できるサボテンスープやルゥちゃんの飲んでいるカスタムドリンクなども摂取させたお陰か、助けた二人の容体は安定した様子だった。
何せ意識こそ戻っていないが呼吸は眠っているときのように安らかなものになっているのだから。
……だけど本当にルゥちゃんが口移しで飲ませてくれて助かった、幾ら人命救助とはいえフローラ以外の女性とキスするのにどうしても抵抗があったから。
まだ寝ていなかったらしいルゥちゃんが俺のハンスさんへの呼びかけに反応して、躊躇している男連中を置き去りに淡々と対処してくれたのだ。
……余りに手慣れている様子からして、もしかしたらかつての儀式の中にこういう行為があったのかもしれないが、とにかく今はやり辛いことを代わりにしてくれた彼女には感謝しかない。
お陰でフローラも安心してくれたようでホログラム映像ではあるが、胸を押さえてほっとした様子で息を吐いている。
……だけど人の命が掛かっている状況だっていうのにキス一つでここまで混迷してしまうとは我ながら純過ぎるというか情けないというか。
散々これまでのサバイバル生活の中で非情とも言える判断を選べるようになってきたというのに……そう思って落ち込む俺をオウ・ホウさんが慰めてくれる。
そういうことに拘るからこそ人間らしさが失われないのだとか、その手の情を失った人間は遠からず破滅的な末路を迎えるものだと……。
……本当にオウ・ホウさんには励まされてばかりだ……いつか俺もこんな風に頼りがいのある立派な人間になりたいなぁ。