八百四十四頁目
拠点に戻るなりキャシーはすぐに孵化部屋へと向かう……かと思いきや何か先にやっておいた方が良いことなどはありますか?と尋ねてくる。
あれだけワイバーンの孵化に立ち会いたがっていたキャシーがわざわざそう聞いてくるのは、多分何だかんだで彼女もまたオベリスクの件を内心では気にしていたからだろう。
もちろん何よりも優先してやらなければいけない事はあるのだが、それは他の誰かに任せるのは……いや仮にもリーダーである俺こそが責任をもってやらないといけないことだ。
むしろ下手したら手が離せなくなるかもしれないのでキャシーにはワイバーンの孵化作業の方に専念してもらった方がありがたい。
何せワイバーンがちゃんと育てばトライブの立派な戦力要因になりうるのだ。
更に見た目通りの力強さならば或いはアルケンやケツァ君よりも重くて大きな物を掴んで運搬できるかもしれない 。
……もしも実際にオベリスクに異常が発生して予想外のトラブルに見舞われることになっても、引っ越しから戦闘までこなせそうな便利生物が居れば対策に役立つことは間違いない。
そんな考えを告げつつ改めてワイバーンのお世話を頼むとキャシーは理解してくれたようで、今度こそ躊躇することなく孵化部屋へ向かう……前に何故か何度も深呼吸をし始めた。
一体どうして急に緊張している気持ちを落ち着けるような真似をしたのか不思議に思いついつい見つめてしまうが、そんな俺の視線に気づいたキャシーは周りを見回し近くに誰もいないことを確認すると、少しだけ俺を恨めしそうに睨みながら小さく呟いた。
誰かさんが同性でもどうのとか変な入れ知恵してきたお陰で変に意識してしまいそうですが、それでソフィアに入らぬ心配をさせたくは無いから何とか普段通り平静を装おうとしているのだと。
……無線の様子からしてソフィアはどうも一人で孵化部屋に籠っているようだったし、あんな話の後でソフィアと密室で二人きりになると考えたらいつも通りの態度を保つのは確かに難しいのかもしれない。
しかしだからと言ってこんなところで無駄に時間を使われても俺はともかく待っているソフィアの方も困るだろう。
だからあえて俺は仲間にした後でも油断できないギガノトの一例を口にして、同じぐらい獰猛なワイバーンならば孵化した直後でも目についた人に襲い掛かってくる可能性は零じゃなさそう……と呟いてみたところ俺が最後まで言い切る前にキャシーは凄まじい勢いで孵化部屋へと駆けだしていった。
……まあ口にしたことは嘘ではない、のだが孵化直後の幼体ならば基本的に採掘道具で殴ればあっさり倒せるほど貧弱なので拳銃とハゲワシを護身用に携帯しているソフィアは心配しなくても大丈夫のはずだ。
普段の動物に詳しいキャシーなら同じ考えに思い至りそうなものだが、ああも前後不覚な様子で走っていったところを見るとやっぱりキャシーはソフィアを……いややっぱりここから先は俺が踏み込む領域じゃないし考えるのは止めておこう。
それよりも今の俺が考えるべきこと、そしてやるべきことはただ一つ……ルゥちゃんに会って色々と確認することだ。
今回名前が出た動物
ファイアワイバーン
ライトニングワイバーン
ポイズンワイバーン
アルゲンダヴィス(アルケン)
ケツァルコアトルス(ケツァ君)
ハゲワシ