七百四頁目
動物の傷も癒えたところで俺達は再び先へと進み始める。
同時にハンスさんにはアルケンで空を飛んでもらい周辺に他の生存者がいないかの確認をしてもらう。
しかしどこへ逃げたのか結局他の同行者は見つからないまま俺達はバリアの張られている場所までたどり着いてしまった。
彼らの戦力ではサンドワームを抜きにしてもなお危険な動物の多いこの外周部の砂漠で生き残るのは厳しいだろうが、それでも一人か二人ぐらいは何とか出会えるのではと思っていただけに結構ショックだった。
尤もシャルル少年はそれよりもバリアの方に意識が向いているようであり、いつぞやの俺やオウ・ホウさんの様にここから何とか抜け出せないものかと色々と試し始めた。
動物を嗾けたり鞭で叩いたり石をぶつけてみたり、更には何事か唱えつつ十字を切りながら動物から降りると自らの身体でバリアにぶつかりに行ったり、最終的にはモスラの同種に乗ってどこかに隙間がないか確認するかのようにウロウロとバリアに沿って上下し始めた。
やはりどうしても帰りたいようだが、これで無理だと知ったらどうなるのか……道中で考えた危惧が現実になりそうで少しだけソワソワしながら見守り続ける。
最悪の場合は麻酔で無理やり眠らせた上でモーリツさんの元へ届けようと内心覚悟を決めていたぐらいだが、しばらくして戻ってきたシャルル少年は意外にも気落ちしているようには見えなかった。
むしろ今までと同じように澄んだ目で俺達を見つめながらここまで連れて来て貰ったことに対するお礼を言うと、改めてモーリツ氏の元へ戻るまでの護衛を丁寧な口調で頼んでくる。
もちろん断る理由もなく頷きながらも色々と気になり、ここから出られないことがショックではなかったか聞いてみるとシャルル少年は平然とこれもまた神が私に与えたもうた試練なのでしょうと曇りなき眼で応えて見せる。
前に事情を聴いたときから薄々感じてはいたが、どうもシャルル少年はこの地での出来事全てを神様が与えた試練だと思っているようだ。
恐らくはバリアのことも神様がシャルル少年に仲間の役に立つことをもっと多く学ぶまで帰るべきではないと示すために存在しているとでも考えているのだろう。
……シャルル少年は俺の勝手なイメージとは違って物凄く前向き思考なようで、取りあえず俺の心配は杞憂だったようだ。
しかしそうわかってもなお俺は一抹の不安が心に残ったまま離れてくれなかった。
多分その理由は彼の精神を支えているのが神様という宗教的な観念であるという点であり……かつてこの砂漠に居た似たような先達者様であるライア氏とそのトライブが辿ったであろう悲劇的な末路をどうしても重ねて見てしまいそうになるからだ。
……シャルル少年に対する不安をこうして言葉にしてみると同じく人格に宗教的な影響を受けているルゥちゃんに対しても漠然とした不安が湧き上がってくる気がした。
尤もルゥちゃんに対してはほぼ常にオウ・ホウさんという大人が傍に居て導いているから変な事に陥る心配はない、はずなのだが……
今回名前が出た動物
アルゲンダヴィス(アルケン)
デスワーム(サンドワーム)
リマントリア(モスラ)