ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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第685話

五百三十三頁目

 

 俺のトライブの行動方針を伝えても、その上で損得勘定抜きに人に手を差し伸べようとしている以上はモーリツさんにしてみればただのお人好しな集団にしか思えないようだ。

 そしてそういう人間は間違いなく悪い奴らに利用された挙句に何もかも失って後悔するのがオチなのだと、何故自分より多くの歴史を知っている未来人に分からないのかと呆れたように呟いた。

 ……尤もその態度にはこちらを見下したり馬鹿にしているような様子は見られず、どこか虚しそうというか寂しそうな感じであった。

 

 それはまるで俺達のやり方を否定したいわけではなく、否定せざるを得なくて無理に虚勢を張っているようにすら見えた。

 ……いや実際にモーリツさんは俺達のやり方が甘いと言い、いずれ痛い目を見るとまで断言しながらも……『愚かな』生き方だと侮蔑するような真似は一度もしていなかった気がする。

 ひょっとしてモーリツさんは長年の経験から自衛のために『賢い』生き方を選んでいるだけで、本心では違うやり方を望んでいるのではないか?

 

 俺の考えが正しいのかどうかは分からないが、仮にそうだとしてもモーリツさんは生き残るためにも『賢い』生き方を止める気はなさそうだ。

 そんな彼に対して俺は今まで自分が辿ってきた軌跡を思い返していた。

 一人で島で目覚めてから何度も失敗を繰り返して何度も死を覚悟していたあの頃。

 

 誰かに助けてほしくて、だけど誰も居すらしない事実に絶望して逆に死を望むほど追い詰められていた。

 そこへ現れてくれたフローラ……彼女との出会いも行動を共にするようになった経緯も『賢い』生き方とはかけ離れていた。

 むしろどうしようもなく愚かで一歩間違えれば命を失うところであった。

 

 ……だけど彼女と会えたから今の俺がある……彼女と関わるのが間違っていただなんて誰にも言わせる気はない。

 いや彼女だけじゃない、今まで仲間になってきた殆どの人達との出会いと仲良くなる経緯だってそうだ。

 どれもこれも毎回苦労していたが、結局はみんなが居てくれたからここまで来ることができた。

 

 もし逆に俺が生き残ることだけを優先して皆と違う関わり方をしていたら、間違いなく俺はこの砂漠に来ることなく命を落としていただろう。

 だからこそ俺は経験豊富なモーリツさんに幾ら甘いと言われようとこのやり方が間違っているとは思えなかった。

 むしろモーリツさんに俺達のやり方でどうしてこのARKを生き抜けないと断言できるのか逆に尋ね返してしまう。

 

 何せ彼自身が前に言っていたではないか……人の価値観やら正しさなどと言う概念はその時その場所で変わっていくと。

 そして一度人類史が隔絶したこの時代には適したルールがまだなく、乱立していく中から正しい物が決まるとも……。

 ……そうこのARKにおける、いやここから先の人類史におけるルールはまだ未定でありこれから決まるのだ。

 

 ならばこれまでにはありえなったルールが新たに正しい概念として成立させることだってできるのではないか?

 自分とその近しい人の利益のために他の人達と騙し合ったり利用し合うのではなく、見ず知らずの者同士でもお互いを思いやって一緒に繁栄できるよう協力し合う……そんな善意を元にした社会を築き上げられるのではないか?

 果たして俺のその言葉はモーリツさんにとって想像もしなかった内容だったらしく、目を見開いて暫くの間黙り込んでしまった。

 

 それでも少しして正気を取り戻した彼は弱々しい言葉で、そんな夢物語みたいな話が上手く行くはずがないと呟いた。

 確かに自分で言っておいてモーリツさんの言う通りだとも思える……だけど同時にキャシーとソフィアが言っていた言葉を思い出す。

 『疑うより信じたい』……それは人に対しての発言だったけれどその言葉に感銘を受けた俺としては、こんな夢物語も無理だとかできないとか思うより、出来るんだと信じたいのだ。

 

 ……なんて思っているとそれまで無線越し話を聞いていたソフィアがやっぱり無線を介して割り込んできた。

 夢物語と言えば本来出会えるはずのない時代の人間が多く顔を合わせ、やっぱり本来会えるはずのない幻想的な生き物が出歩くこの世界こそ夢みたいなものじゃないですかと……。

 唐突に聞こえてきた女性の言葉にまたしてもモーリツさんが驚きを露わにする中で更に彼女は、だからどうせなら皆でもっと大きな夢を見たっていいじゃないですかというのであった。

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