二百六十六頁目
何の問題もなく拠点までアルマジロを運搬して戻ると、すぐに見張り台のような塔の上にいるソフィアが気づいて手を振ってきた。
その手には望遠鏡がしっかりと握られており、思った通りああして周りの安全を確認しているようだった。
……まあ拠点を囲んである石の防柵を打ち破れる動物は限られているのだが警戒に警戒を重ねるのは安全のためには正しい行為だし、何より自主的に考えてやってくれているのだからむしろ感謝すべきだろう。
だから軽く労いの声を掛けつつ何か見つけたら報告してほしいとだけお願いすると任せてくださいと誇らしげに胸を張って見せる
そして報告した方が良い生き物が居たら教えてくださいと、いつの間にか作ってあったらしいメモ帳を取り出しながら訪ねてくる。
本当にやる気満々な様子の彼女に取りあえず警戒すべき特殊個体を始めとした俺の知る限り石の建材を壊せる力を持った生き物ぐらいは教えておくべきだと名前と特徴を伝える……と長引きそうだしその前に空中で待機しているキャシーにも指示を出しておいた方がよさそうだ。
二百六十七頁目
アルマジロを下ろした後でキャシーには石の土台と石の窓枠で作る捕獲用の罠を教えて、実際に自分で作ってみるよう頼んでおいてから改めてソフィアに警戒するべき生物を教えていく。
すると彼女は名前と特徴を文字で書き記した後で、できるだけ見た目も再現しようとばかりに絵も描き始めた。
まずは見たことのあるラプトルを基準に特殊個体の特徴を添加した図が出来上がっていくが……実際に特殊個体ラプトルを見たことがないはずなのに、これまた非常に上手な絵になっていた。
まさかこんな才能があっただなんて驚きだ……とこれだけでも思っていたのに、更に彼女はこのまま何枚か書き写したら一つを除いて風に飛ばしてまだ見ぬ生存者に警告を与えたいとも言いだした。
……そうか、この砂漠に次々送られてくる新しい生存者が長生きできないのは知識不足も大きな理由の一つじゃないか。
だから可能性が低いとはいえ、こうして紙に情報を書いて飛ばしておけばそれを拾って読んだ人が生き残る足しになるかもしれない。
こんな発想は全くなかった……それこそ前の島でも新しい人間が生まれてくるところは知っていたから定期的に見周りにこそ行っていたが、看板なりを建てて情報を与える方法については思いつきもしなかった。
……いや多分無意識のうちに考えないようにしていたんだ……フローラの次に会った生存者がアレだったから、自分達の情報を与えることに臆病になっていたんだ。
果たして実際に俺の話を聞いていたソフィアも思うところがあるようで、危険そうな動物の情報について書き終えると何か言いたげに俺の方を見つめてくるのだった。
……人手は多い方が良い、それは今も実感している……だけど悪人が紛れている可能性を思えばちゃんと自分達で顔を合わせて見極めた相手以外に情報を渡すのは……逆に渋ることで助けられたかもしれない命が失われるとしたら…………正解は一体どっちなのだろうか?
結局何を言うこともなくソフィアは再び紙へと向き合い、この調子でどんどん書いていっちゃいますねと手を動かし続けるのだった。
今回名前が出た動物
ドエディクルス(アルマジロ)
ユタラプトル
αラプトル(特殊個体ラプトル)