八百五十五頁目
とにかくソフィアが政略結婚という概念に抵抗がない理由を理解した俺であるが、同時に彼女の言い方には違和感を覚えてしまう。
彼女は恋愛結婚を夢物語のようなものだと語ったが、確かにそれ自体は確かにソフィアの居た時代と暮らしを考えれば間違ってはいないのかもしれない。
しかし逆に言えば今この時、この場所においては……全ての文明が滅び去った遥かな未来であるこのARKにおいてはそんなものは常識でも何でもない。
ましてソフィアはここに理想郷を築こうとしているのに、恋愛結婚については幻想だからと言い切ろうとするところに何かチグハグさを感じてしまうのだ。
だけど当の本人は全くその矛盾に気づいていないようで……いや或いは何かしらの理由があって自分の恋愛は絶対に実らないものだと思い込んでいるのだとしたらどうだ?
それで実らない恋を割り切って、ここを理想郷にするという使命感のようなものを優先しようとしているとすれば納得できる気がする
同時に俺がソフィアの語る言葉に無理やり理屈づけているだけのような気もするのだが、これはキャシーとの話し合いの後でなければこんな考えはしなかっただろうからだ。
しかし今の政略結婚するのが一番の選択肢だと当たり前のように思っているソフィアの態度は、相手が相手だからと自分の気持ちを封殺するのが当たり前だと思い込んでいたキャシーに似通っているように見えた。
……いややっぱり逆にキャシーの話を聞いた後だからこそ俺が勝手にそういう考えに結びつけてしまっているだけかもしれない。
どっちが正しいのか俺には判断がつかない、だけどもう居なくなる身なのだから間違ったことを言って多少呆れられても気にする必要は余りない。
むしろここではっきりさせておいた方が後顧の憂いを断てるわけで、それこそが俺が一人一人と話し合っている理由でもあるのだからここで躊躇するわけにはいかない。
だからこそ俺はソフィアにも、本当に恋愛そのものに興味がないのか尋ねてみることにした。
すると今回は話の流れもあってかハンスさんやキャシーのようにトライブ内で暗黙の了解のようになっていた恋愛に口を挟んでもソフィアは取り乱したりはしなかった。
ただ少しだけ困ったような表情をしたかと思うと駆け回っているワイバーンの幼体たちに視線を視線を移すようにして顔を背けてしまう。
そうしてしばらくの間、黙り込んでいたソフィアであるが少しして息を吐くと……色んな物語でも素敵な事だと謳われている恋愛沙汰に興味が無いわけないじゃないですか、と小さく呟いた。
……普段のソフィアならば自分の趣向を語る際は楽しそうにしているというのに、その時の言葉は弱々しく寂し気ですらあった。
今度こそ間違えようのないほどキャシーの様子に重なって見えて、やっぱりソフィアも何かしら訳ありで自分の想いを胸に潜ませたままにしておこうとしているのだと俺は半ば確信するのだった。
今回名前が出た動物
ファイアワイバーン
ライトニングワイバーン
ポイズンワイバーン