五百五十七頁目
明日はこの砂漠で初めての洞窟探索、しかもこのメンバーと一緒に潜るのも初めてだ。
お陰で緊張か不安か分からないが妙にドキドキして中々眠気が来てくれない。
まあ最悪は少量の麻酔薬なり黒い果実なりを睡眠導入剤代わりにすれば問題ないが、危険の多い洞窟で万が一にも命を落とすような事態になった時に備えてやはり俺達の情報は可能な限り記しておくべきだろう。
さてどこまで書いたか軽く読み返したが、そういえば少し前に回収した日記の内容について書いていなかった気がする。
あれもまた先に読んだソフィアがまとめて要点を掻い摘んで話してくれたが、今回もまた色々と衝撃的な事実があった。
まずヘレナ氏の日記だが、残念ながら今回の日記からは目新しい情報は見つからなかった。
具体的には既に俺達も知っているミッキーの同種が天候を予知できるということに加えて、かつてこの砂漠には幾つも集落がありその一つにヘレナ氏は合流することができたと書かれているぐらいだったのだ。
どちらも既に知っている情報だけにヘレナ氏の行動の軌跡以外に気になる点は……いや集落の人々と付き合う中でロックウェルとの友情を噛みしめているような記述があった。
もしもARKの謎を解き明かしここから脱出できた暁には二人でお茶を飲みたいと、最初それを読んだ時は俺も同じことを思ったが先にロックウェル氏の日記も読んでいたソフィアはどこか複雑そうな顔をしており……彼の日記の内容を聞いてすぐにその理由も理解できてしまった。
何せ彼は……いや先にライア氏の日記について述べることにしよう。
尤も彼女の日記からはサバイバルの役に立つ情報は殆どなく、ヘレナ氏と同じようにその行動の軌跡が分かったぐらいだ。
元々神に仕えていたらしいライア氏はオベリスクの輝きに太陽神の姿を見出したのか、仲間と共にそこを目指しそして過ごしやすい場所を見つけて集落をつくり始めたらしい。
実際に俺達もこうして水源も植物もあるオベリスクの傍で快適に過ごしているだけに共感してしまうところだが、更に彼女は元居た場所の信仰に背く形になり心を痛めながらも皆がこの場所で快適に暮らせるよう必死に働いていたようだ。
……元居た場所の主義主張や価値観に誇示することなくトライブを繫栄させようとする姿もまた少し前までモーリツさんの問いかけに悩んでいた身としては物凄く共感できるし、彼女もまた尊敬に値する先達者様なのだと実感することができた。
またその集落にはダケイヤ氏も合流したようだが、元々荒くれ者っぽい彼は余り馴染めていないのか、ライア氏は何とか彼にも信仰を教え導こうとしているようであった。
……ただ他に見つかっている日記を合わせて確認しているソフィア曰く、ライア氏は最初彼の名前をダケイヤ隊長と堅苦しく書いていたのに後になるとジョンと親し気に記すようになった辺りに感情の変化を感じ取っているようだ。
俺もまたフローラとの関りを思い出してもしかしたらと思ったが、次いでダケイヤ氏の日記の内容を教えてもらって確信に至った。
何せ彼の日記にもライア氏の記述が多くみられ、最初はその善性に呆れていたようであったのが話し合いや銃の扱いなどを教えているうちにどんどん親しくなっていっているようであった。
いやそれどころかライア氏から女神の話を聞かされてもライアこそが女神に思えるとまで記述されており恐らく……いや間違いなくこれはそういうことなんじゃないだろうか?
何だか今までの先達者様とは違う意味で二人の軌跡が気になってくるが、途中でワイバーンが襲撃してくるというキナ臭い記述を見つけてドキッとしてしまう。
一応その個体は頭に銃弾をぶち込むことで何とか退治したとのことだが、そこで前に見つけて会ったダケイヤ氏の日記の内容を思い出した。
それによればダケイヤ氏とライア氏のいた集落は崩壊して、何とか生き延びた二人もワイバーンの住処に迷い混みそしてダケイヤ氏はライア氏を活かすために囮に……その後がどうなったかは分からないが、どうか助かっていて欲しいと思う。
……少なくとも俺とフローラの様な末路にだけはなってほしくないと思わず祈ってしまいそうになるほどだ。
ただそんなショックも最後にロックウェル氏の日記の内容を聞いたら吹き飛んでしまった。
何せそこには悍ましい所業が……正気とは思えないロックウェル氏の悪行が記されていたからだ。
前々から見つかっている日記と合わせて、どうもロックウェル氏は本当に所属していた集落からアーティファクトを盗み出ていたようだ。
その上で別の荒くれ者が多い集落に所属して恐らく守護者と戦い未知の鉱石……恐らくエレメントを手に入れた。
…………そしてそのエレメントと守護者から手に入れたアーティファクトを独り占めするために、食べ物へ毒を盛って集落を壊滅させたらしい。
一応記述によると彼らが消えたことでこの砂漠の未来は明るくなったと書かれていることから余程暴力的な集団だったのだろうが、それにしても仮にも仲間だった人達を平然と毒殺できるロックウェル氏はもはや正気とは思えなかった。
……いや多分本当に正気ではないのだろう、何せ途中の記述にエレメントに温もりを感じていると書かれていたのだから。
まるでそれは俺がかつてエレメントに魅了された時の様であり……恐らくロックウェル氏もあの魔性の魔力に取り付かれて……そうに決まっている。
あのロックウェル氏が……俺を始め多くの人々の命を救う薬のレシピを残してくれたあの偉大な人が……ヘレナ氏だって尊敬していた彼がこんな真似を自分の意思で行っているとは思えないのだから。
……けれどだからこそ、まるでロックウェル氏の暴挙の数々が心に響く。
一歩間違えれば俺も同じことになっていたのだから……それでも俺は仲間に助けてもらえたというのに、これほど恩を感じているロックウェル氏に俺は何もしてあげられないのだから……。
……ああ、やっぱりロックウェル氏のことを考えると頭と心の中が掻き回されるようにグルグルしてくる……これもまた眠りに付けない原因だろう。
やはりもう麻酔薬を飲んで眠りについた方が良いのかもしれないな……
今回名前が出た動物
トビネズミ(ミッキーの同種)
これまでに見つけた日記
ヘレナの記録(#4/#10/#11/#13/#15/#20/#21/#22/#26/#28)
ダケイヤの記録(#1/#2/#3/#9/#10/#11/#14/#22/23/#29/#30)
ライアの石板(#1/#4/#10/#14/#16/#21/#22/#23/#25)
ロックウェルの記録(#1/#2/#3/#8/#10/#13/#21/#22/#23/#24)