五百三十一頁目
俺の唐突な提案にモーリツさんは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに何を馬鹿なことをとばかりに首をすくめてみせた。
忠告を無視して感情のままに飛び出していった愚か者を危険を冒してまで助けに行くことに何のメリットがあるのかと……
……確かに合理的に考えるのならばモーリツさんの意見は間違っているとは言えない。
更に言えば少し前に探索したばかりなのだからそれこそ無駄足になる確率の方が高いのも事実だ。
しかしこうして話を聞いてしまった以上、俺としては何もせず諦めるよりもできる限りのことはしておきたかった。
それこそその子供だけではなく、他の生存者に関しても助かる可能性が僅かにでも残っているのならば手を差し伸べてあげたい。
ただそう告げたところでモーリツさんの考えは変わるはずもなく、むしろ諦め混じりな表情でこちらを見つめながらも、その裕福な時代特有の甘い価値観から脱却できないようでは君達のトライブは何れ致命的な破滅がもたらされるだろうと断言してくる始末だった。
五百三十二頁目
てっきりモーリツさんの態度に胡散臭さが殆どなかった理由は外周部の砂漠へ向かった子供の安否が気にするあまり、自分を偽る余裕がないからかと思っていた。
確かにそれも理由の一つではありそうだが、本人が語るところによると前に会った時の俺の様子から人を騙したりして利用するタイプではないと見抜き、これなら下手に真意を隠して交渉するより真摯に対応した方が上手く行きそうだと判断したからだそうだ。
そして同時にそんなお人好しな人間がリーダーであり、そんな俺の価値観に従い当たり前のように損得を度外視して人助けを行おうとする集団……つまりトライブはこの過酷な地で絶対に栄華を築くことは出来ないと思っているようだ。
だからこそ今の時点では間違いなくこの砂漠で最も繫栄している集団だと認識していながらも、モーリツさんは何れ訪れるであろう破滅に巻き込まれるのを恐れて行動を共にしようとはしないのだという。
俺と本格的に手を組めば多大な恩恵が……それこそ物資から今の俺が引き連れている大型の肉食獣などの様々な恩恵が手に入ると理解していながらもなお、俺の甘さがそれら全てのアドバンテージを消し飛ばすほどの致命的な破滅に繋がると信じて疑わないようだ。
……敢えてなのか、そこまで自分から正直に語ったモーリツさんは改めて俺を見直すと一応と前置きしながら考え方を改めるつもりはないか尋ねてきた。
実のところ、先ほどの子供の件も含めて今回会って話そうとした理由は俺の思想に変化があるかどうか確かめておきたかったかというのが一番の理由だったそうだ。
前の時点でモーリツさんと話した俺が自分の価値観の正しさに悩ましさを覚えているようであったから、或いはあれから考えが変わって甘い部分が抜けていないか気になっていたたらしい。
それこそこうして子供の話を振ってみて、俺がモーリツさんと同じように子供を気に掛けつつも助けに行く必要はないと判断できるようになっていたのならば、トライブに合流してもいいかもしれないとも考えていたそうだ。
しかし俺の価値観が変わらないようならモーリツさんはやはり行動を共にする気にはなれないと言い、今後もお互いにタイミングが合った時だけ情報交換する程度の仲であり続けようと言ってくる。
……だけどモーリツさんは勘違いしている、そもそも俺は自分の時代の価値観が絶対だなんて今はもう思ってはいない。
俺のトライブの価値観、というより行動方針は信頼し合っている仲間同士で話し合ってお互いの意見を尊重して決めていくというものだ。
だからこそ俺はモーリツさんに一緒に探しに行かないかと声をかけた……俺と同じように人が犠牲になる状況に思うところを見せていたモーリツさんを信頼できそうな人間だと思えたからこそ意見を聞いたのだから。