三百六十九頁目
狼を倒し終える頃にはモーリツさんの姿は見えなくなっていた。
その警戒心の高さからくる立ち回りは未開の地を旅してきた冒険者としての経験が本物であることを表しているようだ。
これまでも、そして今後もこの砂漠で一人生き抜いていけそうな優秀な人だと納得できる。
しかし今まで出会ってきた人たちの様に仲良く協力し合う関係になるには少しばかり時間が掛かりそうである。
何せそのためにはARKに関連する余りに突拍子もなさすぎる話を疑わない程度に信頼関係を築く必要があるのだから。
ただファーストコンタクトとしては悪くないものだったとも思う。
彼が進んで空き巣や墓を荒らすような悪人ではないとわかったし、向こうも俺が教えたクラフトや動物の手懐け方を試せば嘘を言うような人間ではないとわかってもらえると思う。
後は次に彼と出会った時、向こうの出方を見守りながら対応していけばいずれはきっと良い方向に向かっていくはずだ。
だから今日のところは彼のことは置いておいて、別の作業に取り掛かるとしよう。
三百七十頁目
取りあえず結果が気になっているであろうソフィア達に連絡を取り、軽くモーリツさんの話を伝えておいた。
するとちょうど皆で一か所に集まっていたらしく、背後から旋盤の音が聞こえる中で各々が異なる反応をしているのが伝わってくる。
ハンスさんは俺に任せておけば安心だとばかりに頷いている様子であったが、キャシーはモーリツさんの名前を何度もつぶやき返しながら不思議そうな声を漏らしている。
一体どうしたのかと尋ねようとしたが、それより前に何やら押し黙っていたソフィアが逆にこちらへモーリツさんの装備について尋ね返してくる。
不思議ではあるがソフィアが反応しているということは何かありそうだと素直に頭だけ布装備で他は砂漠用の装備であることを告げると、次いで全部カプセルから入手した品なんですよねとも尋ねてくる。
その質問に肯定するとソフィアはまた少し黙り込んだかと思うと、あくまで推測ですがと前置きした上で話し出した。
何でも彼女達は彼女達はちょうど今、皆で手分けして俺がソフィアと遠征した際に入手してきた絹を使ってこの砂漠用の装備を人数分用意していたらしい。
だからこそ変に気になっているだけかもしれないがと言いながら、モーリツさんが希少素材である水晶が必要な頭部の装備だけ持っていない事実が妙に引っかかったのだという。
……言われてみれば確かに俺も山で水晶を手に入れるまでの結構長い間を彼と同じ格好で過ごしていた。
ただの偶然と言えばそれまでの話だが、そこで更にソフィアは偶然だというのならば幾らカプセルを回収して回ったとはいえそう都合よく砂漠用の装備ばかり集まるものでしょうかとの疑問を口にする。
まして彼は話が事実ならばこの砂漠へやってきたのはソフィア達の後であり、まだ一週間と経っていないのだ。
そんな僅かな間でパチンコ屋スモークグレネードも含めた上で更に砂漠用の装備が、しかも設計図ではなく実物ばかりが揃う確率……一体どれだけあるというのだろうか?
それに対してもし、もしもモーリツさんがクラフトに関して嘘をついていたとしたら……既に知っていて自分で作っていたとすればどうだ?
作るのに必要な素材はどれも手に入れるのはそう難しくない……それこそ水晶以外は俺の最初の拠点にも大体揃っていたはずだ。
……いやだけど何でクラフトを知らないなんて嘘をつく必要が……でもそう考えた方が納得がいく気が……ああくそ、本当に一筋縄じゃ行かない相手だっ!!
今回名前が出た動物
ダイアウルフ(狼)