二百二頁目
い、今まで沢山の修羅場を潜り抜けてきたけれど痛みという意味では今回が一番辛かったかもしれない。
ともかく金髪の女性が離れたことでようやくフローラの嫉妬も収まってくれて、俺は苦痛からの解放に安堵の息をついた。
その上で改めて金髪の女性と向き合うと……またちょっと右手首がズキズキ傷んだ気がしたので、慌てて彼女から距離を取りつつ会話を始めることにした。
そんな俺の……いや俺達男性陣の腰が引けた態度に金髪の女性は少しだけ首を傾げつつも、特に言いよどむことなく自分から色々と語り出してくれた。
まず自分はキャサリンという名前でキャシーと呼んでほしいと言い、ついでまだ意識を失っている銀髪の女性はソフィアという名前だと教えてくれた。
そして二人は気が付いたらこの砂漠に居て出会ったばかりだといい、その際の経緯についても語ってくれた。
どうやら馬を捕まえたキャシーがラプトルと思わしき巨大鳥に襲われていたソフィアを見つけて一緒に逃げたと言うが……なおその際にどうも俺が前にカプセルから回収して使わないと捨てていった馬用のサドルを拾っていたらしいと聞いて、何とも不思議な縁を感じてしまう。
不必要だから捨てていっただけなのだが、あのサドルについて気にしているようだったので軽く会話に割ってそのことを告げたところ、キャシーはまたしても目を輝かせてお陰で助かったと感極まった声で叫びながら抱き着こうとして来た。
もちろんそんな真似をされたらまた地獄のような痛みが再開してしまうので、俺は咄嗟に避けるように身体を動かし……結果的に後ろに隠れていたハンスさんが抱きしめられる羽目になった。
途端に顔を真っ赤にしながら声にならない声を漏らし始めるハンスさん……なるほどなぁ、さっきハンスさんが取り乱していたのは目を覚ましたキャシーにこんな風に抱き着かれてパニクったからだったのか。
余り人のことを言える立場ではないがどうやらハンスさんは余り女性慣れしていないようだ。
それに対してキャシーは元々人懐っこい性格をしているためか、それともハグという行為に深い意味を抱いていないのか……とにかく気軽に人と接してくるタイプのようだ。
……これは何というか、悪い人ではなさそうだけれども……俺達にとってある意味でものすごぉく厄介かもしれないなぁ。
二百三頁目
ハグが終わった途端に、力なく床に崩れ落ちそうになるハンスさんを見てキャシーが心配そうな声をかける……がそんなに顔を近づけたら逆効果な気がする。
果たしてハンスさんはまたしても初対面の頃の様に声なき声を漏らすばかりになってしまうが、まあどこか幸せそうに顔が緩んでいる気もするから放っておくことにしよう。
だから改めてキャシーに声をかけて……念のためにもう一度、距離を取りつつ話の続きを聞こうとしたが、途端に彼女は顔を曇らせてしまい泣きそうな顔で寂しげにいまだ目を覚まさないソフィヤの方に寄り添い始めた。
そしてぽつりぽつりと語り出したところ、どうも彼女達はこの砂漠の熱気とウヨウヨしている肉食達に肉体と精神を蝕まれながらも二人で協力してやっていこうと頑張っていたらしい。
しかし夜を迎えて人の悲鳴や獣の息遣いに身も心も休まらなくなり、挙句にあの恐ろしい猛暑に襲われて追い詰められていった。
……物凄く良く分かる……俺も初めて夜を迎えたときは恐怖の余り震え上がって一睡もできなかった。
それでも始まりがあの島だった俺は孤独だったとはいえ朝日を感激しながら迎えることができたけれど、この砂漠にいた彼女達にとって太陽は明かりをもたらす救世主ではなく命を奪いかねない熱気を放つ悪魔にも見えただろう。
そんな中で狼に襲われて、どうしていいのかもわからないままとにかく馬を使って逃げて……だけどついに余りの熱気に限界を迎えて意識を失ってしまったというのだった。
確かにあの熱気には、焼け石に水程度だったとはいえ熱対策していた俺ですら意識が朦朧となっていたのだ。
まして布の服を一部纏っただけの状態では意識を保つのも難しいだろう。
……しかしこの調子だとゴーレムは見ていないのかな?
だとすると自分が仲間にした馬の末路も知らないのかもしれない。
……だけど馬を仲間にしていたことから結構優秀だと判断していたが、予想以上に彼女達は行き当たりばったりで何とか死なずにいただけだったようだ。
尤も何の経験もなくいきなりこの砂漠に身一つで放り出された上で一日以上生き延びたのだから十分凄いと言っていいだろう。
ただ問題なのはこんなARKどころか自分のいる場所すら何もわかっていないだろうキャシーに……いやこれから目を覚ますソフィアも多分何も知らないと思うけれど、そんな彼女達に果たして俺はどこまで事情を説明すべきなのだろうか?
今回名前が出た動物
ユタラプトル
エクウス(馬)
ロックエレメンタル(ゴーレム)