ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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第873話

八百六十頁目

 

 ある程度感情を吐き出したお陰かソフィアは荒い息を吐きながらも少しずつ気持ちが落ち着いてきたらしい。

 そんな彼女に改めてキャシーに告げた事と同じような内容を告げてみるが、ソフィアはキャシーとは違って余り驚いた様子も見せなかった。

 何でも彼女は色々な物語を読んでいるだけあって同性愛に興味を示す者は一定数いることもわかっており、そのため余裕のできている未来においてはある程度は同性愛が許容されるであろうことは予見していたようだ。

 

 ただ同時に少数派である事実は変わらないであろうことも理解しており、だからこそ自分だけでなくキャシーまでもが同性に対して恋愛的な目を向けられる人である可能性は奇跡のようなもので、そんな上手い話は無いと諦めているようだ。

 そもそもソフィア自身もキャシーに出会うまでは同性である女性相手にこんな想いを抱くとは欠片も考えていなかったことあり、余計にその考えに拍車をかけているらしい。

 それどころかゴーレムの捕獲などで二人で活動する時も結構息が合っているハンスさんと良い雰囲気になりつつあるのでは、なんて勘繰りもしているようだ。

 

 ……ぶっちゃけキャシーの態度を思えば確定ではないが恐らくは……と思わなくもないが仮にも誰にも漏らさないと約束している相談内容なだけに伝えるわけにも行かない。

 何とも言えないもどかしさについ顔をしかめそうになるが、洞察力の高いソフィアにしては珍しいことに自分の話に夢中なようでそんな俺の様子に気づくことはなかった。

 とにかくそんなソフィアにすると大事な仲間である二人が結ばれるのならば複雑ながらも喜べるだろうし、そうなった時に二人の間に出来るであろう子供には幸せになって貰いたいからこそこのARKの環境を少しでもマシにしておきたいとかまで考えているようだ。

 

 ……なるほどな、好きな人が少しでも幸せになるために自分の想いを押し殺して協力するなんてシチュエーションは物語でよくありそうな気もするし、これもまたソフィアが政略結婚などに前向きな理由になっているのかもしれない。

 究極的にそれがソフィアの判断でありそうすることでソフィア自身も幸せになれると当人が納得しているのなら俺に口出しするところではないだろう。

 ただ逆に自分の幸せまでも犠牲にするつもりであるのならばやめるようにと……仮に想いが成就したとしてもその陰で大事な仲間が不幸になってしまっては俺達は誰も喜べはしないだろうからと、それだけははっきり伝えておいた。

 

 尤もソフィア自身もその辺は考えてあるようで、ちゃんとベストは無理でもベターな幸せは追求しますと宣言してくれた。

 本人も納得しているわけだしこれで相談は終わりにしても問題はない……だろうけれど、俺はほんの少しだけ納得することができない点があった。

 ベストは無理でもベターな幸せを目指すという言い方的に、やっぱりソフィアはキャシーへの想いは既に諦めるつもりでいるようだ。

 

 だけどここへ理想郷を作ろうと意気込んでいる張本人が、現実的に考えて実りがたいからと自分自身の想いは最初から諦めてしまうのはやっぱり矛盾しているように思われた。

 確かに同性のキャシーが相手では想いが実る可能性は……まあ実際のところはどうであれ傍から見たら低いであろうことはわかるし、下手に気持ちを打ち明けたりして関係が変わるのも恐ろしい事だろう。

 だからと言って失敗するだろうと決めつけて何も行動しないのは、ある意味でここに理想郷を作るなど現実的に考えて無理だと諦めていたモーリツさんと同じである。

 

 しかし彼に対してソフィアは元の時代の常識が通じないここであれば何とかなるかもしれないからやってみようと意気込みを語ってみせたのだ。

 そう口にしてしまった以上はソフィア自身も可能性が完全に零でないうちは自分自身の想いが実る可能性をきちんと最後まで諦めずに追い求めなければならない義務、と言うのは言い過ぎかもしれないが責任のようなものがあるのではないか……と指摘する。

 流石にこんな事を言われるとは想像もしていなかったソフィアは今度こそ驚きを露わにするが、自分でも薄々思うところがあったのかモゴモゴと声にならない声こそ漏らせども反論してきたりはしなかった。

 

 ……本当はただ単純に好きな人への想いを諦めるような真似をしてほしくなくてそれっぽい理屈をこねてしまっただけなので、正直何も言い返されなくてホッとする。

 だけどこうでもしておかないとトライブ内の人間模様が絶妙なバランスを取っていることもあって、下手をしたらすれ違いの果てに誰一人としてベストな幸せを掴めなくなるかもしれない危険があったのだから仕方がない……と自分に言い聞かせる。

 果たしてしばらくの間、呻き声をあげていたソフィアであるが最後に盛大にため息をつくと、ちょっと考える時間が欲しいので今日のところはここまでと言うことで……と何とも言えない返事をされてしまうのであった。

 

 俺としてもこれ以上何を言えばいいのかも分からないので丁度いい様な気もするし、だけどこんな機会そうそうないから今のうちにもう少し話しておくべきではと言う思いもある。

 しかし今度はこっちを見ていたこともあってそんな様子を見抜いたソフィアは、これ以上は勘弁してほしいとばかりに慌てた様子で話を逸らそうと今更になってまたしても昨夜の事に言及してくる。

 それよりもあんな遅くまでハンスさんと二人で何をしていたのかと聞いてくるソフィアに、ヤレヤレとばかりに首を振りつつ別に大したことは無いと答える。

 

 尤も内心ではハンスさんの相談内容を漏らすわけにも行かないのでちょっと困りながらどう誤魔化そうか考えていたりする。

 そんな俺を見てチャンスだとでも思ったのかソフィアは更に、わざわざアルケンまで連れ出してるところを見ると意外と大事な隠しがあるんじゃないかと今度は一転してこちらを尋問せんとばかりににじり寄ってくる。

 だけど俺はソフィアの言葉に違和感を覚えて、逆に何でアルケンに乗って出かけたと想っているのかと尋ね返してしまう。

 

 俺とハンスさんは確かに昨夜は夜更かしこそしていたが部屋から出たりはしておらず、ましてアルケンに乗ったりなどはしていない。

 しかしソフィアが言うには確かに孵化部屋で徹夜して見守っていたキャシーとシャルル少年を含む三人ともが壁越しにアルケンが鳴き声を上げながら力強く羽ばたいていく音を聞いたという。

 だから誰かが出かけたのだろうと判断したソフィア達は夜中に外へ行くのならば危険性を考えて一人で出るはずがないので俺とハンスさんが夜更かしして何かしようとしているのだと見当をつけていたようだ。

 

 ようやくソフィア達が俺達の夜更かしを言い当てれた理由が分かったが、もうそんなことはどうでもよくなるほど俺の胸は再び湧き上がってきた不安で塗りつぶされようとしていた。

 何せ孵化部屋に居た三人が三人とも聞いたということは昨夜にアルケンでトライブの中に居た誰かが飛び立ったのは間違いが無いけれど、あの時何をしていたのか判明していないトライブの人間はたった一人……ルゥちゃんしかいないのだからっ!!




今回名前が出た動物

ロックエレメンタル(ゴーレム)
アルゲンダヴィス(アルケン)
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