二百十六頁目
ルゥちゃんの発言を聞いた二人は驚きに目を見開いたかと思うと、不安や警戒心などが入り混じったような視線で俺達とルゥちゃんを交互に見つめてくる。
まあこんな危険な環境の中で、いきなり少女が自分を生贄の巫女などと称しているのだから仕方のない話だ。
もしこれが逆の立場だったら多分俺達だって同じように少女を連れている連中に思うところが出てくるはずだ。
それこそ最悪は少女を洗脳して動物に襲われた際の囮にでも利用しているのではないかとまで疑われる可能性すらある。
……ああそうだ、もう一つ完全に見落としていたけれど何も知らない彼女達にしてみれば現状は誰かに攫われて地球上のどこかにある砂漠に放りだされていると考えているはずだ。
その状態で砂漠内にこんな拠点を作りそれなりに快適な生活環境で暮らしている俺達は元からこの砂漠に暮らす部族か……もしくは彼女達を誘拐した組織の関係者だと思っても不思議ではないじゃないか。
果たして二人がどこまで最悪の想定をしたのかはわからないが、とにかく俺達から距離を保ったまま改めてルゥちゃんに生贄の巫女が何なのかを初めとして色々なことを尋ねようとしていた。
正直なところルゥちゃんが何を言うかわからないから口をはさみたい気持ちは山々だったが、ここで下手に介入したらそれこそ悪いことをもみ消そうとしていると思われかねない。
だから取りあえずこの場はなる様になるのを見守り、その後の向こうのリアクションを見てどう動くのか考えるしかないだろう。
そう思ってあえて何も言わずにいる俺の前で、ルゥちゃんは相変わらず首を傾げたまま淡々と……俺達に聞かれたのと同じようなことを繰り返し口にするのだった。
二百十七頁目
不幸中の幸いというべきか、ルゥちゃんは本当に彼女達に聞かれたことをわかる範囲で淡々と説明してくれたお陰で取りあえず最悪の事態だけは免れることができた。
まあルゥちゃんが生贄の巫女で動物に捧げられる存在だと言った瞬間こそはヤバかったが、その後で俺達と自分を一から育てた人は違うとはっきり言ってくれたのだ。
更に新しいお世話係として俺と出会った際のことも話してくれて、動物に襲われていた危険な事態……当のルゥちゃんはそう思っていなかったようだが、とにかくそこに俺が介入したことも伝えてくれたのだ。
流石にそこまで聞いたことで俺がルゥちゃんを生贄として利用している存在ではないとは思ってくれたようで、少しだけ二人の表情がほっとしたように緩んだ気がした。
ただまあ不安が完全になくなったわけではなさそうで、二人とも寄り添ったままがっしりとお互いの片手を握り合っている。
……そのつなぎ方がいわゆる恋人つなぎという形なのは、それだけ離れないようしっかり繋がっていたいからなのだろうか。
それはともかく俺達に対する不信感が少しは払拭されたようであり、こちらに向ける視線は……何となく気まずそうではあるが、警戒心よりも不安が強くにじみ出ているように感じた。
多分その不安は自分達がこれからどうなるのか、というのもあるがそれ以上に自分達の置かれている状況に対する不明慮さが関わっているように思われた。
……そりゃあいきなりこんな危険な砂漠に身一つで頬り出された挙句に一度死にかけて、次に目を覚ましたら見知らぬ人達に保護されていました……なんて状況で落ち着けるわけがない。
ちゃんとその辺も余裕のあるこちらが先に気づいてフォローすべきだったのに、本当に大失敗だ。
この砂漠で先に出会った二人が事情を知っているハンスさんとそもそも事情を気にしないルゥちゃんだったからその辺のことを見落としてしまった、というのもあるがそれ以上に目を覚ました直後のキャシーが平然としていたから案外簡単になじんでくれるんじゃないかと楽観視してしまったようだ。
……今思えば多分あのキャシーの態度も、いきなり変なことが起こりすぎた挙句に未だ意識の戻らないソフィアが気がかりで自分の現状を思い出す暇もなかったからこそ俺達にいつも通り接していられたのだろう。
そう考えると今こうならなくても、遠からず二人が現状を思い出した暁にはこれと同じような状況になっていたのかもしれない。
……しかしこうなった以上は彼女達にこれ以上の不信感を抱かせないためにも、また不安に脅えてもらいたくもないし聞かれたことには隠し事なしに素直に答えていくべきだろう。
もちろんARKに関する真実もだ……下手に気を使って隠しても、この調子では逆効果になりかねない。
……皮肉だがこれで彼女達にどこまで話すのか悩む必要はなくなったわけだ……代わりに二人がどこまで俺達の話を信じてくれるかとか、また信じてくれたとしてその後に絶望したりしないかという悩みが増えるわけだが……はぁ、何でこう上手く行かないのかなぁ?