ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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第855話

八百四十二頁目

 

 俺の言葉にキャシーは目に見えて取り乱し始めた。

 目を見開いたかと思うと露骨に視線をさ迷わせ、その顔は赤く火照り始めていた。

 そして少しの間喘ぐように口をパクパクさせていたが、不意にはっと何かに気づいたように苦笑いすると、確かに皆大事な仲間ですけど最初に会ったソフィアを一番大事な友人だと思っているかもしれませんと答えた。

 

 それが自分の感情をごまかそうとしているのか俺の問いかけの意味を違う風に捕えたから出た言葉なのかは分からない。

 ただ本当にソフィアの事を友人だとしか思っていないのならば、あんな風に露骨な反応をするだろうか?

 尤も純粋に同性での恋愛など欠片も意識したことが無いからこそ、俺の発言が余りにも突拍子のないものに思われて困惑してしまった可能性も無くはない。

 

 ……だからこそもし昨夜にハンスさんと語り合っていなければ俺はこれ以上突っ込もうとは思わなかっただろう。

 だけど女性陣の話を振られたハンスさんが今のキャシーと同じ反応をしていたのを覚えている俺は黙っているわけにはいかなかった。

 だってもしもキャシーが自分の気持ちを自覚していないとしたら、先ほどの会話からしても何かの弾みでハンスさんと……本当の想い人ではない人と付き合うかもしれないのだ。

 

 それは余りにも不誠実すぎる……とまではいわないがキャシーにとって、そして恐らく俺の気持ちをあれだけ組んでくれていた真面目で優しいハンスさんにも良い結果に繋がるとは思えなかった。

 また逆に自覚しているけれど隠しているとしたら……もう居なくなるからと悩みを告白している俺を相手にすら黙っていようとしているのだとしたら、ここで俺が何もしなかったらキャシーはもう二度と自分の想いを表に出そうとはしなくなるかもしれない。

 もちろん本人が自分で考えてこうした方が良いと判断したのならば俺のやることは余計なお世話にしかならないのかもしれない。

 

 だけど先ほど懺悔するように語った本心と言い、今の問いかけに対して取り乱したところと言い……別の要因で自分の想いを諦めようとしているのならば、それは間違っていると伝えなければいけない。

 ……だって誰かを好きになるのにも、そんな想いを伝えるのにも理由や資格なんか必要ないんだから……そうだろフローラ?

 右手首の鉱石は俺の意見に肯定するようにチカチカと瞬き、それに勇気づけられて俺は改めてキャシーに向かって、今度は間違って受け取られたりごまかされたりしないようはっきりと、ソフィアを生涯の伴侶になってほしいと想っているのではないかと問いかける。

 

 お陰でちゃんと俺の意図は伝わったようでキャシーは再び動揺したようにビクリと身体を震わせた、かと思うとすぐに変な事を言わないでほしいと軽く怒り顔で返してくる。

 少しだけやっぱり全部俺の早とちりだったのではと思いかけるが、キャシーが落ち着きなく視線をさ迷わせたりアルケンの身体を撫でたりしているのを見てただの勘違いではなさそうだとほっと胸を撫で下ろす。

 そうして再三になるけれどどうせ俺はこの後居なくなるのだから外に出せないような胸の内の相談に乗れると告げるが、やっぱりキャシーはぶんぶんと首を横に振りながら怒りを露わに、ソフィアも私も同じ女なのに何でそういう話になるんですかと叫んだ。

 

 だけどやっぱりその叫び声はまるで自分の気持ちを吹っ切ろうとしているかのような、それでいて諦めきれない寂しさのようなものを感じさせてくる。

 ……まあ同性であることを気にするのは分からなくもない。

 色々と問題もあることだし何より相手の気持ちも考えると下手に表に出して逆に嫌われたらと不安になるのも仕方がないのかもしれない。

 

 しかしだからと言って絶対にありえないことだと言わんばかりの主張には思うところが……とそこで俺は改めてキャシー達の来た時代と自分達の居た時代にズレがあることを思い出した。

 一緒にトライブを組んでからも俺やハンスさんが来るまで食事を取らないようにするほどの男尊女卑思想が沁みつく時代、人権という言葉すらあるか分からないそんな時代において同性愛はどう扱われていただろうか?

 間違いなく良い事とは取られていないだろうし、当時の感性を引きずっているキャシーにしたら余計にそんな思いを抱く自分が許せないのかもしれない。

 

 そんなキャシーの助けになればと思い、少なくとも俺の時代だと同性間での恋愛感情は受け入れられつつあると……実際にそういうカップルが結婚しているところもあると教えることにした。

 果たして俺の言葉にキャシーは、えっ……と呆気にとられたように呟いてそのまま固まってしまう。

 やはりキャシーの中では同性愛は絶対に許されないことだという固定概念があったようだ。

 

 しかもよほど強い思い込みのようであり、俺の言葉を受けても少しして動き出したキャシーは、それでも同性同士だと子供だってできないし他にも色々と問題があるわけで……とぶつぶつ呟き始める。

 もちろんその問題については俺の時代でも完全に解消されているわけではない。

 ……ただそれはあくまでも俺の時代においては、であって将来永劫解決できない問題ではないはずなのだ。

 

 実際にこのARKを作り出せる文明に至った人類はあらゆる動物を、それこそ人間だって番からでなくても作り出せる技術に達しているではないか。

 ならばこれから先エレメントで未来設備を整えた状態で未来人であるハンスさんの協力があれば、子供を作ることを始めとした同性同士で発生する問題はほとんど解決可能なんじゃないか。

 そう告げると今度こそキャシーは黙り込んでしまい、かと思えば何か必死に考えているように視線をさ迷わせて、どこか不安そうにアルケンの身体に抱き着いたりし始めた。

 

 ……しかしそんなタイミングで無線からソフィアの声が聞こえて来た物だからキャシーだけでなく俺までビクっとしてしまう。

 慌てて返事をする俺達にソフィアは慌てた様子で何かトラブルでも起きているのか尋ねて来て、そうでないのならワイバーンの卵が今まさに孵化しそうになっているから早く戻ってきてと叫んでくる。

 そんなソフィアにキャシーはものすごぉくたどたどしい口調で返事をしようとしており、その顔は赤く火照ってきている。

 

 多分今まで話していた内容もあって変に意識してしまっているのだろうが、そんな不審なキャシーの声をソフィアはワイバーンの孵化に立ち会えなくて慌てていると捉えているのか特に気にした様子もなく早く帰ってきてねと言うばかりだ。

 確かに予想以上に時間を使ってしまったような気がして、俺もキャシーも逆らうことなくアルケンに乗りソフィアの待つ拠点を目指すのだった。




今回名前が出た動物

アルゲンダヴィス
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