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モーリツさんに外周部の砂漠の過酷さとそこでの発見を一通り伝えていく。
サンドワームという圧倒的巨体で危険すぎる生き物を筆頭に飛びかかってくるカマキリや酸を飛ばしてくるムカデに昏睡毒を打ち込んでくるヘビやサソリといった肉食だらけが跋扈する土地であり、また日影が殆どないため熱気もヤバいこと。
そんなリスクの高さに対して俺達が見つけた物は幾つもの日記と一つの洞窟、それとワイバーンの谷ぐらいのものだ。
更に外側には出られないようバリアが張られているのも確認していることまで告げたところ、モーリツさんは疲れたようにため息をつきながら人の痕跡などは見当たらなかったか尋ねてきた。
それに対して外周部の砂漠を一周しても何も見つけられなかったことを告げると、珍しくモーリツさんは困ったようにそうかとだけ呟いた。
……やっぱり今回のモーリツさんには胡散臭い態度は見受けられず、その姿は外周部の砂漠へ向かった生存者が全滅したであろう事実にショックを受けているように思われた。
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これまでに顔を合わせた印象だと飄々としている感じだっただけに、この変化に少しばかり戸惑いを隠せない俺。
そんな俺にモーリツさんは一応確認したいと前置きした上で、もしも俺が外周部の砂漠に居た生存者を何かの間違いで見逃していたとして何とか生き残れそうな場所はあるのか聞いてくる。
……前の時は無防備に立ち去って行った生存者を気にかけている様子がなかったというのになぜに今回はここまで気にしているのだろうか?
本当に不思議で仕方がないが後で聞いてみるとして、取りあえずオアシスのような場所のことを告げて、あそこにたどり着けていれば果実も水もあるから、野生動物の襲撃さえ何とか乗り切れれば多少は生き永らえることはできそうだと告げておいた。
それを聞いたモーリツさんは物凄く悩ましそうに顔をしかめたかと思うと、何かを計りに掛けるかのようにチラチラと外周部の砂漠へ目を向けながら黙り込んでしまう。
流石にここまでくると気にするなという方が無理であり、俺は何があったのか思わず尋ねてしまっていた。
果たして俺の問いかけにモーリツさんは少しだけ沈黙していたが、ふっとため息をつきながら答えた。
……元の世界に帰りたいと切実に訴える生存者の中には幼い子供も混ざっていて、彼はその子が外周部の砂漠へ飛び出すのを止められなかったのだと。
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正直、二重の意味で俺はショックを受けていた。
前のモーリツさんとの会話のせいか俺は勝手に新たにやってくる生存者は成人男性ばかりをイメージしてしまっていた。
しかしマァやルゥちゃんという前例を思えば幼子がやってくる可能性だって十分あったではないか。
それなのにここのところの俺はこのARKを制するのを優先して、他の生存者に手を差し伸べる機会を作ろうとしなかった。
その結果として何の力もない子供をある意味で見殺す形になったことに今さらながらに気づき、ショックが大きかったのだ。
そしてもう一つ衝撃的に感じたのはモーリツさんが幼い子供に対しては情のようなものを抱いていることであった。
てっきりこの人は良くも悪くも冷徹な判断を下して活動するタイプだと思っていたからだ。
まして彼は話を聞く限りまだ人の命が軽かった時代の出身であり、それはつまり子供だって当たり前のように死ぬような環境でもあったはずだ。
なのに何の縁もない子供のことをここまで気にかけるだなんて余りにも意外に感じられた。
尤も気にかけていると言っても一通り説得して無理だと判断したらこれ以上時間をかけるのは無駄だと諦め、まして護衛として仲間の動物を分けたり少しだけでも一緒に付いていったりはしなかった辺り感情に流されることなくしっかりと損得勘定を下せているようだ。
……少なくとも俺なら仮にモーリツさんと同じ程度の装備であっても、見殺したりできず無謀だとわかっていても感情のままに一緒についていこうとして諸共に命を落としてしまっていたかもしれない。
そういう意味ではモーリツさんはやっぱりこの過酷な地にしっかり適応できている優秀な人間と言えるわけだが……その様子からは自分の判断を後悔しているようにも思われるのであった。
それでもモーリツさんは軽く深呼吸して調子を取り戻すと、過ぎたことは仕方がないとばかりにいつもの胡散臭い笑みを浮かべて話を切り替えようとした。
だけど俺は気が付いたらそんな彼に向かい反射的にこれから一緒に生存者が本当にいないのか改めて探しに行かないかと提案してしまっていた。
今回名前が出た動物
デスワーム(サンドワーム)
カマキリ
アースロプレウラ(ムカデ)
ティタノボア(ヘビ)
プルモノスコルピウス(サソリ)