八百四十三頁目
何だか話し合いが中途半端に終わってしまった気がして、これで良かったのか余計な事をしただけなんじゃないかと少し不安になる。
しかし拠点までの残り少ない時間で何を言えばいいのか分からず沈黙を保つしかない俺であったが途中でキャシーの方から、先にお礼を言っておきますねと語り掛けてきた。
正直物凄く動揺しているし話の最中はちょっと怒りを覚えたところもあったけれど、俺があそこまで突っ込んで話をしてくれたおかげで自分の本心と向き合うことが出来そうだというのだ。
尤もこの後で自分がどうするかはまだ決めかねているようだが、それでもあのまま自分の気持ちに蓋をした状態で結論を出すよりはずっとマシな答えにたどり着けそうだと、微笑みを浮かべながら答えてくれた。
その表情は普段見ていたのとはちょっと違うけれど、何というか今まで以上に自然な笑顔に思えた。
……あんな想像だにしていなかった闇が飛び出してきた時はどうしようかと思ったけれど、結果的には何とかキャシーの力になれたようで心底ほっとする。
ただキャシーの言い方的に自分の想いに向き合いつつも、それを表に出すか秘め続けるかはまた別の問題のようだ。
しかしそこについてはもう個人の生き方に関する話であるため俺はもう突っ込んで聞く気はない。
極端な話、好きな人に告白するかどうかも含めて自分がどう生きるかは自分の意思で決めるべきなのだから。
特にキャシーの場合は……自分であんなことを言っておいてなんだが本当にソフィアを想っているとしたら、向こうは同性であるキャシーの事を恋愛相手として意識していない可能性の方が高いのだ。
ならば下手に気持ちを伝えて関係が崩れるリスクを背負うより、今の距離感を維持することを優先したとしても間違いだとは誰も言えないはずだ。
……実際に俺なんかは同性のフローラ相手ですら嫌われるのが怖くて気持ちを表に出すこともできないでいたぐらいだし、そう考えると今更ながらに本当は偉そうに言える立場ではなかった気もしてくるぐらいだ。
とにかくそう言うこともあって俺はキャシーにもうこれ以上何か言う必要はないと判断して、ただ拠点に付くまでもう少し時間があったので空気を換える意味も兼ねてどうでもいい話題でも振ろうと思い、そこでもう一人俺達と長らく関わりのあるモーリツさんの事をどう思っているのかも尋ねてみることにした。
すると途端にキャシーは複雑そうな顔で、あの人は俺やハンスさんとは違いそれこそ自分の時代に居た人物と似たような雰囲気をしているので警戒し続けているのだという。
尤もいわゆる下種染みた欲望を向けてくる輩に似ているのではなく、ゴールドをとっかかりにして大きな事を成し遂げようとする野心や欲望を胸の内に秘めている人に似ているのだという。
そしてその中でも感情を完全に胸の内に秘めて表面上は友好的に人と接しながらも冷酷に自分のために他者を利用しつくす非常に質の悪い存在がいたそうで、もしモーリツさんがそうならば純粋無垢で騙されやすい俺達など良い的でしかないため、いざという時は自分こそが汚れ役を買ってでも皆を守らないとと気を張っていたようだ。
……なるほどな、モーリツさんにだけどうしてああも警戒していたのかちょっと不思議だったけれど、色々なタイプの荒くれ者を見てきたキャシーだからこその反応だったのか。