八百二十六頁目
突然のモーリツさんの指摘に俺は困惑……ではなくドキッと胸を突かれたような痛みを覚えた。
だってそれはキャシーやソフィアに加えてハンスさんからも俺を引き留めるような提案をされる中で薄々感じていたがあえて気づかないふりをしていたことだったから。
だけどモーリツさんは淡々と事実を突きつけてくる。
仮にもリーダーとして一つのトライブを結成しておきながら、他のメンバーを残して一人で旅立とうとするのが果たして正しい行いなのかと。
まだこのARKにおける情勢は安定しているとは言い難く、実際に幾つかのトライブが今現在も乱立しようとしている。
それらのトライブは俺のトライブに比べれば未だに原始的で力の差があれども諍いの火種となるには十分すぎるわけで、先日も彼らが原因で起こった超巨大な草食の暴走で俺達に被害が出てもおかしくはなかったぐらいだ。
こんな不安定な状況で一番頼りになるリーダーが抜けたトライブ、というか集団は大抵酷いことになるものだとモーリツさんはどこか実感の籠った声で呟く。
そして、確かにARKというこの環境を安定させるために一刻も早くオベリスクとやらを攻略しなければならないと逸る気持ちは分からなくもないがまずはすぐ傍に居る大事な仲間の安全を優先すべきではないかと……それこそがトライブという集団のリーダーである俺の務めでないかというのだ。
或いは自分の知らない急ぐべき事情があるのかもしれないが、そうだとしても最低限俺が居なくなった後でもトライブを正常に運営していけるよう次のリーダーを育ててからにするべきではないかとも言ってくる。
まさかモーリツさんがこんな風に諭すように語り掛けてくるだなんて余りに予想外過ぎるのもあって俺は何も言い返せなくなってしまう。
……いや違う、実のところ図星を刺されたような衝撃もあって余計に言い返せないのだ。
本当はわかっていた、ハンスさんやキャシー達そしてモーリツさんの言う通りあまり急がず時間をかけてこのARKの攻略を続けた方が良いのだと。
確かに急がなければARKのバグは酷くなる一方かもしれないが、だからと言って焦って行動して自分の命を失ってしまったらそれこそお仕舞なのだ。
一人でオベリスクの守護者に挑んだ挙句に準備不足などでミスを犯せばそのまま死に直結するわけで、そうなればフローラを生き返らせることもできなくなってしまう。
だから本当は皆と協力してこのARKの治安を安定させつつトライブも盤石な状態に持っていき、その上で一緒に来てくれる人たちと万全な装備を整えた上で挑むべきではないかと頭の片隅で何度も考えていた。
……だけどもしもそのための時間が致命的になったらと思うと……もしもバグの修正が手遅れになってしまい、それの影響でフローラを蘇らせられない事態になるかもしれないと思ったら居ても立ってもいられないのだ。
何より俺は少しでも早くフローラに会いたい気持ちを抑えられない……だからこそ終わりがもう見えているこのARKで停滞などしていられないのだ。
……モーリツさんの言葉をきっかけに改めてそんな自分勝手な気持ちと向き合うことになり、皆に対して抱いていた申し訳なさの本当の理由が分かった気がした。
同時に物凄い自己嫌悪に襲われそうになるが、右手首に走る痛みが俺を正気に引き戻す。
見ればいつものように浮かび上がったフローラのホログラムが心配そうにこちらを見つめているではないか。
言葉は伝わらないが多分自分のために俺が無茶しないか気になっているフローラの想いが伝わってくる気がした。
……トライブの仲間の事は本当に大事な存在だと思っているし、可能ならば皆の安全の確保や彼らのやりたい事にも協力したい。
モーリツさんの言う通りこのARKの治安だって気になっているしルゥちゃんやシャルル少年のような巻き込まれた子供達の先行きも心残りだ。
それでもやっぱり俺はフローラのためなら……ううん、フローラを言い訳に漬かっちゃだめだ、俺は俺の意思で……自分勝手すぎるかもしれないけれども、準備が出来次第このARKの攻略を終わらせようという決意を翻そうとは思わなかった。
……何より一緒に行動していないモーリツさんには分からないかもしれないが俺はトライブの皆を信じているからこそ……俺が居なくなっても大丈夫だって思えるからこそ後のことを任せて旅立つ覚悟を決めれた節もあるのだ。
そうさ、俺はみんなを置いていくんじゃない……むしろこれまでもずっとトライブ内で効率のために各々別れながら分業していたように、これもまた皆にこのARKを任せて俺はオベリスクの守護者と次のARKの攻略と言う作業を協力して進めていくだけの話なのだ。
今回名前が出た動物
ティタノサウルス(超巨大な草食)