八百三十五頁目
キャシーの提案もありがたい限りであったが、やはり俺はハンスさんの時と同じく断ることにした。
ハンスさんにも告げたように俺がフローラへの想いで動いているように、キャシーにも自分にとって一番大事なことを優先してほしいのだ。
しかしキャシーの方は自分の個人的な趣向である動物集めよりも仲間の命の方がずっと大事だと食い下がってくる。
……あれだけ熱心に珍しい動物を見つけては捕獲を主張していたキャシーがここまで言ってくれている、その気持ちも多分嘘ではないと思う。
だけどキャシーは仲間の命と言っており、それは俺だけをさす言葉ではないはずだ。
現にハンスさんやソフィア達と離れ離れになっても大丈夫なのかと尋ねると、少し驚いたような顔をしたかと思うと少しだけ時間を置いてから、自分が居なくなっても他に頼れる仲間がいるから大丈夫だろうと小さい声で呟いた。
けれど俺はそのわずかな間の沈黙と声の小ささこそが明確な答えの様に思われた。
何せそれまでは俺の言葉に力強く即答し続けていたのだから。
……まあキャシーの想いがハンスさんのように恋愛感情から来るものかどうかは流石に分からないけれど、誰よりも最初に出会い一緒に行動していたソフィアを残して行くのに未練を感じないわけがないよな。
俺もまた仮にフローラと恋人関係になっていなかったとしても、ARKで目覚めて以来ずっと一人でいたところで初めて顔を合わせて会話を交わして孤独感から救ってくれた存在に対してきっと特別な思い入れを感じたに違いないのだから。
……ってなんか急に右手首の鉱石がチカチカ光り始めた……視線を向ければ少し不満そうなむくれ顔……絶対に俺達は恋人同士になってたって言いたいみたいだな。
まあ俺も同意見だし、これ以上考えて痛みまで発生されても困るからもうこの可能性を考えるのは止めておこう。
八百三十六頁目
改めてキャシーに、俺は一人で大丈夫だからリーダーが居なくなった後で色々と問題が出るかもしれないこのトライブを支える方に尽力してほしいと告げる。
その際に敢えて俺はモーリツさんにも協力を仰いでいるけれどいい返事を貰えなかった旨を告げるとキャシーははっとした様子でモーリツさんが居るエリアの方へ視線を投げかけた。
……元々キャシーはモーリツさんを警戒していたわけで、俺が居なくなった後に彼が何かするかもと思ったら余計にここへ残るトライブの皆が心配になることだろう。
ちょっとモーリツさんの名前を利用するような形を取って悪い気もするが、実際に効果はてきめんだったようだ。
物凄く悩ましそうに表情を歪めたかと思うと少しして申し訳なさそうに俺を見ながら、コクンと小さく首を縦に振って見せた。
そして俺の意思を継いで……まあ代わりになれるとは思わないけれど、このトライブが変な輩に付け込まれないよう出来る限りのことをしますと言ってくれた。
それはある意味で俺よりもここに残る仲間を優先すると言っているのと同義であるからこそキャシーは心底申し訳なさそうな顔をして俯いてしまっているのだろう。
だけど俺の方こそフローラを優先して動いているわけで気にしなくて構わないのだが、やっぱり一人で送り出すことに思うことがあるようだ。
そんな彼女の罪悪感を少しでも減らそうともう一度、俺が居なくなった後もハンスさんやソフィア達と協力してこのトライブを支えて欲しいとあえて頼むように言うのだった。