四百十三頁目
拠点に戻り今度こそ眠るまでの時間を使ってのクラフト作業に移る。
ハンスさんは明日に備えて早めに眠った方が、などと言ってくれていたが睡眠不足よりメディカルブリュー不足の方が遥かに怖い。
だからルゥちゃんも含めて皆で一斉に始めた……のだが少ししたところで外からコレオちゃんと思わしき動物の鳴き声が聞こえてきた。
すぐに産気づいたのだと理解し、動物に慣れているキャシーと俺で対応しようと二人牧場へ向かうと思った通り苦しみながら子供を生み出そうとするコレオちゃんの姿があった。
即座にキビキビと動き出したキャシーに対し前の島ではこの手の作業は完全にフローラとメアリーにまかせっきりだった俺はちょっとどうしていいか戸惑ってしまう。
それでもキャシーに言われるまま助産の手伝いをするが、結局は殆ど何をするまでもなくあっさりと出産は終わってしまった。
キャシーも初産とは思えぬ産みっぷりに少し驚いている様子であった。
特に出産直後だというのに特に体力的な疲弊もなく平然としているのは驚異的だと言い、改めてこのARKにいる生き物の不思議さを再認識しているようであった。
尤も産まれてきた子供が顔を合わせるなり懐いてきたのを見ると、途端にそれまでの真剣な様子とは打って変わって顔を緩ませ可愛がり始めた。
それに対して本来の親であるコレオちゃん達はもう気にした様子もない……これもまた確かに普通の動物ならばありえない生態だろう。
キャシーもまた俺から聞いていたとはいえ実際にそんな状況を目の当たりにすると、今度は少しだけ悲し気な表情を覗かせてくる。
……相も変わらずキャシーは感情豊かで顔にはっきりと出てしまうようだ。
しかし今回はそこそこ長引いていて、それこそ懐いてくる子供を抱き上げてあやしている間も寂しそうな顔は変わらなかった。
何となく指摘し辛い空気であったがこんな顔をした仲間を放っておくわけにもいかずさりげなく尋ねてみると、キャシーはこっちを見ないまま珍しく歯切れ悪い様子でぼそぼそと断片的に呟いた。
母親に見捨てられた子供は辛いですヨネーとか何とか……そういえばキャシーは父親のことはたまに話題に出すが母親のことは余り聞いていない気がする。
それが何を意味するのかは分からないが、あえてそれ以上深く聞こうとは思わなかった。
多分彼女の事情に深入りしていいのは俺ではないだろうから……。
そうして少したったところで、急にキャシーは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも笑顔を浮かべて話しかけてきた。
改めてお礼が言いたいだとか俺に出会って色々聞けなければ動物の生態も含めて色々とわからなくて今も混乱していただろうとか、いやそれ以前にもう死んでましたかもネーだとかを早口でまくし立ててくる。
まるでさっきまでの空気をごまかそうとしているかのごとき勢いだが、あえて俺もそれに乗ろうと思いこちらからもお礼を言い返すことにした。
俺の話を……このARKに関わらるとんでもない話を信じてくれた上に仲間として一緒に行動してくれたことに対して……。
しかしそれを聞いたキャシーはぶんぶんと首を横に振ると、それならソフィアに言ってあげて欲しいという。
何故ならキャシーはソフィアの口にした『誰かを疑うより信じたい』という言葉に感銘して、俺達と一緒に居ることを決めたのだそうだ。
…………あれ? ソフィアの話だとその言葉はキャシーが口にしたはずなんだけど、この微妙な違いは一体……?
しかしあれだな、ソフィアの話になった途端キャシーはさっきまでの湿っぽさはどこへやら満面の笑みで彼女の凄さを語り始めた。
よほど彼女を信頼しているのだろうけれど、時折熱の籠った吐息を漏らしているところを見ると……ま、まさかねぇ?
今回名前が出た動物
ティラコレオ(コレオちゃん)