ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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第637話

四百二十七頁目

 

 逃げて行った人達はもう姿も見えないほど遠くへ行ってしまった。

 こうなったら後でソフィアと一緒にアルケンで追いかけようと大まかな方向をメモしておく。

 そんな俺にモーリツさんは、彼らを追いかけるのは構わないがこちらは君の聞きたがっていたことを素直に話したのだから行く前に今度はそちらが色々と話してくれる番ではないかと言ってくる。

 

 ……この危険な肉食がウヨウヨする砂漠において、あんな自分の身を守る手段もなさそうな人達は少しでも早く保護しないと文字通り命取りになりかねない。

 それぐらいこの場所でそれなりに生き抜いているモーリツさんなら理解できるはずなのに飄々とした態度で自分の要件を優先させようとする態度に俺は不快感すら覚えそうになる。

 果たしてモーリツさんはそんな俺の感場など見抜いているかのように、やはり価値観の差は大きいようだねと他人事の様に呟いた。

 

 そして彼は自分のいた時代では人間の命なんて当たり前のように失われていくものであり、仮にも自分で色々と物事を判断できる大の大人が自分の意思で去っていったのだから、そんな相手を自分の事情を後回しにしてまで守ろうとする必要はないと断言した。

 ……時代による価値観の違いが存在するのは理解しているつもりだ……だから多分モーリツさんの言うことはその時代に生きる人間ならば正しいと共感できる内容なのかもしれない。

 だけど俺は……いやこんなところで論議して無駄に時間を使う方が勿体ない。

 

 モヤモヤする気持ちを抑えて俺はさっさとモーリツさんが聞きたいことを話してこの場を立ち去ることにした。

 尤も彼が聞いてきたのはこの場所がどういうところなのかという、物凄く大事だけれど面倒な真実だったから困ってしまう。

 ……簡潔に説明しても時間が掛かりそうだし、ここは他の皆に無線で逃げて行った人達を追いかけるよう頼むべきか?

 

四百二十八頁目

 

 無線を取り出して拠点にいる皆に連絡を取ろうとしたところ、先にソフィアの声が聞こえてきた。

 俺がなかなか戻ってこないから心配していたようだがある意味で好都合だ。

 このまま彼女に探索に行ってもらおうと口を開きかけたところ、モーリツさんが興味津々といった様子で口を挟んできた。

 

 どうやら遠くにいる人と会話できる機械だと察したようであり、どうやって手に入れたのかや使い方について事細かく尋ねてくる。

 ただ俺としては一刻も早く逃げた人たちを追いかけてもらいたかったので後で説明すると言い、改めてソフィアに逃げて行った人達のことを頼もうとした……ところでモーリツさんに口を押えられた。

 即座に振り払いつつ困惑と不快感の入り混じった感情で彼を見つめるが、向こうは珍しく真剣な表情で口元に指をあてて静かにするようジェスチャーしてくる。

 

 その上で無線の向こうに声が拾われないようにか俺の耳元に口を近づけると小さい声で、老婆心ながら彼らの後をあの拠点に居る女性に追わせるのだけは止めておきたまえと呟いた。

 いきなり何を言い出すのかと思いきや続けて彼は、逃げて行った彼らは拠点を監視する際に女性の挙動ばかりをジロジロと眺めていたと口にした。

 ……女性ばかりを見て……それって…………っ!?

 

 一瞬何を言いたいのかわからなかったが少しして理解した俺は同時に何だか物凄くショックを受けてしまう。

 何となくモーリツさんに見捨てられた人達は可哀そうで助けなければいけない相手だと思い込んでいたが、そのイメージがかつてフローラを襲っていた男で上書きされていく。

 そんな俺の前でモーリツさんは苦笑を浮かべながら、こんな過酷な土地で清潔さを保っている女性なんて存在はそれこそここで生き延びれるような屈強な輩にとっては目に毒過ぎるものだから気を付けたまえと付け足すのだった。

 

 ……ああくそ、そうだった……ただでさえあの二人は魅力的な見た目してるのに水浴び溶かして小奇麗にしてるから俺も最初は警戒しないとって思ってたじゃないか……幾ら人の命が大事だからって女性陣に違う意味での危険にさらすのは……いやだけどモーリツさんがどこまで本当のことを言っているかは……いやこんな嘘をつくメリットは……???

 駄目だ駄目だ駄目だ、何だか冷静に物事を考えられない。

 こんな状態で大事な仲間に指示を出したりするわけにはいかない……何より逃げ行った人達には悪いが今の話を聞いた後で、ましてこんな取り乱している状況で顔を合わせても余計に状況を悪くしかねない。

 

 とにかくここはモーリツさんと情報交換を終え次第、一旦拠点に戻って気持ちを落ち着けよう……

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