六百三十四頁目
確かに冷静に状況を観察できなかった点は甘かったと言われても仕方がないと思い反省する俺であったが、どうやらモーリツさんが言いたいことはそうではないらしい。
要するに危害を与えてくる存在を無意識のうちに動物だと決めつけて行動しようとした点こそが甘いと……それこそ壁が人工的に加工されているのだから人の関与を疑うべきだったというのだ。
更にモーリツさんは人目の付き辛い危険な洞窟攻略に自分という他のトライブの人間を同行させているところも含めて人という存在を信じすぎていると戒めるような口調で呟いた。
ここまで言われてようやくモーリツさんは俺の立ち回りに忠告してくれているのだと気が付いた。
しかし俺は……いや俺達のトライブは人を疑うより信じることにしたのだ。
だから危険なのは承知だがそれでも俺達は人を信じたい、と口にした俺にモーリツさんは呆れたような表情を浮かべたかと思うと懐から何かを取り出して見せてくるのだった。
六百三十五頁目
モーリツさんが取り出したモノ……それは何と手錠という物騒な代物であった。
何でこんなタイミングでこんなものを取り出したのか、いやそもそも何でこんなものを持っているのか……疑問を口にするが物がモノなだけに何やら不穏な物を感じてしまう。
そんな俺にモーリツさんは当たり前のようにインプラントを見て思いついたから作ったのだと言い、他にも人間用の檻の作り方も思い付けることを述べてきた。
作れるから作ったと言われて余計に困惑してしまうが、そんな俺に諭すような口調でモーリツさんは逆に問いかけてきた。
インプラントで作り方が思いつける物と思いつけない物の差はわかるかと?
……作り方が思いつかない物と聞いて反射的に思い浮かんだのは様々な効能のある料理や薬、次いで石鹸や染料などであった。
俺にもそれらの作り方がインプラントを見て思い付けないのはわからない。
ただ共通点を考えてみると大抵は調理なべで作るものなので、或いは茹でるというか調理という過程が必要なものは思い付けないのだろうか?
しかしそんな俺の答えにモーリツさんはそうではないと首を横に振ると、ここで言う思い付けない物とはもっと幅広いことを指しているという。
例えば家具は色んな種類が作れるというのに遊具は基本的なボードゲームの類ですら作り方が思いつかない。
或いは水を貯める貯水槽の作り方は思いつくのに温かいお湯に漬かるための湯船の作り方は思い付けることはない。
似たような物が作れている以上、必要素材が足りないなんてこともないだろうに一体どうしてなのか?
……きっと敢えてだろうがモーリツさんが遊具という例を挙げてくれたお陰で何となくその答えが分かる気がした。
多分インプラントで思い付ける物はこのARKという場所の設計者にとって都合の良い物であり、思い付けない物は都合の悪いもの或いはどうでもいい物なのだろう。
ハンスさんが前に教えてくれたがARKの目的は地球再生のために人間のサバイバル能力を成長させること……ならば遊具やら湯船といった生きる力に直接関わらない物は別に思い付けなくても問題ないと判断されてデータが収められなかったのではないか?
モーリツさんもまた同じ考えに至っていたようで俺の答えを聞いて同感だと頷いたかと思うと、その上で手錠と人間用の檻の作り方が思い付けるのはどういう意味だと思うかと再び訪ねてくるのだった。