八百五十三頁目
確かにソフィアの言う通りにここに来る全ての人達と協力し合えたら人が生き残れる可能性が大幅に上がるのは事実だ。
それこそルゥちゃんのような幼子であっても安全に保護できるようになるだろうし、更にソフィアの計画通りに事を運べれば他のARKに対しても恩恵をもたらすことができるわけで、まさに理想的な展開だ。
だけど理想は理想でしかなく、現実的に考えればそんなに上手く行くとは思えない。
何せこれだけ仲間同士で想い合える関係を築けている俺達のトライブですら行動方針について何度も話し合うことになっていたし、実際に今俺と他の仲間との進む道は分かれようとしているのだ。
ならばさらに多くの人が増えて各々の思惑が入り混じるようになればもっと大きな不和が生まれるであろうことは簡単に想像できてしまう。
それにあまり考えたくはないが弱肉強食的な現状のARKの環境をむしろ好むような輩だって居てもおかしくはなく、そういう人達なら逆にソフィアの邪魔をするため敵対行動をとられても不思議ではないのだ。
だからソフィアの考え自体には確かに一理あるけれど、やっぱり慎重に事を進めた方が良いと忠告する。
特にモーリツさんに対して頼んでいるように他のトライブの人達も自分達のトライブ一つに合流させようとするのは危険すぎるから止めておくように告げる。
……まあ本当はこのARKから去る俺にはここへ残って環境を改善しようとしているソフィア達の行動方針に文句をつける資格などないのだが、それでも大切な仲間達が心配だからこそ最低限の忠告だけはしておくことにしたのだ。
尤もソフィアはこのARKから居なくなっても俺の事を同じトライブの仲間だと……何ならば自分達のリーダーだと思い続けてくれるつもりのようで、俺が言うのならと素直に頷いてくれた。
その上でソフィアはモーリツさんの様に交流を深めていく中で信頼できる相手だと判断できた人は勧誘してもいいかとか、他のトライブに対する現実的な交流の深め方とかを色々と相談してくるのだった。
何だか俺の想定した相談とは本格的に形が違ってきているが、ソフィアの熱意を見る限りこれもまた彼女のやりたい事であるのは事実のようだ。
実際にソフィアはよほどこのことを深く考えていたようで、トライブを一つにまとめるのが難しいのならば同盟と言う形で協力し合う形をとるやり方はどうでしょうかと相談してくる。
……ハンスさんやキャシーの時とは違ってまるで色気のない話になっちゃったけど、この調子だと案外ソフィアは恋愛沙汰よりも仕事、と言うかやるべき作業などに熱中するたちなのかもしれないな。
そんなことを思いつつソフィアの相談に乗るべく頭を働かせるが、正直なところトライブ同士のやり取りすらろくに経験していない身としては、まして同盟などと言うシミュレーションゲームでぐらいしか聞き覚えのない事を上手くやっていく方法などろくに思いつくはずもない。
しかしそんな俺に対して続けてソフィアはシャルル少年の様にお互いのトライブに人を派遣して様子を見る方法はどうかと尋ねてくる。
……まあいきなり人を派遣するのはどうかと思うが事前にある程度交流を重ねた相手であったり、或いは今現在間に入ってくれているモーリツさんが信頼できると判断したトライブに対してならば、実際に俺達とシャルル少年も上手く行っていることだしアリかもしれない。
ただそうするにしても問題は誰を派遣するかだが、やっぱり女子供は不味いだろうしかといって未来技術持ちのハンスさんを他所へやるのも……などと迷う俺にソフィアは、何ならば政略結婚的な形で自分が向こうに行くのもありかもしれませんね、なんて平然と当たり前のように呟くのであった。