八百四十頁目
内心の動揺を隠して表面上は平静を装おうとするが、キャシーにはバレバレだったようだ。
寂しそうな微笑みを浮かべたまま、やっぱりソフィアと同じでこれまでの私の言葉を何一つ疑いもしなかったんですねと小さく呟いた。
反射的に疑うも何も……と言いかけた俺を制するようにキャシーは、ゴールドラッシュと呼ばれる出来事が起きていた私を取り巻く環境がどんなものか未来から来た貴方やハンスさんなら多少は想像できたはずなのに、と言葉を続けた。
余り過去の歴史に詳しくない俺としてはそう言われても困るのだが、とにかく思いつく限りでゴールドラッシュ時代の事をイメージしてみる。
もちろん最初に思い浮かぶのは西部劇な世界であり、次いで金に群がる一獲千金を狙う荒くれ者が寄り付く街を…………そんな場所で暮らしている女性と言うのは果たしてどんな扱いを受けていたのだろうか?
セクハラと言う言葉も存在しない女性軽視も甚だしい時代においてキャシーのようにスタイルも含めて見目麗しい女性はよほど高貴な身分でもない限り、少なくとも男連中からヘンな目で見られるのは避けられなかったのではないか?
そして今まで聞いてきた話だとキャシーは牧場だか農場に関わりの強い一般市民的な存在だったと言っていたはずだ。
これ自体は実際に動物や植物の世話に慣れていた様子からおおよそ間違ってはいないと思うが、正直あまり地位のある立場には思えなかった。
だとすれば……とそこまで考えたところで全ては過去の歴史に詳しくない俺の勝手なイメージに過ぎないと慌てて思考を断ち切ろうとする。
しかしキャシーの方はまるで俺の考えを肯定するかのように……病気になった母の治療で生活が苦しくなった家計を支えるために酒場のような場所で働いたこともあり、その際に色々と男と言う存在に幻滅するようなことを経験したというのだ。
具体的な内容は語らなかったが想像するのは容易い……尤も娼婦的な単語を使わなかったところを見ると最悪の事態だけは免れていた、と思いたい。
とにかくその時の経験から自分の身体は男の人と交渉する武器になるのを理解していたキャシーは、だからこそ裸で砂漠をうろついていたのだと言う。
この何もかもが渇いていく過酷な大地で誰かから保護してもらうにしても援助してもらうにしても、また情報を貰うのだって恐らくは対価を求められる。
だけど目覚めたばかりだと衣服を含めて何一つ持っていないのだから、キャシーが極端な考えに走っても仕方のない話だ。
尤もキャシー自身はそんな発想をした自分を恥じているようであり、こんなこと本当は誰にも気づかれたくなくて必死に隠していたようだ。
ただ同時に今となっては大事な仲間になったトライブの皆に対して最初の頃にそんな気持ちで接していたことに罪悪感もあり、ずっと懺悔したい思いを抱えていたという。
もちろんそんなことを告白されても皆は困惑するだけだとわかってもいたからずっと黙っているつもりだったのだが、そんな折に俺がもう居なくなるから相談に乗る的な事を言ってきて……悪いとは思うけれど甘えさせてもらうことにしたとのことだ。
……ようやくキャシーがここまで語ってくれた理由はわかったが俺にはちょっと重すぎるというか……な、何か気の利いた返しが出来ればいいのだけれど……何を言ってあげればいいんだろうか?