六百三十六頁目
モーリツさんの問いかけに衝撃を受けた俺は何も言うことができないでいた。
だってもしも先ほどの答えが正しいのならばそれらが思い付けるということはつまり……思わず絶句する俺に代わるようにモーリツさんが口を動かし始める。
曰く、こういう物を使う生き方も許容されているということか或いは逆に選択肢がありながらもなお使わない精神性が育つのを期待しているのか……それは分からないがどちらにしても作れる以上は良からぬことに利用しようとする輩は必ず出てくる。
そういう者が君のトライブに関わってこないとも言い切れないのだから簡単に他所の人間に気を許してはいけないだと……理想的なユートピア染みた社会作りを試みようとするほど愚かな、だがそれゆえに心清らかな君の仲間達を不幸にしないためにもせめてリーダーである君だけは人を疑ってかかるべきではないか。
諭すように語り続けるモーリツさんの態度からは普段の胡散臭さはまるで感じられず、本当に老婆心から忠告してくれているようであった。
……人を信じたいという仲間達の想いは間違っていないという思いもこのARKで俺達はそういう方針を貫きたいという考えも変わらないが、モーリツさんの危惧も物凄く納得がいくものであった。
だからこそどうしていくのか……それもまたモーリツさんの言う通りリーダーである俺が考えて対処すべき問題なのだろう。
……モーリツさんは会うたびに俺の頭を悩ませてくれるが、今回のはむしろリーダーとしての立場も含めて色々と考え直す良い切欠になった気がする。
ただ同時にふと思ったのは別にいつでも指摘できたはずなのに、どうしてこんなタイミングで話を振ってきたかであった。
人骨の件で俺の甘さを再認識したからと思えば辻褄はあうが、それならばモーリツさんの洞窟への同行を受け入れた時点で甘い判断だと指摘できたはずだ。
しかしそれだと傍にいたソフィア達にも手錠や檻の存在を始めとした衝撃的な事が伝わり彼女達に心苦しい思いをさせることになったかもしれない。
……もしかしてモーリツさんはそれを気にしてわざわざ二人きりになれる状況を待ってこの話題を口にしてくれたのだろうか?
考えてみればこの隙間の道を二人で進むことになったのもモーリツさんの提案があってこそじゃないか。
実際に思い切って聞いてみるとモーリツさんは露骨に顔を背けたかと思うと、また胡散臭い態度でもって捲し立ててくる。
余りに甘すぎて仮に仲間が一人でも人質に取られたら見捨てられずあっさりと下らない輩に屈してしまいそうで見ていられなかったとか、せっかく見つけた最高にトライブが繁栄している理想的な取引相手なのにそう簡単に潰れてもらっては困るとか……だけど否定しないところを見ると図星のようだ。
……危険を可能な限り避けたいはずなのにこうして付き合ってくれているところを見ると、何だかんだでモーリツさんも十分甘い対応をしてくれているような気がするなぁ。