二百十二頁目
残念なことにシャワールームは使用中のようで、中からパシャパシャと水を掛ける様な音が聞こえていた。
まあ今日は本当に熱かったから、みんな考えることは一緒ということだろう。
仕方なく中にいる人が出てくるのを待とうと一旦離れようとしたが、そこへひょいっとハンスさんが顔を出してきた。
どうやら今の今まで作業を続けていたようだが、実際に住居の方を確認してみると二階部分が増築されているのが分かった。
……まあやっぱり俺と同じで見た目にまで気を遣う余裕がないらしく豆腐が二段重なっているだけのような建物だが、寝泊まりするだけならこれで問題ないはずだ。
ただ二階に登るための手段が前に屋根の上に登るために付けた梯子のままなので、これを女性陣に昇り降りさせるのはどうかと思う。
つまり二階は俺達が寝泊まりする場所にして一階を女性達に明け渡す形になるが、そうハンスさんに告げると彼もそのつもりだったようであっさりと頷いてくれた。
しかしそこでハンスさんは軽く周りを見回したかと思うと、ほんのわずかに声を潜めながら俺に向かって一つ確認したいことがあると言ってきた。
それは要するに今後二人とどう関わっていくのか……具体的にはどこまで事情を説明するつもりなのかということだった。
……その点に関しては俺もハンスさんと、できればオウ・ホウさんとも相談して決めたいところであった。
だからルゥちゃんにも声をかけて……と思ったところで日が暮れてきたことで日課の儀式をしようと思ったのか、住居の中からルゥちゃんがオウ・ホウさんと共に姿を現した。
ちょうどいいのでそんな彼女に声をかけてこっちに来てもらうと、改めて傍を飛んでいるオウ・ホウさんも交えて彼女達にどこまで事情を教えるべきか話し合うことにした。
果たしてハンスさんもオウ・ホウさんも一気に全てを話すのは……特に今が自分達の生きていた時代より遥かな未来である上にクローンであること、つまりは帰る場所がないという点については慎重に告げるべきだと思っているようだ。
……確かにもう二度と家族を含めた大切な人たちがいる場所に戻れない事実が一番絶望的だろうしなぁ……だけどそれ抜きでこの場所に関して説明するとなるとどうしても嘘を交える必要が出てくる。
それを後から知られた場合に彼女達が俺達に不信感を抱かないかが心配だ……それこそ下手したら誰も何も信じられないと彼女達が絶望して命を落とそうとしたり自棄になってこちらに危害を加えようとしたいする可能性もあり得ないとは言い切れない。
また一旦隠すにしても流石にずっと内緒にしておくわけにもいかないだろうし、その場合どのタイミングで真実を打ち明けるかも考えないといけなくなる。
……本当に悩ましいところだが、最終的に二人俺の判断に任せると言うのだ。
確かに色々と危惧はあるけれど、何だかんだ俺は今まで多くの生存者達と上手くやってきた。
実際に何も知らず混乱していたフローラとも、科学文明を知らないオウ・ホウさんとも、当時は傲慢で人の話を聞く気もなかったメアリーとも、野生児だったマァとも、パニックに陥っていたハンスさんとも……仲間として協力してやってこれる関係を築くことができていた。
だから今回も俺の判断なら上手く行くとお墨付きを与えてくれて……もちろんその上で自分達もその判断を全力でフォローするから、俺が良いと思ったように話を進めてくれというのだ。
……何だか信頼されているような厄介事を押し付けられたような……でもまあ仲間達がそこまで言ってくれるのなら本当に上手く行く気がしてくる。
だから俺は改めてあの二人とどう向き合うか考えようとしたが、そこで背後のシャワールームの扉が開く音が聞こえて……あれ?
そういえばハンスさんもルゥちゃんもここにいるのにシャワールームには誰が入っ……あぁあああっ!?
ヤバいやばいやばいぃいいっ!! 振り返るなよ俺っ!! この状況で振り返ったら俺は……俺は……間違いなく右手首が破裂して死んでしまうぅううううっ!!