八百十九頁目
俺の言葉を聞いた後でもハンスさんは色々と呻いていたが、結局は諦めたように頷いてくれた。
ただもしも気が変わったらいつでも言ってほしいと……ハンスさんにとって女性陣との関係と同じぐらい俺への友情も大きいのだからと言ってくれた。
俺もまた同じ気持ちだからこそこっちはハンスさんに自分の幸せを追求してほしいのだ。
……真剣な様子でそんなことを語り合っているうちにお互いに何だか気恥ずかしくなってきて、最終的にはどちらからともなく相手の視線から外れるようにベッドへと潜りそのまま就寝する形で話し合いは終わりを告げた。
尤もこの話し合いで俺はハンスさんの仲を改めて確認することができてとても嬉しく……また少しだけ彼らとの別れが寂しく思えてしまった。
前の島を去る時はある意味で事前に覚悟も何もできないままいきなり飛ばされて本当に辛い思いをしたが、こうして別れる余裕があっても違う意味での辛さが湧いてくるから不思議なものだ。
果たしてハンスさんと昔話をしたせいか目を閉じてからも次から次へとこの砂漠に来てからの思い出が頭をよぎってなかなか寝付くことができなかった。
八百二十頁目
何とか睡眠をとることに成功した俺は約束通り徹夜してワイバーンの卵を見守っていた組と交代するべく彼女らの元へ赴いた。
孵化部屋の中は卵のあるところを中心に無数のエアコンから発せられる熱風で地獄のような温度になっており、キャシー達は比較的マシな部屋の隅の方に避難する形でサボテンスープを啜り続けていた。
そんな過酷な環境で徹夜していたせいか目の下にははっきりと隈が出来ていて疲弊しているのが見て取れるほどだった、
実際に三人とも俺が見守りの交代を口にすると有難そうに頷いて部屋の外へと出て行った。
尤もワイバーンの卵が孵化するところも観察したいソフィアと自分で育てたいから親だと刷り込ませたいキャシーは一息ついたら戻るつもりでいるようだ。
それに対してシャルル少年は育てるところは興味あるけれど体力的に厳しいからと今回は休むことを優先するつもりのようだ。
……口ではそう言っているがあれほど強い生き物に興味を示していたシャルル少年だけに本当はキャシーと同じような心境のはずだ。
それなのに卵の孵化した場面に立ち会うのを諦めて飼育権をキャシー達に譲る様な言いかたをしているのは、恐らくこのワイバーンが俺達のトライブ皆で所有する生き物だからある意味で遠慮しているかもしれない。
或いは最終的には故郷に帰るつもりでいるシャルル少年としては自分専用に出来ないこのワイバーンは連れて帰れないと思って、何れ自力で卵を取って育てるところまでやるつもりでいるのかもしれない。
……もしそうだとしてもシャルル少年が故郷へ帰ろうとするときはまだまだ先の話だろうし、多分俺はその場に居合わせることができないだろうな。
そしてARKの真実からしてシャルル少年が元の場所へ帰ることはできないわけで、その辺の現実を教えるという下手しなくても嫌な役割を俺は誰かに押し付けることになるだろう。
そう考えるとハンスさん達は一人で行こうとする俺を気にかけてくれているが俺の方はむしろ残った皆に中途半端なリーダーで済まない、と申し訳ない気持ちが湧いてくるのだった。
しかし休憩に行こうとする三人からふと思い出したように、あんな夜中に何をしていたんですかと聞かれた時は驚いてしまった。
同時に寝る前に語り合っていた内容を思い出してまた気恥ずかしくなってしまいついつい適当に誤魔化してしまったが……一体どうしてバレたのだろうか?
部屋の中で話し合っていたから距離のある孵化部屋の中に居た三人に声が聞こえるとは思えないのだが……?
今回名前が出た動物
ファイアワイバーン
ライトニングワイバーン
ポイズンワイバーン