二百二十三頁目
ソフィアの心境がここまで変化した理由はもとより、今はまだ眠っているらしいキャシーの方がどうなっているのかも気になる。
それらをまとめて聞いてみようと口を開きかけたところで、防壁の外から狼の遠吠えが聞こえてきた。
もう動物達の襲撃が始まったのかと慌てて防壁の方へ振り返ったが、すぐ後にモレちゃんの同種と思わしき動物の悲鳴が上がったところを見るとたまたま近くで野生動物達が争っていただけのようだ。
思わず安堵に胸を撫で下ろしながら再びソフィアの方に向き直ったが、彼女は何度も深呼吸して自分の気持ちを落ち着けているようであった。
ソフィア達はまだ襲撃のことを知らないはずなのに何故こんな過剰に反応しているのか一瞬不思議に思ったが、すぐにそれらしい答えが思い浮かんだ。
彼女達はあの恐ろしい炎天下の中を狼に追いかけまわされて死ぬほどの目に合っていた……だから狼の遠吠えで当時の恐怖を思い出してしまっても仕方のないことだ。
実際にソフィアは少しの間、深呼吸を繰り返しながらも狼の遠吠えが聞こえた方向の防壁を見つめ続けていた。
それでも何も起こらないことを確認するとようやく彼女もまた安堵のため息をつき……そこで俺の存在を思い出したのか恥ずかしいところをお見せして申し訳ありませんと謝罪をするのだった。
……この態度といい、ひょっとして彼女は第一印象の通り良いところの令嬢だったりするんだろうか?
まあ前の島であったメアリーも似たようなものだったし、向こうが過剰に身分とか立場とか気にしない限りはこちらも特に意識するつもりはないが……それよりも狼を始めとした肉食動物がトラウマになっていないかの方がずっと心配だ。
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ようやく平静を取り戻した彼女に改めて色々聞きたいところだったが、それよりもまず襲撃に備える方が先決だと思い知らされた。
先ほどの狼こそは関係なかったけれど、実際に動物による襲撃がいつ起こるかわからないのも事実だ。
それこそ今すぐに起こっても不思議ではないのだから、その前に動かなければいけない。
だから取りあえずソフィアに動物の襲撃に関する情報を伝えてることにした。
昨夜は自分達の身の回りの状況についての説明を重点的に行ったために、具体的にこの場所で自分達がどういうふうにサバイバルしてきたかとかの細かい話まではできていなかったのだ。
果たして一か所に留まりすぎると動物の群れに追い立てられること、一度追い返しても翌日には更に強力な動物達が襲ってくること、そして昨日までの時点で既に二回撃退していて今日はかなりヤバい規模で襲ってくるであろうことなどを教えるとソフィアは恐怖と不安が入り混じったような表情を浮かべた上に軽く体を震わせ始めてしまった。
しかしそれでも彼女はこちらに向かって話は理解したとばかりにはっきりと頷いて見せると、やはり弱々しい声でだが具体的にどんな対策をするおつもりですかと尋ねてきた。
それに対して俺は巨大な動物にみんなで乗って、別の拠点に移動するつもりだと言い実際にパララ君を呼んで見せてやることにした。
同じ防壁の内側とはいえ身体が邪魔になるため隅の方に居たパララ君が近づいてくるところを見たソフィアは驚いたように目を丸くして固まってしまった。
どうやら石の防壁を鎧代わりに垂れ下げている上にパララ君が一か所で佇んでいたせいで、物置か何かに使っている別の建物だと思い込んでいたようだ。
……まあ動物を利用した移動拠点が存在するなんて普通は考えられないもんなぁ。
今回名前が出た動物
ダイアウルフ(狼)
モレラトプス(モレちゃん)
パラケラテリウム(パララ君)