八百六十七頁目
後悔の感情は後から後から湧いてくるが、思いっきり深呼吸して強引に吹き飛ばす。
先ほど考えた通り今は悔いている場合ではなく、まずは現実に起きていることへの対処を考えるべきなのだ。
だから俺が言えた義理ではないと思いつつ皆にも悔やむのは後回しにするよう一喝して正気を取り戻させる。
そしてもし本当にルゥちゃんがエレメントに汚染されているとして助ける方法はあるのか、未来人のハンスさんに意見を求める。
他の皆の視線もハンスさんに集中する中で彼は物凄く思いつめた表情で口を開いた。
曰く、汚染の度合いにも寄るから何とも言い難いが普通に誘惑されているだけならば気を強く持つか、或いは強引に接触を断つことで影響が抜けることもあるという。
これに関しては実際に俺も別の衝撃を受けて自分を見つめ直したことで立ち直れた経験があるだけに納得できる答えであった。
しかし続けてハンスさんは言いにくそうにしながら、もしも直接何かしらの方法で体内にエレメントを取り込んでしまっている場合は非常に厳しい事になると言う。
もうその時点で衝撃を受けてしまう俺達に、更にハンスさんは辛そうに顔を歪めながらも、エレメントに生き物が浸食されたらどうなるのかも説明し始める。
曰く専用の設備を使って上手く人に順応させた場合を除けば、エレメントに汚染されるとその精神や意識はハイブ・メンタリティなる集合意識の影響を受けるようになり、何かに操られるかのようにそれまでとは異なる異質な動きを始めるというのだ。
ハンスさんが何を言いたいのか即座に悟った俺は絶望的な心境に陥り思わず崩れ落ちそうになる。
……ルゥちゃんは何者かに諭されるかのように不審な行動を始めているわけだけど拠点から一人で外へ出なかった以上は黒幕のような存在と接触する隙はなさそうだと思っていたが代わりにエレメントと接触する機会はあったわけで……一連の全てがエレメントを体内に取り込んだ影響だとしたら辻褄がこれ以上ないほどに合ってしまうのだ。
思わず本当にルゥちゃんを助ける方法が無いかハンスさんに詰め寄りそうになるが、やっぱり彼は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にしながら首を横に振るばかりだった。
実際に未来人達は技術者も設備も整っていた当時ですら地球に根付いたエレメントを除去することができず、結果としてこのARK計画やジェネシス計画とやらに全てを託すことしかできなかったのだ。
だからハンスさんの言うことがこれ以上ないほど正しいと理解できてしまうけれど、どうしても俺は納得できない……いやするわけにはいかなかった。
だってもしそうだとしたらもうルゥちゃんを助けることはできない事になるのだから。
俺だけでなくキャシーやソフィアもその事実を受け入れがたいようで泣きそうな顔でハンスさんに詰め寄るけれど、やっぱり答えは変わることはない。
ただ一つだけ、自分では無理だけれどもっと頭のいいサンティアゴのような人間や或いは専用の設備で進化したホモ・デウスやらトランスヒューマンのような存在ならば何か思いつくかもしれないと呟いた。
……まさに藁にすがる様な心境だがこの砂漠には多くの人が送られていることを思えば、そんな頭のいい人が見つかる可能性は零ではない気がしてほんの少しだけ光明が見えたような気がする。
尤もそのホモ・デウスやらトランスヒューマンなる良く分からない存在に関してはそもそも上位存在的なものでありここに送られてくることはない上に接触することすら難しいらしいのでそっちは期待が……あっ!?
ま、待てよっ!? そういえばフローラに関する形で何度か接触していたあの『待つ者』とやらその上位存在的な奴ではなかったかっ!?
思わず救いを求めるように右手首の鉱石に視線を移すと浮かび上がってきたフローラが必死に何かを訴えかける様な仕草を見せてくる。
俺もまた必死になってその仕草が何を意味するのか解明しようとしたところ、どうも俺達の居るこのARKそのものを指し示そうとしているようであった。
……何を言いたいんだフローラは? このARKのシステムにその待つ者とやらに干渉できる機能があるというのだろうか?
今回名前が出た???
汚染された……